じっくり時間をかけて完成度の高い仕事をするのが「巧遅(こうち)」。
その対極にあるのが、粗が目立つもののスピーディーに仕事を仕上げる「拙速(せっそく)」。
現在のビジネス環境において求められるのは圧倒的に後者です。完成度が高いに越したことはありませんが、そこにこだわる余り、
動き出しが遅くなれば、ビジネスチャンスを逃してしまう場合もあります。
今回は、ビジネスのトレンドスキル「拙速」の心がけについて考えます。
100%の質を求めるより、早く完成させること
仕事の質は、そこにどれだけの時間を費やしたかで決まる。高度経済成長以来、長らく"美徳"とされてきた日本のビジネスパーソンのスタンスです。
一方、老若男女の垣根を越えたコミュニケーションツールFacebook。その創業者であるマーク・ザッカーバーグ氏の仕事に向かうスタンスは、「Done is better than perfect(完璧を目指すより、まずは終わらせろ)」というものだそうです。業種や立場によって賛否が分かれるところでしょうが、個人的にはザッカーバーグ氏のスタンスに「いいね!」です。
私なりの言い方に置き換えると、ビジネスパーソンに求められる心がけは、「考えすぎる"巧遅"よりも、まずはやってみる"拙速"」というものになります。その理由は、ビジネスの速さが問われる今は、時間が経てば条件や状況がより厳しいものへと変化してゆくからです。良いビジネスアイディアを思いついたとしても、その実現を他者に先を越されてしまえばアイディア自体の価値が半減します。したがって、完璧でなくとも早く完成させて提案し、そこからブラッシュアップしていく方が優位に立てる時代なのです。
考え抜いたものが必ずしも正解であるとは限らない
次に繋がるベターを出し続けることが必要
管理職クラスの方の中には、「拙速」という言葉に良い印象を持たれない方もいらっしゃると思います。「中途半端な仕事はせずに、とことん考え抜いてきちんとしたものを提案するべき」と考えるのは確かに道理と言えるでしょう。
しかしながら"とことん考え抜いたもの"が必ずしも正解であるとは限りません。どれだけ時間をかけても、相手の反応が悪ければ方向性の修正が必要になります。いうなれば、「いち早く相手の反応を知り、いち早くその対応策を考える」、これがビジネスを成功に導く鍵になります。
私は、「拙速」の繰り返しこそが仕事の本質だと考えています。商品も、売れなくなったら諦めて終売してしまうわけではありません。何度でも改良して、あの手この手で再び世に出そうと試みます。そうした営みは、時代の変化に応じて絶えずカタチを変えて適応し続けるチャレンジでもあります。つまりビジネスとは、今のベストを出して終わりではなく、次に繋がるベターを出し続けることが必要なのです。
ビジネスのゴールを阻害する部分最適の弊害
ビジネスにおける「巧遅」の問題点は、部分最適の追及に偏りがちになることです。繰り返しになりますが、「とことん考え抜いてきちんとしたものを提案する姿勢」これは決して悪いことではありません。問題なのは、そこにどれだけの時間をかけるかです。仕事は皆が一つの目的に向かって協働し、全体最適を目指すべきものですが、往々にして「自分の仕事が一番大事」と考える人が少なくありません。結果、そこに時間をかける余りに、次の作業をする人の時間が削られてしまう。これでは良い成果は挙げられません。
これは、弱いサッカーチームに似ています。自分のところにボールが来れば「いいところ見せてやろう」と必死になってプレーをするけれど、ボールをパスした後は我関せずでフォローにまわることもない。個々の選手だけ見ていれば頑張っているように見えますが、これではチームが勝てません。一方、常勝チームは個々のプレーがスピーディーです。一人ひとりの選手が試合を俯瞰しながら、自分の役割を素早くこなし次の選手に繋いでゆく。そのスピードがゴールのチャンスを生むのです。これはビジネスも同じです。
"即提案、即修正。拙速の繰り返しこそが仕事の本質である"
Yuji Seino
清野裕司
1947年生まれ。1970年慶應義塾大学商学部卒業マーケティングを専攻 。商社、メーカーにてマーケティングを担当し、1981年(株)マップスを創設。現在、同社の代表取締役。マーケティング戦略の立案、商品・店舗の開発支援、営業体制の整備、ブランド開発、スタッフ養成の研修まで、業種業界を超えたマーケティング・プランナーとして、2500種類のプロジェクト実績。
株式会社マップス ホームページ:http://www.mapscom.co.jp
■記事公開日:2018/03/08
▼構成=編集部 ▼文=清野裕司 ▼写真=フリー素材