驚くべき新聞記事を目にしました。
上司が同席する"飲み会"に参加すればボーナスが増える、そんな仕組みを設けた企業があるそうです。
仕組みの内容と目的はこうです。
参加1回につき1ポイントが与えられ、1ポイントを1000円に換算してボーナスに加算する。
そうすることで、会社に対する帰属意識を高めるのが狙いなのだとか。
「飲みニケーションもついにここまで来たか」と思わず唸ってしまいました。
こちらの企業にとっては、若手との距離を縮める苦肉の策でしょうが、
そこから生まれるものは、帰属意識ではなく、会社の成長を停滞させる"馴れ合いの人間関係"ではないかと。
今回は、職場における"馴れ合いとコミュニケーションの違い"について考えます。
議論白熱で対人関係が怪しくなっても
ビジネスには不変の目的があります。それはお客さまに対して、より高いクオリティの成果物を提供すること。その過程におけるプロジェクトチームは、活発な意見交換ができる集団であるべきです。ここで言う"活発な意見交換"とは、仕事をする上で、互いがプロフェッショナルとして、どのようなアイディアで目の前の事案を進めていくかを話し合う対話のこと。したがって、時には喧々諤々、議論がヒートアップして、一時的に対人関係が怪しくなる場合もある。しかしそれがプロフェッショナルの正しい姿です。
人は誰しも、自分の意見を否定されるのは気持ちの良いものではありません。まして、それ相応の経験を持ち、実績を残してきたビジネスパーソンなら尚更でしょう。こうしたことから、互いの気持ちを斟酌し合い、相手のプライドを傷つけないところで落としどころを見つけようとするプロジェクトチームがあります。しかし、こうした「馴れ合い」で進む仕事は、多くの場合詰めの甘さが目立つもの。身内の対面を慮り「仲良しこよし」を演じる関係からは、決して良い仕事は生まれない。これは私の確固たる持論です。
飲みニケーションという馴れ合い関係
若手社員の気持ちが分からない。コミュニケーションが上手く取れない。これは随分前から言われています。企業が就活生に最も強く求めるものが「コミュニケーション能力」であることからも、企業がいかに人間関係を重視しているかが窺い知れます。そして今は、社員同士が仲睦まじく、風通しの良い職場こそが良い会社であり、「飲みニケーション」などで親睦を深めることがその手段と考えられているようです。
それが過剰にカタチを変えたものが先に挙げた"飲み会参加でボーナスアップ"などの仕組みでしょう。
酒の力を借りて一時的に打ち解けた気分になっても、その後職場で、上手くコミュニケーションが取れるかといえば大いに疑問です。近年は「飲みニケーション」が功を奏して、仕事が上手く回り出したという例を私は知りません。むしろ聞こえてくるのは、上司の酒癖の悪さなどネガティブな一面ばかり。元来、酒席を好まぬ若手は、上司の態度を客観的かつ冷静に見ているもの。そこを勘違いして「酒の席を共有できれば」と考えるのは、まさしく馴れ合いの発想です。また、そうした馴れ合いを若手は大いに嫌います。
若手はコミュニケーションを望んでいる
馴れ合いの環境に馴染んで育った若手は、主張すべき時に主張できず、誰にでも合わせていい顔をしようとする傾向があります。これはコミュニケーションを放棄して、自らの成長やビジネスの幅を広げる機会を減らすこととなり、本人にとっても会社にとっても損失です。そして、その原因をつくっているのは会社です。今の時代は陳腐な表現かも知れませんが、若手は厳しく育てるべきです。人材の定着率が悪化する昨今、若手社員は会社の宝に違いありません。しかし、宝も磨かなければただの石と変わりありません。
ビジネスにおけるコミュニケーションとは"摩擦"です。言葉遣いなど最低限のマナーを守ることは必要ですが、相手の気持ちを斟酌することなく、自分の考えをしっかり主張することが大前提。それは酒席での"無礼講"などとは本質的に異なります。主張をすれば、もちろん反論されることもあるでしょうが、反論の中にこそ新しい気づきがあるものです。そんなコミュニケーション機会を数多く用意するのが会社の役目でしょうし、実は若手も、飲みニケーションなどよりも、そうした機会を望んでいるのです。
"ビジネスにおけるコミュニケーションとは、摩擦である"
Yuji Seino
清野裕司
1947年生まれ。1970年慶應義塾大学商学部卒業マーケティングを専攻 。商社、メーカーにてマーケティングを担当し、1981年(株)マップスを創設。現在、同社の代表取締役。マーケティング戦略の立案、商品・店舗の開発支援、営業体制の整備、ブランド開発、スタッフ養成の研修まで、業種業界を超えたマーケティング・プランナーとして、2500種類のプロジェクト実績。
株式会社マップス ホームページ:http://www.mapscom.co.jp
■記事公開日:2018/09/19
▼構成=編集部 ▼文=清野裕司 ▼画像素材=PIXTA