シリーズ清野裕司の談話室Vol.2 シリーズ清野裕司の談話室Vol.2

シリーズ清野裕司の談話室Vol.2

コロナを生き抜く② 逆境を乗り切る神様の知恵

困難こそ発展の好機。これは松下幸之助の言葉です。
新型コロナウイルス感染症の拡大は、まさしく今世紀最大の困難。
わたしたちの働き方を変え、暮らしを変え、社会の在り方すら変えてしまいました。
そうした中で、多くの中小企業が困難な経営を強いられています。
一方、発想を変えて、新たなビジネスを創出している企業も少なくありません。
つまり、新型コロナウイルスが生み出した"新しい働き方"を、
"発展の好機"と考える企業も存在しているのです。
今回は、幾多の困難を乗り越えて会社を世界的企業に導いた"経営の神様"
松下幸之助の言葉にコロナを生き抜くヒントを探したいと思います。
「昔の精神論だ」などと先入観を持たずに、その意味を読み解いてください。

コロナ禍に見直したい先人たちの言葉

これまでのノウハウだけでは対処することが出来ない困難に追い込まれると、「もっと視野を広げておけば良かった」と反省することがあります。そこで問われるのが、いかに早く"未来志向の意識改革"をおこなえるかです。過去の勉強不足を嘆いたり、成功体験からヒントを得ようとするのではなく、今と向き合い、起きている事態にどう対処すべきかを"新しい視点"で考えることが肝心。そこから、従来のアプローチとは異なるビジネスメソッドが生まれる場合があります。
しかしながら、頭で考えた理屈だけでは解決できないことが登場してくるのがビジネスです。そのような時には、机上の論理が何とも脆弱なことかを思い知らされます。コロナの影響を受け、混沌とした状態にある今のビジネス環境は、まさにそれです。

経営戦略を空論で終わらせることなく、ビジネス現場で実践してきた先人の言葉には「なるほど!」と唸らせるものがあります。決められたルールのない「ゼロ状態」から新しい事業を起こし、その人なりのやり方を生み出し、それはやがて、その企業らしさとしてさまざまな分野でエビデンスとして現出させる。そんな経営をおこなった代表格、松下幸之助の発した言葉は、時代を超えて普遍的な意味を持ち、現代に投げかけられています。彼の言葉の一つひとつは「耳に残る」のではなく「心に響く」言葉が多い。なぜならそれは、彼が幾度となく"困難を生き抜き"、今に残る強靭な経営土台を築いたからに他なりません。

松下幸之助に学ぶ逆境のリーダーシップ

松下幸之助は、その著書『道をひらく』で次のような言葉を残しています。
「逆境。それはその人に与えられた尊い試練であり、この境涯に鍛えられてきた人はまことに強靭である。(中略)要は逆境であれ、順境であれ、その与えられた境涯に素直に生きることである。謙虚の心を忘れぬことである。素直さを失ったとき、逆境は卑屈を生み、順境は自惚を生む。逆境、順境そのいずれをも問わぬ。それはそのときのその人に与えられた一つの運命である。ただその境涯に素直に生きるがよい。」

父親が事業に失敗して、困窮する家庭の"口減らし"として、9歳で丁稚奉公に出された幸之助少年。その後、23歳で独立して、現・パナソニックの前身・松下電気器具製作所を設立するも、2度の倒産危機に直面。絶体絶命の崖っぷちに追い込まれながらも卑屈にならず、試練を乗り越え生き延びてきた彼の言葉に勇気をもらう経営者は少なくありません。
その一方で、「精神論では今のコロナ危機を乗り越えることはできない」と考える方もいらっしゃることでしょう。「教えて欲しいのは、具体的なアクションプランだ」と。そこで、松下電器最大の倒産危機といわれた1929年の大不況のときに松下幸之助がとったリーダーシップをご紹介しましょう。

1929年の大不況はアメリカの株価の大暴落に端を発し、世界経済が激しく衰退した大恐慌の時期に当たります。日本国内でも経営不振に陥る企業が溢れ、松下電器も従業員を半減させなければ生き残れないところまで追い込まれていました。そこで松下幸之は社員を前にこう言ったそうです。
「従業員は1人も解雇しない。工場は半日勤務として生産を半減するが、従業員には日給の全額を支給する。その代わり、休日返上で在庫品の販売に全力をあげてもらいたい」と。

これが松下電器最大の危機に"経営の神様"が発揮した究極のリーダーシップです。経営者としての覚悟もさることながら、在庫を売り切るまでは休日返上という厳しさを示すあたりに、リアリティを感じるのは私だけではないはず。会社が危機的状況にある時は、第一に従業員のことを考えなくてはいけない。しかし、その状況に応じて可能な限りの利益も追及しなくてはいけない。コロナ禍の今、経営陣に求められるのは、こうした発想ではないでしょうか。

清野裕司のmarketing eye

"逆境は卑屈を生み、順境は自惚を生む。"

Yuji Seino
清野裕司


1947年生まれ。1970年慶應義塾大学商学部卒業マーケティングを専攻 。商社、メーカーにてマーケティングを担当し、1981年(株)マップスを創設。現在、同社の代表取締役。マーケティング戦略の立案、商品・店舗の開発支援、営業体制の整備、ブランド開発、スタッフ養成の研修まで、業種業界を超えたマーケティング・プランナーとして、2500種類のプロジェクト実績。

株式会社マップス ホームページ:http://www.mapscom.co.jp

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■記事公開日:2020/12/01
▼構成=編集部 ▼文=清野裕司 ▼画像素材=Adobe Stock

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