シリーズ清野裕司の談話室Vol.2 シリーズ清野裕司の談話室Vol.2

シリーズ清野裕司の談話室Vol.2

第10回 中小企業のブランディング

旧知の中堅メーカー社長からこんな相談を受けました。
うちの会社もロゴマークを変えて、今の会社イメージが一新するような
ブランディングをしようと思っているんです。
ついては、清野さんのところに一切合切をお願いしたいと思うのですが...と。

誠に有難い引き合いでしたが、思わず「う~ん」と唸ってしまいました。
新しいロゴマークの開発=企業イメージの刷新。この図式は前世紀の発想です。
しかしながら、今の管理職世代の中には、未だこうした考えの方が少なくありません。

単刀直入に言えば、ロゴマークを新しくしたところで企業イメージは変わらないし、
ステークホルダーに対してインパクトを与えることもできません。
ブランディングという言葉が独り歩きしている今、その本質を考えてみたいと思います。

イメージより、実体を知りたい

企業のブランディングが言われ始めたのは2000年以降のことです。それ以前のブランド論は、企業文化や独自性を反映させたロゴマークやキャッチコピーを発信することで"会社のイメージ"を社会と共有して信頼を獲得してゆく戦略のひとつ。いわゆるCI(Corporate Identity)のことを指していました。
ところが、ある事件をきっかけとして、イメージのみならず「どんな会社なのか」までが問われるようになりました。そしてそれは、マーケティングや広告の世界にも大きな影響を与えることとなったのです。

そのきっかけとなったのが、2000年6月に雪印乳業が起こした集団食中毒事件です。事件の核心は衛生管理の甘さに他なりません。しかしながら、雪印乳業のマイナスイメージを決定づけたのは、マスコミから質問攻めにあった当時の社長が思わず放った「俺だって寝てないんだ!」という逆ギレの一言でした。
その途端に世論は、衛生管理の甘さに輪をかけて、「雪印ってこんな会社だったのか!」と大バッシング。それまで構築してきた信頼も株価も大暴落して、組織体制の刷新とブランドの再構築が求められたのです。

日本は食品の衛生管理に優れていると誰もが思っていました。ところが、この事件以降は消費者の間でその神話が崩壊、食品業界全体でも「安全・安心」が第一のキーワードになりました。これに伴い、ブランディングの在り方も大きく変わりました。かつてはロゴマーク制作に数千万円もの予算をかけて、それを誇らしげにお披露目する"イメージ先行型のブランド構築"でしたが、事件以降は世間の目を意識した"実体型のブランド構築"が主流になり、その傾向はあらゆる業界に波及してゆくこととなりました。

小さな誠意を実体化してゆく

私の名前・清野裕司、これも相対する人にとっては"ブランド"です。ただし単なる記号に過ぎません。それが、人との関与によって最初に思っていた記号性からさらに拡張して「彼はあんなこともできるんだ」とか「こんな弱点があったんだ」といったプラス・マイナスが必然的に付与されてゆきます。
つまり、最初に抱いたブランドイメージがいつまでも変わらずにあり続けることは決してない。ここを常に頭に置いて今の自分(会社)の"形振り(なりふり)"を検証し続けることが、現代のブランディングの在り方です。

私はマーケティング・スタッフの仕事をしている限り髪型は変えませんし、夏でもネクタイを締めます。「それは清野さんの自由だろう」と思う方もいるでしょうし、事実妻からは「誰も見ていないわよ」と笑われます。ただ、それに対する唯一の反論は「私が私を見ている」ということです。したがって、どんなに暑い日であろうが私はポロシャツで仕事に臨むことはありません。それはまさしく私なりのブランディングであり、「ある形(なり)をしていれば、その振りをせざるを得ない」という主義主張でもあるのです。

私が守り続けたいのは、あの会社に行けば生真面目にマーケティングの話をしてくれるオヤジがいるということです。その生真面目さを人に対してどう見せるかといえば、お客様が見えたら全員が「いらっしゃいませ」と言ってお迎えし、帰る時にも全員でお見送りをするといったことです。つまり、心は見えないけれど心掛けは見える。思いは見えないけれど思いやりは見える。そうした小さな誠意を実体化してゆくことが中小企業のブランド構築には必要ですし、ブランディングの"作法"であるとも私は思っています。

清野裕司のmarketing eye

"ある形(なり)をしていれば、その振りをせざるを得ない"

Yuji Seino
清野裕司


1947年生まれ。1970年慶應義塾大学商学部卒業マーケティングを専攻 。商社、メーカーにてマーケティングを担当し、1981年(株)マップスを創設。現在、同社の代表取締役。マーケティング戦略の立案、商品・店舗の開発支援、営業体制の整備、ブランド開発、スタッフ養成の研修まで、業種業界を超えたマーケティング・プランナーとして、2500種類のプロジェクト実績。

株式会社マップス ホームページ:http://www.mapscom.co.jp

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■記事公開日:2019/04/10
▼構成=編集部 ▼文=清野裕司 ▼画像素材=PIXTA

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