日本経済の一翼を担う大阪市、そのキーエリアを往く②
船場、心斎橋・難波、阿倍野・天王寺、OBP・京橋
洗練された人気のオフィス街 【船場エリア】
船場エリアの特定は難しく、一般的には本町に含まれる印象を持たれがちです。地元の交番で正確な範囲を尋ねると「地図上では」という前置きがあり、次のように示してくれました。北は土佐堀川から南は長堀通りまでの約2キロ、東は阪神高速南行線から西は阪神高速北行線までの約1キロまでの範囲とのこと。船場の由来は、かつてこの一帯が船着き場であったことから「船場」と名付けられたということです。
終戦後、御堂筋、四つ橋筋、堺筋の拡張が進められたことで、繊維卸売業者が集中していた丼池(どぶいけ)繊維問屋街が活況を見せ、西日本を代表する商業地域となりました。これを機に、御堂筋沿道はオフィスビルの建設ラッシュを迎えます。「この地から、多くの有名企業が誕生し、現在もその本社が数多く立地しています」と大阪市経済戦略局は説明します。
またここ近年は、御堂筋に沿ってそのシンボルでもあるイチョウ並木のイルミネーションなどにより、美しく幻想的な演出を楽しめる、人気のビジネスエリアともなっています。さらに、2010年に開業した複合施設"本町ガーデンシティ"のオープンで、一層洗練され、上質な賑わいをもたらす街並みになりました。
世界に直結した賑わいのエリアへ 【心斎橋・難波エリア】
船場エリアの南に隣接する心斎橋地区は、老舗百貨店「大丸」や心斎橋筋商店街などを中心として一大ショッピングエリアとして発展してきました。近年では、御堂筋沿いに世界的なブランドショップが林立する日本有数のブランドストリートとしても知られています。
また現在、優美な建築フォルムからこの地区のランドマークとされてきた「大丸」が、1933年の開業以来はじめての大規模改修を行っており、2019年の新装オープン以降のこの地区は、ショッピングやビジネスに、より一層の活性化が期待されています。
大阪の"北の玄関口"が梅田であるのに対して、"南の玄関口"と呼ばれるのが難波です。大阪市経済戦略局によると、難波は、大阪の情緒や歴史を感じることのできる観光スポットが密集している賑わいのある商業の街である一方、世界に直結する"人、情報、文化の交流拠点"でもあるといいます。
南海なんば駅は関西空港駅と直結し、奈良や和歌山へのアクセスポイントとなるJR、南海電鉄、近畿日本鉄道のターミナル駅や大阪市営地下鉄などを含めた乗降客は、1日約100万人にも上ります。これに加え、高速道路と直結した高速バスが日本各地へ運行するなど、大阪の主要交通拠点となっています。
心斎橋・難波エリアは、大阪市のメインストリート御堂筋の最終地点にあたります。ここ近年は大型複合施設が次々と整備され、2018年には、オフィス、コンベンションセンター等を含む「新南海会館ビル(仮称)」の竣工が予定されており、今後ますますの賑わいが期待される大注目のビジネスエリアです。
大阪のランドマークを有する副都心 【阿倍野・天王寺エリア】
近鉄大阪阿部野橋駅とJR天王寺駅が隣接したこの地区は、包括的に「天王寺」と呼ばれます。その特長は、大阪南部や奈良、和歌山から大阪市中心部へアクセスするビジネスパーソンにとってのハブステーションであることです。JR、大阪市営地下鉄、近鉄電車、さらには、大阪で唯一の路面電車である阪堺電車などが乗り入れ、1日約73万人が行き交う一大ターミナルとなっています。
阿倍野・天王寺エリア最大のトピックは、2014年に開業した「あべのハルカス」でしょう。地上300mという日本一の高さを誇る超高層ビルには、百貨店、高級ホテル、オフィス、美術館や展望台などの商業・文化施設が集約され、大阪の新しいランドマークとして注目を集めました。これに伴い、周辺地域の再開発が一気に加速。鉄道アクセスの良さも相まって、多方面から注目されるビジネスエリアとなっています。
このエリアは、JR天王寺駅を境として、南側と北側で街の趣が大きく異なります。あべのハルカスがそびえ立つ南側周辺は、ビジネス街、繁華街として梅田や難波に次ぐ副都心の趣を成す一方、北側を歩くと街の雰囲気は驚くほどに変わります。聖徳太子が建立したといわれる名刹・四天王寺や、美術館や動物園を有する天王寺公園などが点在する落ち着いた佇まいの住宅街で、中層階の新築分譲マンションが数多く見受けられました。
大阪市東部を代表するビジネスエリア 【OBP・京橋エリア】
大阪の象徴である大阪城公園に隣接したOBP(大阪ビジネスパーク)は、寝屋川と第二寝屋川、東をJR環状線に挟まれた26ヘクタールの三角形の土地に広がる、豊かな自然環境に囲まれたビジネスエリアです。エリア内には、オフィスビルをはじめ、商業施設や文化施設、宿泊施設などが共存し、エリア全体の就業者数は約3万7000人。平日の昼間人口は10万人以上にも上ります。
大阪市経済戦略局によれば、環境省の"サスティナブル都市開発促進モデル事業"としてスマートシティの実現を目指したリノベーション事業などに、民間企業等で先進的に取り組んできたエリアであり、現在は京橋駅から大阪城をつなぐ"パークアベニュー"の活性化などを通じ、新たな都市魅力の創出の検討が進められているといいます。
大阪を代表する商業街といえば、「キタ」と呼ばれる梅田、「ミナミ」と呼ばれる難波の2つ。さすがに規模は及ばないものの、かつてはその第3極として、京橋を「ヒガシ」と位置付ける動きがあったといいます。寝屋川を挟んだ対岸に位置する京橋駅は、OBP勤務の方々にとっても利便性が高く、JR大阪環状線・東西線・片町線(学研都市線)、京阪電車、大阪市営地下鉄長堀鶴見緑地線が乗り入れています。とくに京阪神を移動する場合には利便性に優れた駅で、1日の乗降者数は約50万人と、大阪市東部を代表するビジネスエリアの1つとなっています。
取材手記
大阪市の中心街、梅田と難波を一直線に結ぶ御堂筋。この御堂筋が今年の5月11日、開通から80周年を迎えました。その歴史を振り返ると、昭和12年に日本の"車社会"の到来を見越して、幅約44メートル、全長約4キロメートルという、当時としては他に例を見ない規模で整備され、以後、大阪経済の発展を支える大動脈になりました。また、都市計画もきわめて先進的で、景観を配慮して電線を全て地下部に通線させ、沿道を美しく彩るイチョウ並木もこのころに植えられたものだということです。
前編、後編と2回にわたってご紹介してきた大阪市の主要ビジネスエリアは、その多くが御堂筋とさほど距離を置かず位置していました。いまでこそ御堂筋に面した大規模ビルは名の通った大企業がほとんどですが、東西に向けて路地を往けば、昔ながらの"手仕事や商い"がいまなお息づいていました。大阪市は、日本最大級のビジネスタウンであり、世界有数の市場です。にもかかわらず、よそよそしさを感じさせることなく、緑にあふれ、健やかな営みを続けられる環境がしっかりと守られている。それはきっと、80年前、御堂筋の開通計画時に課された"未来に対する宿題"だったのではないか...そんなふうに思いました。
■記事公開日:2017/08/25 ■記事取材日: 2017/08/02 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=編集部ライター・吉村高廣 ▼撮影=吉村高廣 ▼イラスト地図=KAME HOUSE ▼取材協力=大阪市