国際的ビジネス拠点に相応しい基盤整備と
オフィス街周辺の街づくりが進捗
国際都市へと進化する虎ノ門エリアの再開発
品川駅周辺、渋谷、東京駅周辺、有明・豊洲、竹芝、さらには城北・城東エリアなど、オリンピック特需を受けて、東京の各所でおこなわれてきた市街地再開発。ところが昨年、想定外の新型コロナウイルス感染症の拡大によってオリンピックが延期。やむなく計画の一部を変更、延期する動きもあるようです。そうした中にあって国家戦略特区事業に位置付けられた虎ノ門エリアでは、外資系企業、グローバル企業、新進のベンチャー企業の誘致を目的として、ビジネスライフの環境基盤や交通インフラの整備、オフィス街周辺の街づくりといった大規模かつ複合的な再開発が着実に進捗しています。
国家戦略特区とは、産業の国際競争力の強化や、グローバルな経済活動の拠点づくりをおこなうために、特定の地域に限って従来の規制を大幅に緩めた経済特区のこと。虎ノ門エリアで進む大規模プロジェクトもその恩恵を存分に享受し、国際的新都心へ進化すべく、エリア全体で大規模な計画が進められています。
虎ノ門ヒルズプロジェクト(2014年~2020年)
道路と一体構造のビルを建築できる「立体道路制度」を利用して、官民の連携により2014年6月に開業したプロジェクトのシンボル。それが「虎ノ門ヒルズ森タワー」です。虎ノ門は、隣接する霞が関が行政機能の中枢であることから士業系の企業が多くオフィスを構え、お堅いイメージのあるビジネス街でした。それがこの"第1のヒルズタワー"の開業によってそれまでのイメージを返上。小規模な老朽化ビルが多く、大手企業が集まらなかった虎ノ門エリアは、『虎ノ門ヒルズ』誕生を契機に、驚異的なスピードで再開発が進みました。
そして昨年(2020年1月)、「虎ノ門ヒルズビジネスタワー」が"第2のヒルズタワー"として竣工。地上36階・地下3階建、約96,000㎡のオフィスフロア(5階~36階)と、約7,600㎡の商業施設フロアからなる複合型オフィスビルです。商業施設フロアには、バラエティ豊かな食事を楽しめる「虎ノ門市場」や、ビジネスパーソンの出張時利用を想定して手土産を購入できる店々までもが軒を並べています。
またこれらに加えて、新しく整備された東京メトロ日比谷線の新駅「虎ノ門ヒルズ駅」や既存の銀座線「虎ノ門駅」にも地下通路で連結しているほか、1階には、タクシースタンドのほか、都心と臨海エリアを結ぶBRT(バス高速輸送システム)や、空港リムジンバスが発着するなど、虎ノ門と世界を繋ぐゲートウェイとしての機能が整っています。
虎ノ門ヒルズプロジェクト(2022年~2023年)
ビジネスタワーの竣工から遅れること2年、来年の1月には"第3のヒルズタワー"「虎ノ門ヒルズレジデンシャルタワー」が竣工します。すでに躯体は建ち上がり、現在(2021年6月7日時点)内装工事中のこのビルは、地上56階・地下4階建、550戸を供給する住宅棟で、分譲住宅のほか、サービスアパートメント、子育て支援施設や会員制のスパまでもがデフォルトされた羨望の居住施設。これからの虎ノ門はビジネスエリアとしてだけでなく、居住エリアとしてのプレステージも高まることが期待されます。
そして現在、肩を並べるように屹立する"ヒルズタワー3兄弟"と向かい合う(桜田通りを挟んだ西側)のエリアで槌音を響かせているのが"第4のヒルズタワー"「虎ノ門ヒルズステーションタワー」です。
この工事は、日比谷線の新駅「虎ノ門ヒルズ駅」の真上で展開されているプロジェクトで、2023年7月には265mの超高層の複合型オフィス棟(高層階:ビジネス情報発信拠点、中層階:オフィス、低層階:国際水準のホテル・商業施設)が竣工予定。東京の新たなランドマークが誕生します。その時を待たずしてこの一帯は、日々、街の表情が変わりつつあります。来年以降は2つのタワーが竣工し、その周辺エリアも整備され、東京を代表する「グローバルビジネスセンター」となることが期待されています。
虎ノ門エリアの価値を高める"新駅"の誕生
昨年3月、JR山手線の品川駅・田町駅間で49年ぶりの新駅「高輪ゲートウェイ駅」が誕生して大きな話題となりました。その3か月後に東京メトロ日比谷線でも56年ぶりとなる新駅「虎ノ門ヒルズ駅」が霞ヶ関駅・神谷町駅間に誕生しました。
これまでは、虎ノ門ヒルズ及び周辺エリアにアクセスするためには最寄り駅は銀座線虎ノ門駅だけでした。東京の主要ビジネスエリアにおいて1駅利用というのは極めて稀で、虎ノ門エリアはアクセス性が課題となっていました。それが虎ノ門ヒルズ駅の開業によって、銀座線と日比谷線2つの選択肢ができ、アクセス性が一気に向上。このことは、ビジネスパーソンにとって大きな意味があります。また、虎ノ門駅と虎ノ門ヒルズ駅を結ぶ地下通路の開通により、銀座線と日比谷線との乗り換えが容易になったことは、このエリアの価値を高める大きな要素と言えます。
実は、虎ノ門ヒルズ駅の工事は現在もなお続いており、虎ノ門ヒルズステーションタワーの竣工時には駅とタワーが接続され、2023年度最終完成予定です。再開発事業によってますます活性化されてきた虎ノ門エリアが世界に誇る国際都市東京のビジネス拠点の中枢を担うようになるためには、この新駅がカギを握っていることは間違いありません。
虎ノ門二丁目エリアの都市機能を大幅に更新
ヒルズプロジェクトに隣接した虎ノ門二丁目エリアでは、老朽化していた虎の門病院・国立印刷局・共同通信会館の機能更新をおこない、高機能オフィス棟の整備と歩行者ネットワークの拡充を図り、"都市環境の向上"を目的とした「虎ノ門二丁目地区第一種市街地再開発事業」が進捗しています。
目を見張るべきは、溜池山王駅と接続した超高層オフィスビル「赤坂インターシティAIR」からヒルズエリアを経て新虎通りにつながる約850mの「赤坂・虎ノ門緑道」です。これはまさに"都会のオアシス"といった風情を醸し出す予定です。加えて、新築されるオフィス棟からは2階デッキを通じて「虎ノ門ヒルズ」駅にも接続するなど、高いアクセス性が確保される予定です。
また現在は、2019年5月に隣接地への移転及び建替えが完了した虎の門病院の跡地において、地上38階・地下2階建・高さ約180mの超高層のオフィス棟(延床面積約180,700㎡)の新築工事が進捗しています。オフィス高層の基準階は、1フロア約3,500㎡、天井高2,900mm、フロア全体で利用しやすい形状で、なおかつ、レイアウトしやすい奥行き18mを確保した整形無柱空間を実現したことで、縦横無尽なオフィスレイアウトがおこなえます。加えて、コミュニケーションを誘発するパントリーや内階段の設置が可能なスペックも備え、あらゆる企業のオフィスニーズに柔軟に対応できる計画となっています。このほか、低層部には緑を配し、都心に居ながら身近に自然の息吹を感じられる快適なオフィス空間を創出します。竣工は2023年11月の予定です。
虎ノ門~新橋間を東京のシャンゼリゼに
都心を走る環状2号線のうち、虎ノ門から新橋に至る約1.4kmの地上部区間を「新虎通り」と呼びます。新虎通りは虎ノ門ヒルズ森タワー開業に合わせて整備された都市計画道路で、幅約13mという広い歩道が設けられました。翌年都は、この広い歩道を活かして、街の価値向上と賑わいのある街づくりを目指して「新虎通りを東京のシャンゼリゼ通りに」というビジョンを打ち出しました。
このビジョンを実現するために、歩道上にオープンカフェやコンテナタイプの飲食店を設けて、街往く人々の憩いの場を設けるど、日本では極めて珍しい歩道利用をしています。本来、公共の空間である路上に、テーブルや椅子を並べる商売をおこなう行為は不可とされています。ただし、幅13mという十分な歩道空間を背景に、規制緩和(特例道路占用制度、国家戦略特区による道路占用の緩和)により、歩道上の常設店舗やテラス席の設置が実現しました。そのほかにも、広い歩道を利用した祭りや各種イベントの実施、さらには新虎通り周辺の清掃活動などが、NPO法人グリーンバードやビルオーナー、テナント有志によっておこなわれ、美しい街路を保っています。
新虎通りでは今後も街区の再編や建替えが進むでしょうが、本家・パリの象徴シャンゼリゼ通りは、新しい都市建築と伝統文化が相俟って魅力的な街づくりを実現しています。虎ノ門エリアが国際都市になれば、新虎通りも街の象徴として同じ役割を担うことになるでしょう。最先端の街づくりの中で、いかに"虎ノ門らしさ"を残してゆくことができるか。これから注目のエリアです。
■記事公開日:2021/06/28 ■記事取材日: 2021/06/7・10・13・17 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文・撮影=吉村高廣▼イラスト地図=KAME HOUSE
▼取材協力/イメージ図提供=独立行政法人都市再生機構(記事③④)、一般社団法人新虎通りエリアマネジメント(記事⑤)