マーケティングの世界には、その時々によって時流を読み解くキーワードがあります。今の時代を象徴するキーワードの1つが「デザイン」です。しばらくお休みしていたこのコラム。今年全5回にわたり、私なりの解釈で「デザイン」を切ってみたいと思います。その初回は、『デザインと消費者意識の関係性』について考えます。
パッケージデザインに魅かれて思わず購入。
岩手県産サバの缶詰。
デザインだけでモノを選ぶ人が増えている
皆さんにとって「デザイン」とは、どのような価値を持っているでしょうか?多くの場合はモノを選ぶ時の選択基準であり、自己主張するための"カタチ"と考える方が多いのではないでしょうか。だからこそデザインの良いものがよく売れる。クルマにしてもスマートフォンにしても、近ごろではミネラルウォーターですらボトルデザイン次第で売り上げが大幅に変わるといわれます。
しかし本来、消費者の購入動機の根底にあるのは「その製品は自分が求める性能を満たしているか」ということに他なりません。コンパクトデジタルカメラを例にとれば、子どもの運動会を撮影したいと考えるのなら優美なデザインよりズームの倍率が購入動機になるでしょう。山歩きを趣味とする方なら軽さを重視すべきです。いわば、使う目的とそれに見合った性能がマッチしたところに消費動機は生まれるもの。これまでは、そう考えられてきたわけです。
日本品質は、もはや世界の主流ではない?
日本の電化製品は海外から高い性能評価を得ています。正確かつ安全であり、新たな付加価値機能を次々に搭載させ、日本メーカーはまさしく世界のフロントランナーに君臨していました。ところが昨今、海外の電化製品市場において日本製品はほとんど隅に追いやられ、デザインバリエーションが豊富で安価な韓国製品が台頭しています。これは、性能の良し悪しだけでは消費者の心が動きにくくなっている証し(もちろん例外もあります)です。これと同じ現象が日本の市場でも現れているのです。
そもそも今は、我々が日常的に使っているモノの多くは、国内外問わずどこのメーカーの製品を選んでも基本的な性能にほとんど差はありません。基本性能が同じであるならば、見た目の良さや色、大きさなどの「デザイン」と「価格」が、価値判断の基準になるのは当然です。こうした背景を考えてみれば、日本の電気メーカーが競って生産している"4Kテレビ"の売上不調の理由も自ずと浮き彫りとなってきます。
優れたデザインは"敬意"の意志表示にもなる
最近は「安かろう、悪かろう」という言葉をほとんど聞かなくなりました。100円ショップの商品などがその良い例でしょう。生活雑貨や文具でも、とりたてて上等なものはありませんが普段使いには何ら遜色がありません。しかも、ある程度のデザインバリエーションも揃っている。つまり「そこそこの品質」「そこそのデザイン」「安価であること」、この3要素が揃っていればそこそこ売れる。それが今の日本です。
ただし、来客用のティーカップを100円ショップで買う人は少ないはずです。なぜならそこには、「この程度のモノでいいや」という主観以外に、第三者の客観的な評価が加わるからです。つまり、自分使いのモノなら名も知らぬキャラクターのついたマグカップで十分だけれど、大切なお客さまをもてなす場合は「ちょっといいティーカップを使いたい」。いわばこれは、優れたデザインのティーカップを選択することで、自分自身(或いは自社)の敬意の気持ちを示していることにもなるのです。
"性能差が縮まった今は、
デザインが消費動機になる"
Yuji Seino
清野裕司
1947年生まれ。1970年慶應義塾大学商学部卒業マーケティングを専攻 。商社、メーカーにてマーケティングを担当し、1981年(株)マップスを創設。現在、同社の代表取締役。マーケティング戦略の立案、商品・店舗の開発支援、営業体制の整備、ブランド開発、スタッフ養成の研修まで、業種業界を超えたマーケティング・プランナーとして、2500種類のプロジェクト実績。
株式会社マップス ホームページ:http://www.mapscom.co.jp
■記事公開日:2017/03/07
▼構成=編集部 ▼文=清野裕司 ▼写真撮影=吉村高廣・フリー素材