新幹線の札幌延伸を睨み
大規模な再開発ラッシュに沸く
およそ10年の建設期間を通じて1兆9千億円の経済効果
2030年度末に予定されている北海道新幹線の札幌延伸まで10年を切り、市の中心部はいま、再開発ラッシュに沸いています。2020年以降に竣工したビル、今後再開発が検討されている未着手の現場まで含めると、札幌駅南側(駅前からすすきのまでの地域)21か所、北側(駅周辺地域)3か所と、札幌都心部はどこを歩いていても大型クレーンのアームが視界に飛び込んできます。また、それらのほとんどが複数のゼネコンによるジョイントベンチャーによる大規模工事で、街の様相は猛スピードで変化しています。
札幌市は、1972年に開催された札幌冬季オリンピック時に莫大な建設投資がおこなわれ、今日の発展を支える多くの都市施設が整備されました。しかし、50年経ったいまは施設の老朽化が進みリニューアルすべき時期に差し掛かっています。そうした実情に加え、新幹線の札幌延伸、さらには同年に招致を予定している冬季オリンピック・パラリンピックなどが、再開発ラッシュの起爆剤となっています。札幌市に本店を置く北洋銀行によれば、札幌延伸が実現すれば、およそ10年という建設期間を通じて約1兆9千億円の経済効果があるといいます。また開業後の経済効果に至っては、新函館まで開業した時の約12倍の1,443億円(年間)に上るそうです。今回は、あらゆる意味で大注目の"札幌の今"をレポートします。
超高層ビルが群雄割拠。激変!【札幌駅南口エリア】
JR札幌駅から大通公園までの札幌駅南口エリア(北海道庁・札幌市役所もこのエリアに所在)は道内随一のビジネス街です。札幌駅前通(以下:駅前通)を中心に大規模オフィスビルがまるで覇権を競うように集積し、札幌市が推進する「都心まちづくり計画」における先導エリアにもなっています。
駅周辺には、2003年3月の開業以来、札幌のランドマークとなってきたJRタワー(173m)を取り囲むように3つの超高層ビルが建ち並ぶ建設計画が進んでおり、北海道新幹線が札幌を走る頃にはロケーションも大きく変わり「北の摩天楼」の佇まいを見せることになります。
計画では、駅東側(北5西1・2)に、隣り合うJRタワーをはるかにしのぐ超高層ビルの建設が予定されています。これは主にJR北海道と札幌市が共同で開発する大型複合施設で、オフィス、ホテル、商業施設が入居するほか、2030年末に開業する北海道新幹線の駅とも直結してバスターミナルも整備され、交通の要衝にもなります。高さは約255mで東京都庁をも上回る高さとなり、2029年秋の完成を目指しています。
北の摩天楼2つ目は、旧西武百貨店跡地に建設が決まった「北4西3地区再開発ビル」です。長らく空き地だったこの一等地にも超高層ビル(高さ約220m、地下6階・地上36階)と地下通路が構築されます。ビルの低層階は商業施設、中層階がオフィスエリア、上層階にはホテルが入居予定。西武百貨店が閉店した後、12年間も休眠地になっていた中心部の土地が、新幹線の札幌延伸を契機にようやく有効活用されることになりました。再開発事業で言われる「都市再生」とはまさしくこのエリアのことを指しているようで、激変する駅南口エリアから目が離せません。
街の転換期に独自性を保つ【札幌駅北口エリア】
「摩天楼」を構成する3つ目の再開発は、札幌駅の北側(北8西1)に建つ道内で最も高いマンション。駅南口エリアの"2つの摩天楼"に先行して既に建設が進行中で、完成もひと足速く2023年12月の予定です。これは、JRタワーとほぼ同じくらいの高さ(175m・地上48階)の超高層タワーマンションで、低層階は商業施設、2階、3階に劇場が設けられ、札幌駅と地下通路で繋がるため賑わいの創出が期待されています。また、同じ敷地内にはオフィスを含むホテル棟が建設されるなど、ここを拠点として駅北口エリアの活性化に弾みがつくことは間違いありません。
北口エリアには、合同庁舎や札幌エルプラザといった公共施設、さらには中規模のオフィスビルが建ち並ぶ一方、飲食店や医療機関、金融機関や福祉施設などが軒を並べ、「居住エリア」という印象も色濃くあります。これらに加えて、北海道大学を筆頭に、数多くの伝統校が所在する「文教エリア」でもあるため有名進学塾が集積しています。
大規模な再開発が本格化する中、その波に乗りながらも独自のスタイルを保持し続ける駅北口エリア。道都・札幌の大きな転換期にあって見逃せないエリアの1つと言えるでしょう。
立地特性を活かし賑わいを創出【大通りエリア】
大通公園から駅前通を南下して、札幌随一の繁華街すすきのまでの大通りエリアでも大規模な市街地再開発が2つ進行しています。
1つは、駅前通と狸小路商店街が交差するドン・キホーテ札幌店跡地(南2西3)で建設が始まった複合商業ビル(地下2階・地上28階、7階から上は分譲タワーマンション)。ちなみに、タワーマンションの一部は事前販売され、最高販売額がなんと3億3000万円ですでに売却済み。今後ますます伸びてゆくであろう札幌市のプレステージの高さを物語るトピックでもあります。
新しく建設されるビルは、地下で「さっぽろ地下街ポールタウン」に接続し、立地特性を活かすことによって、より一層の賑わいが期待されています。札幌市の計画においても骨格になる駅前通と都心商業中心エリアが交錯することで相乗効果を生み、経済活動の活性化が期待できるエリアに位置づけられています。
2つ目の再開発は、繁華街・すすきの玄関口に面していたススキノラフィラ跡地(南4西4)で、大型複合施設(高さ約78m、地下2階・地上18階)の建設が進行しています。4階以下は商業施設、5階から7階に映画館、上層階にはホテルが入居予定。これらに加えて、地下1、2階には札幌市営地下鉄南北線すすきの駅への出入口となるエントランスホールが構築されるそうです。エントランスホールを設けた背景には、2022年から2023年度にかけてすすきの駅の大規模改修が予定されており、2023年に完成する新ビルオープンと同時期に、新駅もリニューアルオープンできるよう工事を開始する計画です。
進化に翻弄されず我が道を往く【西11丁目エリア】
西11丁目エリアは、札幌高等裁判所や合同庁舎、中央区役所などが集積した官庁街です。こうしたエリアの特性から、法律、会計・税務などの関連企業が入居する中小規模のオフィスビルが数多く、加えて、札幌市資料館などの文化施設も至近であることから、大規模な再開発に沸く他のビジネスエリアとは趣が異なります。
札幌市の都心部を大きく分けると、北側が札幌駅、南側が中島公園、東側が創成東地区、西側は大通公園の西端まで。このエリア内に5つの軸を設け、各々の特性を活かしてゆく方針です。南北の縦軸となるのが札幌の駅前通で一番の目抜き通りで「にぎわいの軸」になります。そして、東西の横軸となるのが大通公園を指す「はぐくみの軸」で、この2本の軸が都心部を貫く重要な軸として位置付けられます。
西11丁目エリアは「はぐくみの軸」に含まれ、大通公園などの景観資産や人々が憩う空間が創られてゆく予定です。札幌市によると「街には賑わいの装置や業務的な機能も必要ですが、人々が憩い、ゆったりとした時間を持てるような場所も大事です。大通公園を中心に、至るところにそうした場所を設けるのが街づくりの基本的な考え方になります」ということです。
街の進化は1つの目標ではあるけれど、全て変えればいいというわけではありません。昔から大切にしてきたモノを遺し、活かしながら、それらを札幌市の個性として打ち出してゆく。そんな西11丁目エリアの10年後が楽しみです。
札幌初の高速道路を【バスセンター前エリア】
札幌市内には「バスセンター」と呼ばれるターミナルが3カ所あります。ここで紹介する「バスセンター前エリア」は、札幌市東西線のバスセンター前駅が最寄りとなる、「中央バス札幌ターミナル」。創成川を越えて駅西側には「さっぽろテレビ塔」が建ち、周辺にはオフィスビルが林立するビジネス街です。
実はこのバスセンターは、北海道電力、北海道中央バスなどが計画している街区再開発により、将来的には街区北側に移転集約し、オフィスやホテル、商業施設など複合機能を備えた延べ約11万㎡の再開発ビルを建設。南西の街区には大通公園から続く緑化したオープンスペースを設けて、創成川東西の連携強化を図る構想もあり、2029年度開業を目指しています。
加えて現在札幌市では、2030年の完成を目指して創成川通(国道5号)の機能強化に向けた検討を進めています。実は、日本の5大都市(札幌市、東京都区部、名古屋市、大阪市、福岡市)の中で唯一、都市高速が設置されていないのがこの札幌市です。そのことによって、冬季間の交通渋滞や新千歳空港とのアクセスなどが昔から問題となっていました。それを解消すべく、創成川通の地下を走る高規格道路「都心アクセス道路」を建設する計画です。世界都市としての魅力と活力を創造し続けていくためには、道内各地や空港、港湾などからのアクセスを強化することは必須。交通面でもこのエリアは要となってゆきます。
豪雪都市に不可欠な地下歩行ネットワーク
世界的に見ても"豪雪都市"と言って過言ではない札幌市。とはいえ、たとえ猛吹雪の日であってもビジネスパーソンたちは通勤し、経済活動に勤しんでいるわけです。「冬の札幌で仕事をする営業職は、さぞかし大変な思いをして街中を歩いているんじゃないだろうか?」と思う方も少なくないと思います。そんなネガティブな疑問を打ち消しているのが、札幌中心部に張り巡らせた巨大な地下歩行ネットワークです。
札幌中心街の地下には、トータルで約6kmにも及ぶ地下ネットワークが広がっています。その中でも、地下鉄南北線さっぽろ駅から大通駅を結ぶ「札幌駅前地下歩行空間(チ・カ・ホ)」と、それに続き、大通駅からすすきの駅を結ぶ、「さっぽろ地下街ポールタウン」までは約1,900m。まさに圧巻の地下通路になっています。
さっぽろ地下街は、札幌オリンピック開催に合わせて、1971年に整備され、現在でも大雪が降ると外を歩くのが困難になる札幌市民にとって、雪や雨を凌いで移動できる地下空間は不可欠と言っても過言ではありません。
また、地下ネットワークに接続するビルは非常に価値が高くなります。札幌市としても、既存の地下ネットワークに接続する再開発に関しては優遇措置を設けており、札幌の重要なポイントとなっています。
東京のみならず東北企業の進出が顕在化【企業誘致】
札幌市の人口は約197万人。政令指定都市の中では、横浜、大阪、名古屋に次ぐ人口です。アクセスについても、新千歳空港から羽田空港までの1日便数は55便で国内最多の"空の便"が飛んでおり、かかる時間は約100分。日帰り出張も含めて、非常にアクセスしやすい環境です。
新幹線の延伸は、企業誘致目線でも、札幌市にとって非常に大きなアドバンテージとなります。札幌と東京間は5時間程度、将来的にはさらに時間が短縮されることが見込まれます。また、東京のみならず仙台をはじめとした東北からも人や企業の動きが顕在化してくるなど、様々な面で札幌の商業圏、都市圏が拡大に向かいつつあります。
現在の札幌市は、三次産業が中心の街となっています。具体的な業種としては、サービス業が多く、コールセンターも札幌の企業文化を語る上では欠かせない要素となっています。また近年は、IT企業の進出が進んでおり、札幌経済にインパクトを与える産業になりつつあります。
高い人材供給力を持っているのも札幌市の大きな魅力です。札幌市の周辺には、江別市、小樽市、当別市、石狩市、恵庭市、北広島市、千歳市などが"札幌圏"としてあり、圏内人口が約250万人、そのうち、生産年齢人口が約155万人にも上ります。
また道内には、大学37校、短期大学15校、高等専門学校4校、専修学校159校がある中で、その半数が札幌圏に集積。理工系の大学も数多く有り、幅広く優秀な人材が育成され"人材の宝庫"とも言われています。
札幌市企業進出総合ナビ
https://www2.city.sapporo.jp/invest/
■記事公開日:2021/12/17 ■記事取材日: 2021/11/29・30 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=編集部ライター・吉村高廣 ▼撮影=吉村高廣 ▼イラスト地図=KAME HOUSE