上手くいっている企業の仕組みを手本にしているのに、なかなか成果が表れない。もう少し我慢して続けるべきなのだろうか...。
最近、幹部クラスのビジネスパーソンと話しているとこうした嘆きをよく耳にします。かつて、企業の成長手法の1つとして大いに注目された"ベンチマーク"。現在も、その効果を信じて取り組む企業は少なくないようです。
そこで今回は『ベンチマークの有効性』について考えます。
次代の日本をカタチづくるヒント
人だけではなく、企業や国家が成長を目指すときにも良いコーチがいると助かります。日本最大のエポックである高度経済成長期には、まさしくその役割をアメリカが果たしていたといって良いでしょう。とりわけ、自動車や電気の関連メーカーは、アメリカに学び、アメリカを手本として生産能力をひたすら高め、過日の日本は、GDP(国内総生産)世界第2位の"経済大国"と言われるまでに成長しました。
ところが、今の日本にとってアメリカは良きコーチとなり得ません。また、それに代わる国も見当たりません。ここで求められるのが、日本や日本人の独自性(強み)の再検証です。これまでの日本の成長背景には、アメリカの存在があったことは確かです。
しかし、他国が同じようにアメリカをベンチマークしても、同等の発展を遂げられるわけではありません。つまり、日本が本来持っている独自性を改めて考えることが、次代の日本をカタチづくることになる。そしてこれは、ビジネスにも同じことが言えます。
明治時代のカレーライスを再現!
"和える"ことで文化をデザインする
現在の日本で展開されるビジネスは、ごく一部の産業を除き、その多くが"成熟産業"といっても過言ではないでしょう。こうした時代にあって、ごく稀な成功モデルをそのまま真似しても同様の成長を遂げることは困難です。
なぜなら、規模の大小を問わず、企業にはその企業なりの文化があり、仕事のやり方があるからです。大事なことは、まず、自社の個性や強みをはっきりさせて"身の丈に合った"ベンチマークを行うことが必要なのです。
料理を例にとると分かりやすいと思います。日本の国民食にカレーライスがあります。カレーは明治時代にイギリスから日本に伝わった西洋の高級料理です。その頃のカレーは米と一緒に食べるものではなく、スープに近い料理でした。それを、日本人に馴染み深い"米に汁をかけた丼物"にアレンジしたことで広く普及し始めました。いわば今のカレーライスは、気取った西洋料理を日本人がベンチマークして、日本人の口に合うようデザインした、日本独自の料理なのです。
日本人はこの頃から、新しく伝わったものと日本独自のものを"和えて"オリジナルな文化をつくることが得意な民族でした。そして、こうした強みがあったからこそ、高度経済成長が実現できたのです。今の時代のビジネス成功のヒントも、実はここにあると私は考えています。
"人真似"では答えは出ない
日本の高度経済成長からカレーライスへと、いささか話が抽象的に傾きましたが、これは極めて大事な警鐘です。なぜなら、ビジネスに突破口が見いだせない時は、往々にして上手くいっている他者(同業他社や他業種のビジネスモデル)を、そのまま真似てみようとする経営層があまりにも多いからです。
ベンチマークは人真似ではありません。成長企業のプロセスと自社のプロセスを比較して、そこに相違点を発見したり、改善が必要な点を洗い出すなど、これまで行ってきた取り組みを俯瞰的に振り返るための手段に過ぎません。つまり、そこに成長や成功の答えはないのです。
もちろん、良い部分をお手本にすることは否定するものではありません。しかしもはや、成功モデルをまるごと真似して上手くいく時代ではありません。それはまるでサイズの合わないスーツを無理やり着込んでいるようなもので、必ず綻びが出てきます。したがって、今回のテーマを結論づければ"ベンチマークとは己を知るには極めて有効。しかし、それ自体が成長の鍵にはならない"ということになるでしょう。
"ベンチマークは自社の現状(強みや弱み)を知る手段である"
Yuji Seino
清野裕司
1947年生まれ。1970年慶應義塾大学商学部卒業マーケティングを専攻 。商社、メーカーにてマーケティングを担当し、1981年(株)マップスを創設。現在、同社の代表取締役。マーケティング戦略の立案、商品・店舗の開発支援、営業体制の整備、ブランド開発、スタッフ養成の研修まで、業種業界を超えたマーケティング・プランナーとして、2500種類のプロジェクト実績。
株式会社マップス ホームページ:http://www.mapscom.co.jp
■記事公開日:2017/09/26
▼構成=編集部 ▼文=清野裕司 ▼写真・只野ヒロキ