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ビジネスエリア特集 Vol.22 静岡市

都市機能をバージョンアップして
賑わいと活気に満ちたビジネスエリアに。

駿府の城下町が活況あるコンパクトシティに

静岡市は県の中部に位置する県庁所在地です。さかのぼれば、徳川家康が幼少期と晩年を過ごした城下町であり、東海道19番目の宿場町としても栄えました。1889年(明治22年)に、東京・大阪と共に日本で初めて市制を施行したことで静岡市が誕生。2003年には隣接する清水市と新設合併し、2005年4月に全国14番目の政令指定都市となりました。県内規模(人口・総面積)は浜松市が上回るものの、DID(人口集中地区)は約62万5000人、商圏人口は約208万人と県内最大の広域商圏を誇っています。

静岡市内の行政区は、葵区、駿河区、清水区の3区で、中でも県庁・市役所のある葵区が経済の中心地として最も賑わいを見せています。今回のビジネスエリア特集・静岡市編は、静岡市の情報サポートを得てそれぞれに異なる特性を持つ3区を歩いてみました。静岡市の中心市街地は、地方都市でありながらも、東京・大阪のビジネス街で目にするようなオフィスビルや百貨店、ショッピングビルなどがコンパクトに建ち並んでいます。こうした中でとくに感嘆したのは、地域の活性化に向けた"自治意識"の高さでした。
 国際競争力の一翼を担う関西圏最大の経済都市

働きやすく独自性のある都市空間 駅北【葵区エリア】

葵区は行政や経済の業務機能が集積する静岡市の"心臓"です。静岡市では「にぎわいとうるおいのある快適なまち」の実現を目指して、これまでに、都市機能の充実を図る25もの整備事業(市街地再開発事業と優良建築物等整備事業)がおこなわれていますが、そのうち18の整備事業が葵エリアに集中しており、さらに現在も、街の機能や利便性を高め、働きやすく快適で、なおかつ独自性のある都市空間の創出を目指したバージョンアップが進められています。

葵エリアの「個性」を大きく分ければ、静岡駅を起点として、北上する趣の異なる2つの街路が象徴していると考えてよいでしょう。第一の街路は駿府城公園に「御幸通り」。この通りの周辺は"静岡市のウォール街"とも言える界隈で、金融、証券を始めとした数多くのオフィスビルが建ち並び、ビジネス街としての赴きを最も色濃く示すエリアです。また、静岡県庁や静岡市役所のほか、県警、消防、法務局などもJR静岡駅から徒歩10分圏内に置かれ、まさしく静岡県の経済と行政を司る中心地になっています。

そして第二の街路は「呉服町通り」周辺エリアです。戦前までの呉服町には、その名のとおり呉服店が 通りに軒を連ねていたそうです。現在は、紺屋町名店街、呉六名店街、呉服町名店街と3つの名店街を有し、お茶や蒲鉾の老舗をはじめ、衣料品や雑貨、飲食、カフェなどが軒を連ねます。驚いたのはシャッターを下ろす店舗が1つもなかったこと。商店街振興組合によると、これは"地元商業者の結束"により、その組織力を最大限に活用して、多様化する消費者ニーズに適応した魅力ある事業展開の成果だそうです。

葵区エリアの再開発・整備事業

葵区の静岡市役所を中心としたエリアは「おまち(お街)」と呼ばれ市民に親しまれています。「おまち」では呉服町名店街が中心となって、地主と商店主が協力し合い「ランドオーナー会議」を発足し、商店街の活性化を図ってきました。その効果があって呉服町通り周辺エリアは、賑わいを堅持し、全国の政令指定都市の中でもトップクラスの販売額を堅持しています。そうした一方で、今後の商店街のあり方を俯瞰すると、昭和20年代から40年代にかけて建設された商業ビルの老朽化対策や耐震化対策は喫緊の課題であり、さらには、2階以上の有効活用が進まない商業ビルの活性化も見逃せない課題です。これらの課題を視野に、現在呉服町通りでは、中低層型商業ビルで街並みを整える再開発事業が検討されています。

現在静岡市では"まちなかを車から人中心の空間へ"を基本方針に「歩いて楽しいまちづくり」を進めています。とくに、駿府城公園周辺整備は、街の更なる活性化を占う重要な事業の1つであり、静岡市民の威信をかけたものになると言えそうです。と言うのも、徳川家ゆかりの城下町の体を成す葵区ですが、これまでの駿府城公園の位置づけは、あくまでも市民にとってのシンボルであり"観光資源"としてのインパクトには欠けていました。ところが2016年から始まった天守台発掘調査で、駿府城内から豊臣秀吉が築かせた天守台が出土。この歴史的な大発見に整備事業もにわかに勢いづいています。

整備事業は、駿府城公園周辺の魅力を高めるため、外堀の一部に張り出し型のウッドデッキを設けるという大胆な計画で、デッキが完成すれば、歩道からとは違った景観や、春になれば石垣に近い位置からの桜を楽しむことができるようになるそうです。デッキの設置は2カ所。憩いくつろぐことができる広場であるほか、イベント利用も可能な空間整備を検討。事業効果は、年間 26万人の集客を見込んでおり、新しく建設される歴史文化施設の建設(2022年以降開館予定)にあわせて「歴史文化のエントランス」として、多くの観光来訪者が期待されています。


徒歩5分圏内にオフィスが集中 駅南【駿河区エリア】

駿河区には、JR静岡駅と東海道本線、国道1号線や東名高速道路の静岡インターチェンジという交通の要衝があり、物流の内陸拠点ともなっています。静岡駅周辺エリアにはホテルや大型商業ビル、上場企業が本社ビルを構えるなど、大規模なオフィス街の風情を垣間見ることができます。このエリアは、地方都市としては"異色"とも思えるほどゆとりのある道幅のメインストリート(石田街道)が駅前から南下し、ビジネスエリアとしてのさらなる奥行を感じさせてくれます。ところが、ビジネスパーソンが行き交うビジネスエリアは静岡駅を起点として徒歩5分圏内でプツリと途絶えます。そこから先のエリアは、ベッドタウンとして住宅地の開発が進み、昔ながらの住宅街に大型分譲マンションの建設が散見されました。

一般的な"ビジネス街探訪"とは違った視点で駿河区を見ると、着目すべきは、数多くのメディア各局の拠点が駿河区に集中している点です。とくにテレビ局はその傾向が顕著で、NHK静岡放送局を筆頭に、静岡第一テレビ、静岡放送、テレビ静岡などが点在し、さらには静岡放送ラジオ局、静岡新聞社などが徒歩10分~20分圏内に社屋を構えています。それらにともない、各局の周辺には、映像の制作会社や編集会社、さらにはデザイン会社といったメディアをサポートする会社が随所に見受けられます。いずれも駅前のような街ぐるみの賑わいは感じられませんが、街の個性を色濃く主張するエリアと言えるでしょう

ウォーターフロントの再開発【清水区エリア】

1999年から政府主導でおこなわれた「平成の大合併」。その大波の中で、2003年に静岡市と清水市の対等合併によって誕生したのが"清水区"です。清水区は、天然の良港を有する港町として、また、東海道の宿場町として栄えてきました。現在はコンテナターミナルや高速道路が整備され、グローバルな物流経済拠点として重要な役割を担っています。そんな清水区はいま、清水港及び周辺地域において、港と街を一つの資産として最大限に活かし、地域を活性化させ"世界水準の国際海洋文化都市を目指す"という壮大なビジョンのもと取り組みをおこなっています。その目玉となるのがウォーターフロントの再開発事業です。

最大のトピックは世界のクルーズ船のための埠頭整備です。清水区では国内外からの観光客が降り立つ玄関口として、大型クルーズ船の誘致を積極的に進めてきました。令和元年9月時点の累計では、年末までになんと41回もの客船寄港が見込まれています。こうした現状があり、日の出埠頭では大型クルーズ船2隻が同時に接岸できる岸壁整備を目玉とした『国際クルーズ拠点整備構想』が進められており、世界の玄関口に相応しい港を目指しているそうです。同時に、国際海洋文化都市としてのシンボルとして『海洋・地球総合ミュージアム(仮称)』が客船ターミナルの向かいにオープン予定(2023年頃)。清水区の"強み"を活かして、街に賑わいを創出し、人や経済の活性化に向けた"新しいまちづくり"がスタートしています。

取材後記

静岡市の中心街から少し離れた七間町。その隣町にあたる人宿町は、かつて『映画の町』として活気を帯びていたそうです。ところが2011年、町にあった2つの映画館が相次いで閉館。町にとって映画館の存在は想像以上に大きく、シンボルを失った人宿町は、町自体が斜陽になり、多くの店舗がシャッターを下ろすこととなったそうです。ところが今回の取材中「そんな人宿町が今、一風変わった取り組みで生まれ変わり、にわかに活気づいている」という情報を聞きつけ、それを確かめるため人宿町まで足を延ばしてみました。

人宿町には、どことなく"忘れられた町"という風情が漂い、お世辞にも活気に満ちた町には感じませんでした。ところが、ある一角にさしかかると、それまでの風景が一新するようなリノベーション店舗やオフィスがあちらこちらに建ち並ぶ風景に遭遇します。施工中の新規物件前で現場監督に話を聞くと、これは地元の建築設計事務所と自治体がタッグを組んで立ち上げた『OMACHI創造計画』という町おこしの取り組みで「自分たちの町を自分たちの創意工夫で再活性させよう」というものだそうです。今回の取材を通して、各所で自治意識の高さがうかがい知れた静岡市でしたが、この『OMACHI創造計画』はそうした思いが集約された素晴らしい取り組みでした。


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■記事公開日:2019/12/04 ■記事取材日: 2019/11/15・16 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=編集部ライター・吉村高廣 ▼撮影=吉村高廣
▼イラスト地図=KAME HOUSE ▼取材協力=静岡市 ▼画像素材=PIXTA

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