再開発で都心部を整備して
集約型都市構造の実現を目指す
中国・四国地方最大のビジネスエリアに相応しい街として
働き方の変化やハイブリッドワークの広がりによって、東京への一極集中に変化が生じています。そこで注目されているのが、「札仙広福」と称される、札幌、仙台、広島、福岡の地方中枢都市です。これらの4都市は、再開発による利便性の向上や、働きやすさ・住みやすさなど、何かにつけて比較されてきましたが、これまでは、天神ビッグバンや博多コネクティッドといった再開発のネーミングのインパクトも後押しして、福岡市の注目度が高かったように思います。事実、このビジネスエリア特集でも、札幌市(2021年12月公開)、仙台市(2021年1月公開)、福岡市(2020年2月公開)を取材してきましたが、あえて比較するならば"あっぱれ福岡"といった印象は否めません。
そんな中、「今、広島市の再開発がすごいことになっている」という情報を得て、およそ9年ぶりに広島市を訪ねました。9年前の取材時は"構想"でしかなかった再開発計画が実体化したり、具体的な対象エリアが決まったり。コロナ禍が重なり再開発の進捗が遅れ気味というところもありますが、今の広島市には中国・四国地方最大のビジネスエリアに相応しく「福岡市にも負けず劣らず」といった勢いがありました。
都心部へのアクセスが劇的に向上【広島駅南口周辺エリア】
広島駅周辺を起点として、八丁堀から紙屋町のエリアを"都心の核"と位置付けて、ビジネスや日常生活に必要な都市機能の集積と強化を図り、『集約型都市構造』への転換を進めている広島市。その本気度は、JR広島駅南口及びその周辺でおこなわれている大規模再開発が象徴しています。
広島駅は1日約14万人が利用する巨大ターミナル駅ですが、老朽化が進み、中国・四国地方の表玄関としては明らかに見劣りしていました。そこでJR西日本は、2012年から開始した駅改良工事によって、南北自由通路、橋上駅舎、大規模な駅中商業施設、北口ペデストリアンデッキ、北口広場などを再整備。駅周辺は見違えるように生まれ変わりました。そして現在は、商業施設やホテル、シネマコンプレックスが入居予定の新しい駅ビル(2025年春開業予定)の建築工事が佳境を迎えています。
駅南口再開発は、この新駅ビルの建設が話題になっていますが、取材した印象では再開発計画案に組み込まれている、広島電鉄(路面電車)の新駅ビルへの乗り入れが、市が推進している集約型都市構造の実現を左右する大きなファクターになりそうです。
というのも、広島市には地下鉄が無く、駅南口はバスターミナルが離れているためJRとの乗り継ぎが不便です。結果、ビジネスマンや市民の方々が都心部(八丁堀、紙屋町)方面へ向かうためには、市の東西に延びる相生通りを走る路面電車が主な手段になります。しかしながら、広島駅から路面電車の発着駅までのアクセスも決して良いとは言えず、朝夕の通勤時間帯には小さな発着駅にビジネスマンが溢れ返っています。JRと路面電車が直結すれば、都心部エリアへのアクセシビリティが劇的に向上し、通勤時の混雑の緩和と、都心部のより一層の活性化が期待できます。
最大の商業地に高規格オフィス街を整備【八丁堀エリア】
八丁堀は、相生通りと中央通りが交差する八丁堀交差点付近のエリアで周辺には、三越、福屋、ヤマダ電機、東急ハンズなどの大型商業施設が立地します。また、八丁堀交差点から南方向に伸びる中央通り沿いには、パルコやドン・キホーテなどが軒を並べ、広島風お好み焼きの聖地『お好み村』もこのエリアに所在するなど、広島市最大の商業地となっています。
八丁堀のオフィス街は八丁堀交差点の北西エリア一帯。大型商業施設が構える交差点付近とは雰囲気も異なり、中小規模のオフィスビルが建ち並ぶ落ち着いた雰囲気のビジネス街です。この一帯が再開発により先進的なオフィス街に変わります。
再開発の対象地区は、1938年に創立された広島YMCA周辺から京口門公園などを含む約1.2ヘクタールの地域。この地域には小規模のオフィスが密集していますが、半世紀以上は経過しているであろうビルも多く、老朽化が進んでいます。そこで、既存ビルを取り壊して新たな高規格オフィス街を整備しようというのがこのエリアの再開発ミッションです。
建設されるビルは、地上15階、16階、28階建ての3棟で、オフィスや商業施設、マンション、教育施設などが入居予定。着工は2025年度以降の見込みで、2030年度以降の完成を目指しているそうです。
やがて広島市のビジネス中心街へ【基町エリア】
広島城下に位置する基町エリアは、広島市を開いた『開基の地』という意味合いから"基町"となり、かつては、中国・四国地方の商業の中心地として栄えていたそうです。ところが、1945年8月6日の原爆投下によって街は壊滅状態に。その後の復興により、中規模オフィスが集積するビジネス街へと再生しました。加えて、商業施設が充実した八丁堀や紙屋町にも近いことから、トラディショナルなビジネス街でありながらも繁華性を兼ね備えた、いろいろなものがちょうどいい距離にある、働きやすいビジネスエリアという印象がありました。
このエリアにも、超高層の大型複合ビルが建設予定です。これは、相生通りから北側の市営基町駐車場一帯でおこなわれる再開発プロジェクトで、土地の高度利用をおこない、約1ヘクタールの区域に、地上31階、高さ約160mの超高層ビルの建設が予定されています。
ビルにはオフィスやホテルをはじめとして、広島商工会議所も移転する予定です。広島市によれば、「この再開発を官民連携のリーディングプロジェクトと位置付けて、賑わいと交流、さらには観光拠点となることを目指している」ということです。ビルの完成は2027年度を予定。将来的には、この基町エリアが広島市のビジネス中心街になるかも知れません。
街の在り方が問われる再開発【紙屋町エリア】
相生通りと鯉城通りが交わる紙屋町交差点付近には一昨年竣工した、ひろぎんホールディングス本社ビルや、そごう、エディオンなどの大型商業施設が点在しているものの、古くからこのエリアの経済を底支えしてきたのは、本通商店街やサンモールといった小さな店が軒を並べるショッピングモール。独自の経済文化を築いてきた紙屋町周辺でも、集約型都市構造の実現に向けて大規模な再開発が計画されています。
●本通3丁目地区市街地再開発
本通商店街の入口である計画地は、広島市の賑わいエリアとなっていますが、ビルの老朽化や少子高齢化などの課題に対応するため、本通商店街を挟んで南北に2棟の高層ビルを建設することが計画されています。高層階にはオフィスやホテル、マンション、低層部は歩行デッキで商店街の南北を結び、商業施設や広場機能をもたせるという大規模な計画です。これまでは商店街頼りだったエリアの経済を見直し、ビジネス、観光、居住環境の充実にと、紙屋町が更に活性化すべく、再開発組合は「広島市のランドマークとなる大規模複合再開発事業」として、およそ10年後の完成を目指しています。
●サンモール一帯再開発
サンモールは1972年の開業以来、広島の市民に愛されてきたショッピングモールです。近年は、テナントビルの老朽化や郊外に誕生した超大型ショッピングモールの影響で集客力が低下。活性化を目指して地上50階程の複合ビルを建設し、オフィス、ホテル、公益的施設、マンション、駐車場、駐輪場などが入居する予定です。2016年に発表された再開発概要によると、「2024年の竣工を目指す」ということでしたが、現地はいまだに手付かずの状態となっています。
著しい変化を遂げた広島駅新幹線口【広島駅北口周辺エリア】
広島市の中でも、ここ数年で最も著しい変貌を遂げたのが広島駅北口エリアと言えるでしょう。かつての駅前は、古い集合住宅(JRの社宅)が建ち並ぶ殺風景なエリアでしたが、2012年にスタートした駅改良工事を皮切りに、現在ではオフィスビルやホテルなどの大型ビルが立ち並ぶオフィス街へと様変わりしています。
北口の都市化に勢いをつけたのは、2016年10月に完成したペデストリアンデッキです。ペデストリアンデッキは広島駅新幹線口(駅2階)から、二葉の里地区、若草地区などへダイレクトにアクセス出来る利便性の高い屋根付き陸橋で、この完成を機に二葉の里方面には、2018年9月に広島テレビ本社ビルが移転。また翌年4月には、オフィスフロアの総面積が中国・四国地方最大を誇る大型複合ビルGRANODE(グラノード)広島が開業するなど、ここ数年で急ピッチに都市化が進んで来ました。
ひと頃はスウェーデン家具のIKEAが出店計画を明らかにして話題になりましたが、出店は見送られ予定地を売却。予定地跡には地上34階、高さ約120mの超高層複合ビル(オフィス、ホテル、温浴施設、レストラン、マンション等が入居)の建設が来年着工予定です(2027年完成予定)。
郷土愛が支えたスタジアム建設【広島市中央公園エリア】
戦後復興のシンボルとして整備された広島市中央公園エリアも生まれ変わろうとしています。このエリアの総面積は約42ヘクタール。現在エリア内では、サッカースタジアムの建設(2024年完成予定)、旧広島市民球場跡地の商業施設化(今年3月31日に開業)などの工事がおこなわれており、更なる賑わいや交流をもたらし、集約型都市構造の実現に向けた一翼を担います。
とくに注目されているのが、サッカースタジアムの建設です。実はこのスタジアム建設費用は、一部"民間からの寄付"でまかなっています。当初、寄付の目標額は10億円でしたが、広島(市内・県内)の個人事業主を含む約440社から18億円以上、さらに、市民・県民の方々からの寄付が3億5000万円以上も集まり、目標額を大幅にクリアできたそうです。
1957年7月に完成した旧広島市民球場は、焦土となった広島の復興に向けた希望の光でした。そして、その建設費用の一部をまかなったのも広島の方々の寄付でした。リーダーズ・アイでご登場いただいた"ミスター赤ヘル"こと山本浩二さんも、小遣いを握りしめてその列に並んだお一人だったそうです。長い時を経て、令和の時代になった今も、広島人の強い郷土愛は今も健在。スタジアムのオープンが楽しみです。
■記事公開日:2023/02/27 ■記事取材日: 2023//02・08/09 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=編集部ライター・吉村高廣 ▼撮影=吉村高廣/Adobe Stock ▼イラスト地図=KAME HOUSE ▼取材協力:広島市東京事務所・資料提供 ▼取材資料:広島駅南口広場の再整備、広島八丁堀3・7地区市街地再開発事業、基町相生通地区第一種市街地再開発事業について、中央公園の今後の活用に係る基本方針、広島再開発マップ、広島経済レポート、JR西日本ホームページ