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ビジネスエリア特集 Vol.7 沖縄県那覇

那覇新都心とIT企業誘致から生まれる
新しい沖縄ライフスタイル。

分散か広域集約化か

人口増加に伴い過密化が進む県や市の都心部において、中心市街地に集約した都市機能の一部を郊外の新都心などに移転させる自治体は珍しくありません。しかし、移転先の新都心と中心市街地との距離が離れすぎたり、また二点間を結ぶ交通網の整備が遅れてしまい都市機能が分断されるとなると、移動コスト面から非効率だけでなく、住民からは使い勝手の悪い不便な都市というレッテルを貼られてしまいます。
都市機能を郊外に拡散させることなく、中心市街地を軸に広域的サービスを図ることはできないものだろうか。海に面した都市であれば海を埋め立てての"臨海都市"は想像できますが、陸続きにおいて中心市街地と隣接した広い土地を求めるのは、そう簡単なことではありません。
沖縄県那覇ビジネス街 沖縄県那覇ビジネス街 沖縄県那覇ビジネス街 沖縄県那覇ビジネス街

広域集約化を生み出した那覇新都心

沖縄県の県庁所在地である那覇市でも、人口の増加、県庁前から国際通りにかけての中心市街地の過密化、モータリゼーションの進展による渋滞や増化する交通量に対応できない道路などが原因で都市機能が低下するのではないか、という懸念がありました。このような背景の中で、1987年(昭和62年)5月に全面返還された米軍牧港住宅地区の跡地を造成したのが那覇新都心でした。

那覇新都心は、那覇市の北西に位置し中心市街地と近接しているため都市機能を更新させるには十分な至近距離にあり、多くの都市に見られる空間的な制約を見事にクリアすることができた稀なケースと言えます。

「那覇新都心は公園、緑道などを中心とした、これまでの沖縄には見られない市街地整備となりました。県庁や市役所にも近く、まさに奇跡のエリアです」と話す那覇市都市計画部市街地整備課(以下、市街地整備課)。この至近距離が都市機能の分散化ではなく、全国でも数少ない広域集約化を可能にした都市になったと言っても過言ではないかもしれません。
沖縄県那覇市役所

中心市街地と近接したロケーション

このように那覇新都心の最大の特長は、中心市街地と近接したロケーションです。沖縄都市モノレールゆいレール"県庁前駅"から新都心の玄関口となる"おもろまち駅"までは約3キロ、約7分と至近。那覇空港まで約5キロ、那覇港新港ふ頭まで約1キロ。さらに三方を幹線道路に囲まれているなど、交通の高い利便性が保証されています。

この距離が、都市機能を密接に連携させ、公共・行政機関、金融機関、IT系会社など多くの企業が那覇新都心に集約されました。現在、那覇第2地方合同庁舎、沖縄労働局、職業総合庁舎、那覇市水道局、なは市民協働プラザなどの行政機関のほか、沖縄振興開発金融公庫、日本銀行那覇支店、ITなどのインキュベート施設がシビックコア地区として中枢ゾーンを形成。またIT関連企業の沖縄支店、製薬会社やビール会社の那覇支店、旅行会社やリゾート開発会社のオフィスのほか、人材センターやコールセンターが入居するビルが見られます。
那覇新都心

沖縄の新しいライフスタイル

「まずは公園、緑道などを中心に添え、良好な都市景観や住宅環境に配慮した地区の整備が考えられました。地区のほぼ中央に位置する総合公園は沖縄の自然をふんだんに取り入れた公園です。また総合公園は防災公園としても位置づけられています」と那覇新都心について市街地整備課は話します。

都市再生機構による分譲住宅地では、スージグヮー(沖縄の方言で細道)を模した歩行者専用道路やチンマーサー(集落の入り口という意味でコミュニケーションスペース)を配するなど、在来の伝統と風土をモチーフにした環境を形成しています。

「これまでにあまりみられない市街地整備ということもあって、県内からの住み替えのほか県外から移住してきている方も多いように見受けられます」と市街地整備課は推測。沖縄の新しいライフスタイルが、この那覇新都心から生まれつつあることを示唆していました。
那覇新都心

マルチメディアアイランド構想

沖縄における新しいライフスタイルの創世は、この那覇新都心からだけではないようです。沖縄県はマルチメディアアイランド構想を1998年(平成10年)9月に策定。積極的に情報通信関連企業の集積を図ってきました。コールセンターなどの情報サービス系企業の誘致からコンテンツ制作やソフト開発の企業誘致へ、情報産業集積による雇用創出の機会が図られてきました。

沖縄県商工労働部情報産業振興課(以下、情報産業振興課)によると「平成15年の雇用実績は約7千人でしたが、平成27年1月現在では約2万6千人の雇用を創出しています。立地企業は約4.5倍の346社にもなります。県外から流入するITのエキスパートの元で、県内の若者層の雇用機会は増加しています」と県の雇用状況を分析。さらに「県外からIT系企業の方が多く来られ、こうした方々が新しい沖縄のライフスタイルを提案しているのではないでしょうか」と述べ、これまでにない沖縄の新しいスタイルが、那覇新都心だけでなく、県全体の産業振興や雇用にも見られると話していました。
美しい沖縄の海とハイビスカス

IT企業が注目する沖縄県

「IT系企業の仕事環境はどうしてもインドアになりがちです。沖縄は県全体がリゾートです。つまりリゾートで仕事ができるということで、極めて良好なクリエイティブ環境がすでに用意されているわけです」と話す情報産業振興課が強調する仕事環境の優位性を具現化したのが、リゾート&ITを基本コンセプトにする沖縄IT津梁(しんりょう)パークです。

津梁(しんりょう)とはアジアとの架け橋を意味する言葉です。「この言葉の通り沖縄県では将来、県をアジアにおける国際情報通信拠点として位置づけています。その形成を現在目指しており、2012年(平成24年)9月に策定した沖縄21世紀ビジョン基本計画の一部となっています」と、沖縄IT津梁パークの重要性を話します。

「場所を選ばないIT関連産業を観光と並ぶリーディング産業として産業振興の中心として位置づけることは、沖縄県の自立的な経済発展にはプラスになる」と抱負を語ります。また「マルチメディアアイランド構想の延長線上にある"おきなわSmart Hub構想"では、沖縄県だけでなくアジア太平洋地域におけるIT分野のハブ機能を充実させたい」、情報産業振興課では「計画がスムーズに実現しており新たな構想に取り組んでいる」と話します。
沖縄IT津梁(しんりょう)パーク

おきなわSmart Hub構想

ではなぜ沖縄にIT企業が立地しているのでしょうか。まずは豊富な労働力があげられます。情報産業振興課のホームページによると「都道府県別の平均年齢は、最年少で40.7歳。人口の自然増加率は0.40%と、東京都(0.68%)に次いで国内第二位」。さらに地震が少ないというのもリスク分散拠点として選ばれている理由のようです。「これまで震度5強以上を計測したことがない地域です。この部分を行政も高く評価しており、官公庁が基本情報の一部のバックアップ先として、沖縄にデータセンターを設置しています」と話す情報産業振興課。そして最も注目したいのが、新情報通信費低減化支援事業、沖縄若年者雇用促進奨励金などの行政支援と、他都道府県にはない独自の特区・地域制度が整備されていることではないでしょうか。

2015年7月現在、沖縄県を中心に、首都圏、香港、シンガポールを海底光ケーブルで結び、県内データセンターと沖縄IT津梁パークなどを一体化させたクラウドネットーワーク環境の構築化が拡大進行中とのこと。情報産業振興課は「10年後に生産額5,800億円、雇用者数55,000人を目標とした"おきなわSmart Hub構想"で、広く国内から企業・人材・情報が集積する"アジア有数の国際情報通信ハブ"を実現させたい」と抱負を語ります。
おきなわSmart Hub構想

取材手記

沖縄というと観光資源という言葉が真っ先に思い浮かびます。羽田から那覇空港へと向かうと、海上にはコバルトブルーの海、珊瑚礁の白い砂浜の島々が見えます。
しかし沖縄はその観光資源を上回る規模とスピードで情報産業の殖産に力を入れていることを知りました。観光と情報産業から新しい沖縄ライフスタイルが生まれてくるのは、もう時間の問題かもしれません。
復路の機内から眼下に広がる街並みの明かりが、情報産業の明るい輝きのように見えました。編集部ライター・渡部恒雄
沖縄のイメージ写真
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■記事公開日:2015/07/30
▼編集部=構成 ▼編集部ライター・渡部恒雄=文・撮影 ▼KAME HOUSE=イラスト地図 ▼沖縄IT津梁パークのパース・おきなわSmart Hub構想資料提供=沖縄県商工労働部情報産業振興課

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