東京第3の副都心・池袋
急ピッチの再開発で街が変わる!
多彩なポテンシャルを秘めた発展途上のビジネス街
新宿、渋谷と並ぶ3大副都心の1つとして商業機能を集積してきた池袋は、東京と埼玉をつなぐ"ハブ機能を果たす街"と言われてきました。1978年にサンシャイン60を核とした「サンシャインシティ」が開業。1990年には東京芸術劇場が開館するなど独自性の高い文化・交流施設が生まれましたが、ビジネスエリアとしての実在感は決して高くありませんでした。
そんな池袋のターニングポイントになったのが2001年のJR湘南新宿ラインの開業です。これにより、神奈川との交通利便性が格段に向上。さらには2013年の東京メトロ副都心線と東急東横線との相互運転開始によって、池袋はビジネス拠点としても注目が集まります。つまり、池袋がビジネスエリアとして存在感を示し始めたのはここ10年足らずのこと。しかしながらその勢いはすさまじく、急ピッチで再開発が進み、街の整備と活性化は今なお止まる気配がありません。今回は豊島区が公開した『池袋駅周辺まちづくり動向』を手引きとして注目エリアをくまなく散策。現在の、そしてこれからの池袋をレポートします。
旧豊島区役所跡地をビジネスと文化の先端エリアへ!【東池袋エリア①】
2015年5月に豊島区役所本庁舎が東池袋1丁目から南池袋2丁目に移転したことを皮切りに、池袋は街全体を刷新する大規模再開発が本格的に動き出しました。そのシンボルとなったのが豊島区旧庁舎跡地活用事業「ハレザ池袋」の竣工です。この事業は、旧豊島区役所と旧豊島公会堂を含めた約9800㎡の跡地を全面的に整備するもので、8階から32階にオフィスが入居するハレザタワー(オフィス棟)、大小8つの劇場を備える複合文化施設(ホール棟)、としま区民センター(公民館)の3つの施設と、隣接する中池袋公園を併せて再生する池袋で最大級の再開発事業となりました。
意外にも、ハレザタワーの完成まで池袋には大規模なオフィスビルの建設計画がほとんどありませんでした。その理由は、東池袋は繁華性が極めて高い大規模商業エリアであるため、開発用地の確保が困難だったことが挙げられます。(商業地の繁華性は収益性を判定する大きな要因であり、一般的にオフィスビルや金融機関が立地することは地域の繁華性を失わせる要因になると考えられています)
事実、以前の東池袋は、どこを歩いても繁華街の印象が強く、歓楽街の一面も持ち合わせていました。ハレザ池袋の開発計画は、そうした池袋の環境改善に一石を投じる目論見もあり、2020年7月に全面整備されたこのエリアからは、繁華街や歓楽街のイメージは一掃され、見違えるほどクリーンな佇まいを見せています。これに追従するよう、近隣では新たな再開発計画(東池袋一丁目地区市街地再開発事業)がスタートし、ビジネスエリアとしての外堀を固めようとしています。
グリーン大通りのウォーカブルシティ化【東池袋エリア②】
2020年6月に、ウォーカブル推進法(都市再生特別措置法)が成立しました。ウォーカブルシティとは、歩行者優先の街づくり(街路はもちろん公園を含む公共の空地全般)のこと。歩行移動の利便性だけでなく「居心地のよさ」や「働きやすさ」なども大きく関係しており、東京都心部では現在、大規模ターミナルを再編するコンセプトとして「ウォーカブルシティ」が盛んに言われるようになりました。
こうした中、今年1月、豊島区が「池袋駅東口と西口をつなぐウォーカブルなまちづくり」を進めることを発表。その計画の1つが、駅東口から東方向に真っ直ぐに伸びるオフィス街「グリーン大通り」のウォーカブルシティ化です。この計画は「まちなかリビングのある日常」をコンセプトに、南池袋公園を軸として、東池袋の中心地に、居心地良く過ごせるマーケットやストリートファニチャーを共存(今後の常設化)させようという社会実験で、街の回遊性を促す目的もあるそうです。
区がこうした目的を掲げる背景には意外な事実があります。池袋駅はJR 東日本ほか鉄道各社のターミナル駅で1日平均の利用者が約260万人。新宿駅、渋谷駅に次ぎ3番目に多いと言われています。しかしながらその多くは乗り換え客で、推計の乗降客はその4分の1程度と見込まれています。加えて、複数の大型百貨店が駅に直結しているため、買い物はほぼそこで完結してしまい「街の回遊性が損なわれている」というのが実情のようです。
したがって、グリーン大通りのウォーカブルシティ化は「歩行者優先の心地よい街づくりという」大義名分と同時に、駅から市街地へ鉄道利用者を取り込むためのタウンマネジメントであり、街に回遊性と収益を生み、オフィス街としての活性化を図る、現実的な手段と考えることが出来るでしょう。
ダイヤゲート池袋と南側連絡通路の完成【西池袋エリア】
西武鉄道の旧本社ビルをリニューアルして、西武池袋線上空を東西間で跨ぐように建設されたオフィスビル「ダイヤゲート池袋」が2019年4月に竣工しました。このビルは地下2階・地上20階で、基準階のオフィスフロアは、竣工当時"池袋エリアで最大"となる約 2100㎡。池袋の新たなランドマークとして、ビジネスエリア南池袋のプレステージを上げることに大きく貢献しました。
ダイヤゲート池袋の地上2階部分に設けられた「ダイヤデッキ」は、大規模災害時に帰宅困難者の一時滞在施設(最大約2000人)としても機能する「防災とバリアフリー」のビル構造が話題になりました。さらに着目すべきは、豊島区が構想している「池袋駅東西連絡通路」の南側通路とダイヤデッキが接続され、池袋駅の東西を結ぶ歩行者ネットワークが強化されたことです。
南側通路の完成によって、周辺エリアで働くビジネスマンのアクセシビリティが劇的に改善されたことは言うまでもありません。池袋駅を軸として、南池袋から西池袋のビジネスエリアを行き来するネットワークが快適化され、双方のビジネスエリアに大きなメリット生み出しています。
これからの池袋を占う東西注目の再開発
●東池袋一丁目地区市街地再開発
東池袋一丁目45番~48番のエリアに計画されている再開発が、東池袋一丁目地区第一種市街地再開発事業です。予定では2023年度中に既存建物の解体に着手、2026年度の竣工を目指しています。このエリアは、土地が細分化されていて、築30年以上と思われる小規模ビルが密集しているのが特長です。
このエリアで計画されているのは、地上33階、地下4階、高さ約180mの大型複合ビル。東池袋一丁目地区市街地再開発組合によると、「土地を高度利用してエリアを刷新することで、安全性を高めた歩行者ネットワークの整備を図り、池袋ならではの国際的なアート・カルチャーの発信拠点を創出し、賑わいのある拠点形成を目指す」とのこと。多様な個性の融合によって、エリアの活性化が大いに期待される再開発事業です。
●池袋駅西口地区市街地大規模再開発
池袋駅西口周辺は老朽化した雑居ビルが多く、街の賑わいや魅力を生み出しにくいエリアと言われてきました。遡ること、1985年のバブルの真っ只中にも、再開発構想が提出され早急な整備の必要性が示されましたが、用地確保が困難を極め、実現せず現在に至っています。そうした中、2021年8月に、池袋西口の顔でもあった「池袋マルイ」が閉店。これを機に、いよいよこのエリアでも大規模な再開発計画が具現化し、その青写真が公開されました。
再開発計画の対象地区は、池袋駅西口に位置する東武百貨店(メトロポリタンプラザビルを除く)、西口公園、バスターミナルを一体で開発するというもの。約5.9haの開発区域に3棟の超高層ビル(低層部が商業施設、高層部がオフィス・住宅・ホテル)が建設されます。
加えて、再開発区域内の歩行者空間をテコ入れして、パルコ側にも池袋駅東西連絡通路(北側通路)を設け、駅東西の快適な歩行者アクセスが可能に。ただし、池袋駅東西連絡通路(北側通路)は、西口再開発の整備状況を踏まえて整備することとされており現在は未着手となっています。いずれにしても、これら一連の再開発が完成すれば、副都心と言われる反面、変化に乏しく古びた印象が否めなかった池袋駅西口駅前のイメージが、劇的に変わることは間違いありません。
市街地再開発事業に便乗!建設費0円の新庁舎【南池袋エリア】
老朽化が著しく安全性の担保が課題となっていた旧豊島区役所は、2015年5月7日に東京メトロ有楽町線「東池袋駅」の西側に移転。下層階部分を区役所として活用し、上層階には49階建てのマンションを設けるという日本初のマンション一体型本庁舎になっています。
この新庁舎は、東池袋駅に地下で直結しており、災害への備えとして100年以上の耐久性を持つ超高強度コンクリートを採用しており東日本大震災級の地震にも耐えることが可能。また、建物の外観には"エコヴェール"と呼ばれる植物のパネルが配され、建物全体が樹木のように見えるデザインになっています。さらに敷地内には広場が設けられ、屋上には緑の空間も整備されるなど、「用事がなくても訪れる価値がある区役所」というのが売り文句だそうです。
片や市民からは、「こんな大盤振る舞いをして大丈夫なのか」と区の財政を危ぶむ声も挙がったそうですが、この新庁舎は市街地再開発事業として建設されたため、区の税金は一切使わず「実質ゼロ円で建設した行政施設」なのだとか。物珍しさに、竣工後しばらくは国内外からの視察団が訪れていたそうです。
現在、新豊島区役所新庁舎の東側では「南池袋二丁目C地区市街地」の再開発が進んでいます。この再開発事業で計画されているのは、52階建て(高さ190m・総戸数878戸)の北街区と、47階建て(高さ185m・総戸数620戸)の南街区から構成される超高層ツインタワーマンションを軸とした商業・公共公益施設を含む大規模複合施設です。計画では、快適な歩行者空間の整備が掲げられており、「用事がなくても訪れる価値がある区役所」の存在感と相まって、中心街から外れたこのエリアに回遊性を生むとともに、賑わいの創出が期待されています。
国際アート・カルチャー都市を実現!池袋4つの都市公園
豊島区は、国際アート・カルチャー都市構想の基本コンセプトである「まち全体が舞台の、誰もが主役になれる劇場都市」の実現に向け、2016年から2020年にかけて4つの都市公園の整備を進めてきました。広々とした芝生とカフェを備えた「南池袋公園」や"アニメの聖地・池袋"を発信する拠点として生まれ変わった「中池袋公園」、演劇やオーケストラにも対応した野外劇場を設けた「池袋西口公園」、防災公園としての機能だけではなく、コミュニティの形成も考えられた「イケ・サンパーク(としまみどりの防災公園)」。
これら4つの都市公園について豊島区は、「4つの公園が街を変える」を合言葉に、四季を通じて多彩なイベントをおこなっていくことを標榜。市民の憩いやレクリエーションの場となるばかりでなく、池袋で働くビジネスパーソンにとっても、心和む都市景観や都市環境を提供しています。さらに防災性の向上や豊かな地域づくりに貢献する交流空間など、多様な機能を有する施設として魅力を発揮しています。
■記事公開日:2022/08/25 ■記事取材日: 2022/08/16・19 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=編集部ライター・吉村高廣 ▼撮影=吉村高廣 ▼イラスト地図=KAME HOUSE
▼取材資料=豊島区都市計画まちづくり・池袋駅周辺まちづくり動向/東池袋一丁目地区第一種市街地再開発組合=池袋一丁目地区第一種市街地再開発事業再開発組合設立/グリーン大通りエリアマネジメント協議会=グリーン大通り再生ビジョンおよび実現戦略/独立行政法人都市再生機構=南池袋二丁目C地区第一種市街地再開発事業組合設立