2016年3月、新幹線が道南まで開通。
函館を中心とした新商圏誕生が誕生か!?
港町として栄えた函館
明治維新前後から近代文明の波にさらされてきた北海道ですが、最初の舞台となったのは函館です。いまでこそ札幌が中心地ですが最初は函館でした。函館は、ペリー来航以前から漁船や貨物船の寄港地、海産物交易の集積地として、また横浜、長崎とともに国際貿易港として育ってきたため、本州との関わりを深めるというよりは、自ずと独立独歩で海運都市を発展させてきたという背景があります。
ロシアを含め諸外国との交易、またオホーツクや日本海、太平洋への遠洋漁業などで、函館は十分に経済が回っていました。その頃の繁華街は港に近い函館駅前・大門通地区や海峡通界隈でした。水産業や海運業の最盛期には、函館駅前・大門通は活況に満ちていたと言います。遠洋から寄港した船員が大金を落としていったそうです。
しかし漁業や海運業に陰りが見え始めると、函館はしだいに海運都市から観光都市へとシフトしていきます。同時に、五稜郭周辺にオフィスビルや商業施設などが建ち並ぶようになると、函館の官公庁や銀行、新聞社、企業の支店や支社などが集まり始め、やがてビジネス街を形成していきます。
点と点を結ぶ線で発達してきた道内経済
「観光都市の函館は札幌とセットなんです」と話すのは、函館市観光部観光推進課(以下、函館観光推進課)。つまり札幌・新千歳空港から函館へ、また函館から札幌へというのが観光視点で捉えた人の流れになっていると言います。この傾向は旭川も同じで、北海道で共通しているのは空港が近くにある都市はおおむね活況があるということです。
北海道は都市と都市との繋がり、すなわち点と点を結ぶ線で発展してきました。土地が広いということもありますが、空港を中心とした都市間の繋がりは、道内の経済流通では重要な生命線になっています。函館観光推進課が話した「札幌とセット」という意味がよく分かります。東京ー札幌ー函館という"線"上での人や物の流れを活発化することが、道内経済を上向きにさせる原動力となっていました。しかし2016年3月の新幹線開通によって、これまでの点と点、線での道南の経済ラインが変貌するかもしれません。
仙台から約2時間40分で函館
新幹線が開通すると・・・函館観光推進課によると「仙台から2時間40分ほどで新函館北斗(新幹線の駅)に来られるという時短は、観光面では相当にプラスになると思います」。「青函圏周遊博・ぐっとくる旅(青森・弘前・八戸・函館)というキャンペーンを催す予定です」。これまでの点と点、そして線で捉えていた観光が、面に広がるイメージだと話します。
「青函一体の"面"での観光展開はやがてビジネス商圏となるはずです。新幹線はその動脈になります」と北海道経済連合会・地域政策グループ(以下、連合会)でも、新幹線開通後の経済的効果を期待していました。函館市内を見てみると、すでにマンションやオフィス棟との複合ビルなどの建設も始まっています。観光の街、函館は、新幹線開通を起爆剤に、北海道最南端のビジネス経済都市になる日も近いのかもしれません。
インバウンド数が大きく伸びる予想
「道南の枠を超えて、青森、岩手、宮城と経済連携がとれやすくなる。新しい商圏"面"が生まれる可能性は高い」。連合会の未来予想図には、道南&東北という大きな商圏が描かれていました。「道南は内浦湾に注目されがちですが、これからは奥尻を含めた日本海側にも脚光を浴びさせていきたい」と岩手、宮城からの観光動向に道南の魅力再発見を結びつけたいと語ります。
東北との一体感を模索するのは函館観光推進課でも同じです。さらに「函館と東北全体が一体化された観光エリアとして認識されれば、インバウンド数は大きく伸びる」と予想しています。函館観光推進課によると、平成20年度は約2万人の台湾からの宿泊客が平成26年度は約22万8千人と急伸していると言います。特に台湾との定期便を持つ函館空港を入り口に、函館から新幹線で青森へ、そして青森から新幹線で函館へという流れは加速するかもしれません。さらにマレーシア、天津、杭州からのチャーター便の運航なども好調ということで、インバウンドの増加は期待できそうです。
高まる道民の期待度
北海道の南端と本州北端(青森県)との間にはだかる海峡、津軽海峡。この海峡の海底下にトンネルが開通したのが1988年(昭和63年)です。それまでは旅客船・貨客船・貨物船・フェリーなどが運航されていました。「はるばるきたぜ函館、さかまく波をのりこえて」と演歌の歌詞に登場したのが1965年11月。トンネル開通までの間、いかに函館が"はるばる感"があったのかが分かります。
「青函トンネルが開通しても、北海道と本州間の気持ち的な距離は短縮されたとは言い難い」と話すのは函館在住のタクシードライバー。「関東、東北から鉄道で北上し青函トンネルを通って北海道へ来るよりも、飛行機で道内の空港に入った方がはるかに便利で、早い。それは今でもかわらない」。北海道が、道内自己完結型で経済発展を遂げたのは、四方を海に囲まれ、ある意味、本州と物理的な距離があったからかもしれません。
それだけに新幹線という超特急列車が本州と函館間を走るという精神的な期待度は、道民の多くの方には相当に高いものとして受け止められているようです。
東京・函館でキャンペーンを展開
2016年3月開通が決まった北海道新幹線。函館観光推進課の情報によれば、例年の開催期間を延長して市内でのイルミネーションを展開(はこだてイルミネーション、五稜星の夢、函館駅前広場イルミネーションなど)。開通までのカウントダウンに花を添えます。また毎年冬の恒例になっている海の上に浮かぶクリスマスツリーの点灯時は毎日、花火を上げる予定だそうです(11月28日から)。
連合会によると、2013年3月に「北海道新幹線開業戦略推進会議」が設立。オール北海道とも言える官民連携で新幹線開通を応援。その推進会議が、北海道新幹線や道内の観光・物産など様々な情報を発信するため、東京駅を北海道一色に染め上げる「東京駅スペシャルジャック」を実施(2015年11月13日)。初の東京駅ジャックで、北海道新幹線の認知度は相当に高まったようです。また道内の銀行が官民連携ファンド「青函活性化ファンド」を2014年に設立し、北海道と青森との経済融資への動きを積極的に展開するなど、来春の新幹線開通に向けての盛り上がりは、徐々にではありますが確実に高まってきているようです。
取材手記
旅行ガイドブックを見てみると、「札幌・小樽・函館」というのが、ひとくくりのコースになっています。「青森・弘前・八戸」というのも、コースでまとめられています。
おそらく来春からは「函館・青森」というガイドブックのタイトルが増えるのではないでしょうか。さらに「盛岡・青森・函館・札幌」というのも魅力的です。まずは観光面での新商圏を得て、2030年度末の新小樽、札幌開通へ弾みをつけたいところ。
2016年1月、2月と寒さが厳しくなる道南ですが、暫くは目が離せないホットな北海道になっていくようです。編集部ライター・渡部恒雄
■記事公開日:2015/12/01
▼編集部=構成 ▼編集部ライター・渡部恒雄=文・撮影 ▼KAME HOUSE=イラスト地図 ▼北海道新幹線開業戦略推進会議写真等=北海道経済連合会地域政策グループ ▼青函キャンペーン写真等=函館市観光部観光推進課