「デザイン」をキーワードに、マーケティングとの関係性を綴ってきたこのコラムも、今回の記事が今年最後の1篇となります。
連載を通してお読みいただいた方はお分かりかと思いますが、モノや人のキャリア、そしてビジネスには、全て「カタチ」があり、
そのデザインの良し悪しが問われます。ただ、それは新しければ良いというものではありません。
そこで今回は、普遍的なビジネスデザインについて考えます。
優れたデザインは普遍的で時代と共に繰り返す
デザインとは、時代と共に繰り返す普遍的なものだと思います。洋服などはその顕著な例でしょう。今は若い人の間で少し丈の短い細身のパンツが流行っていますが、思い起こせば私が若い頃にもスリムパンツは流行っていました(僭越ながら私も履いていました)。つまり、優れたデザインのメインストリームは、繰り返し巡ってくるものなのです。
そもそも、人間の美意識というものは、時代を経てもさほど大きくは変わるものではありません。そう考えると、完成されたデザインには流行り廃りがないとも言えます。仮に、一時的に違ったものに目を向ける時期があったとしても、やがてまたそのスタイルが主流になる時代が必ず訪れる。つまり、その時々の流行りを片目で見ながらも、デザインの源流をしっかりおさえておくことが、時代の変化に惑わされない適応力にもなるのです。
社員の意識向上が強い会社をつくる
普遍的な良さを見つめ直して強い会社をつくる
それは企業の営みも同じです。事業コンセプトを明確化し、それに伴う人材育成に時間をかけ、製品やサービスを向上させていく。こうしたビジネスの基本スタイルも普遍的です。ところが今は、個人の自由度と効率を重視して「わが社も働き方改革を!」とばかり『裁量労働制』を導入する中小企業が増えています。こうした企業を見ると、なぜ働き方を変える前に『社員の意識改革』を行わないのだろうと思います。
日本の文化性が、childish(チャイルディッシュ/子どもじみている)と言われるのは、表層を追いかけ過ぎる側面があるからだと思います。ここは一度立ち止まって考え直すべきでしょう。「今はこういう時代だから」という声に流され、目新しさや効率性ばかりを重視するのは危険です。世の中の気分に乗るのではなく、トラディショナルではあるけれど、普遍的な仕事のやり方を踏襲しつつ、社員のロイヤリティを高める努力をすることこそが、強い会社のボトムになるはず。これが私の自論です。
変えるところと、変えないところを把握する
バブル期を境に、日本は「見栄えの良さ」を追い求めてきたように思います。ビジネス上の自己体験で言えば、いち早くワープロを取り入れて文字を綺麗に見せることに始まり、パソコンの進化と共にその時代ごとの見栄えに気を配ってきました。しかしそれはある種の自己満足です。審美性は大事ですが、見栄えに執着するよりも、伝えるべきことを、いかに自分らしい「型」で表現するかの方がはるかに大切です。
強い企業というのは皆、独自の「型」を持っています。自動車メーカーでも、今は一様にガソリンから電気に、そしてAI搭載型のクルマへと、機能性の追求は足並みを揃えています。しかし、もともとの事業コンセプトは変えることなく、軽自動車に特化したメーカーは、相変わらずそのジャンルでトップシェアを誇り、高級車に力を入れるメーカーも同様の結果を出しています。そして社員は、そこに誇りを持っています。つまり『不易流行』という言葉がある通り、時代の要請に対応して"変えるべきところ"と、いかに時代が変わろうとも"変えてはならないところ"をしっかり把握すること、これが個性的なビジネスの「型」をデザインする上で最も重要な条件になるのです。
"働き方改革の前に、社員の意識改革に取り組むべきである"
Yuji Seino
清野裕司
1947年生まれ。1970年慶應義塾大学商学部卒業マーケティングを専攻 。商社、メーカーにてマーケティングを担当し、1981年(株)マップスを創設。現在、同社の代表取締役。マーケティング戦略の立案、商品・店舗の開発支援、営業体制の整備、ブランド開発、スタッフ養成の研修まで、業種業界を超えたマーケティング・プランナーとして、2500種類のプロジェクト実績。
株式会社マップス ホームページ:http://www.mapscom.co.jp
■記事公開日:2017/11/20
▼構成=編集部 ▼文=清野裕司 ▼写真=フリー素材