ひと頃、「2020年問題」という言葉が話題になったのをご記憶でしょうか?
これは、人口構造のねじれによって日本の将来を揺るがすような問題が
2020年を境に顕在化してくるという推察でした。
その核となるのが少子高齢化です。
団塊世代は後期高齢者となり、バブル世代や団塊ジュニア世代も50歳代に突入し、
少子化が進み、人口構造のピラミッドは逆三角に。雇用、介護、教育、住宅など、
さまざまな場面で深刻な問題が発生することが予想されてきました。
ところが、2020年を迎えた昨年、私たちが直面したのは、
全くの想定外だった感染症・新型コロナウイルスのパンデミックでした。
そうした中で、かねてより問題視されてきた2020年問題には手を打つ間もなく、
多くの人や会社が苦境に立たされ、それに対する行政支援も疎かなままに1年が過ぎました。
こうした中で新年度を迎え、私は一旦基本に立ち返り、
「マーケティングとは何か」を改めて考えてみました。今回はそれにお付き合いください。
マーケティングは時代のガイド
21世紀に入ってこの20年、世界は実に多様に、そして猛スピードで変化してきました。変化する状況に合わせて時代を生き抜き、成長してゆくためには、新たな思考力が求められます。過去のやり方や考え方を頑なに守り通そうとするのではなく、現実を直視した、変化適応型の柔軟かつフットワークの良い行動力が必要になります。
会社は"生き物"です。生き物は自分が生きてゆく環境に合わせてカタチを変えて生命を維持し、より強く、賢く進化します。環境変化にうまく適応できずに進化を止めてしまうことを「ガラパゴス」などとも言いますが、自分の周りが変わっているのに、自分だけが変わらない。それでは時代に取り残されたガラパゴス的な存在になってしまいます。今はその時々に起きている変化が、いつの間にか社会の当たり前の風景になる時代なのです。
そうした変化に適応した経営を実践するためのガイドとなるのが「マーケティング」です。マーケティング(Marketing)は「Market(市場)=交換の場」の「現在進行形(ing)=変化」に、交換の主体者として積極的に関わってゆこうとする経営のこと。この前提はいつの時代も不変的なものと言えるでしょう。
経験が異なれば、価値の共有は難しい
現在は「経験経済」の時代と言われます。経験経済とは、商品やサービスの評価基準に影響を及ぼすのは、何事も"顧客の経験"が決め手になるといった考え方です。しかし、個人個人が持つ経験は異なるため、同じ時代に生きていたとしても価値の共有が難しいのが現実です。
ビジネスから少し横道に逸れますが、人によってコロナウイルスに対する危機感が違うのも、同じ事象と言えるでしょう。私は日々、新聞やテレビニュースなどで"コロナの今"に触れています。感染者の増減はもとより、ビジネスに、医療に、家庭に、教育に、あらゆる現場にコロナがもたらす影響について、また、その深刻さについて幅広く知ることができます。
ところが、新聞もテレビもほとんど目にしない若い世代は、インターネットの配信ニュースを情報源としてコロナと向き合っています。インターネットは二次情報であるため、同じコロナの情報に触れるにしても、その量や質、リアリティが異なり、"正しく恐れる"ことができません。結果、それが今の日本の窮状を招いた1つの原因になっているとも考えられます。
生活の中にもマーケティング思考を
目の前の事象を判断する尺度は、それまでに積み重ねてきた自らの体験がベースになります。つまり、過去の自らの選択や決断など、その成果が現在の会社やあなたの姿になっているのです。それは、ビジネスシーンだけのことでなく、コロナ禍を生きる私たちの日常生活においても全く同じことが言えます。そして、現在の想いやおこないが、2年後、3年後の会社やあなた自身の在り方を決めます。そのガイドとなるのがマーケティング思考です。
マーケティングは、単に組織が利益をもたらす市場分析の手段ではありません。常に顧客の立場に立って自らの行動(企業活動)を見直すツールとして、また、時々の状況変化に合わせて最適な道をガイドしてくれる"思想体系"のようなものでもあります。そしてそれは、"コロナ禍を生き抜く指針"にもなると私は考えています。そのためにも、会社や生活の中にもっとマーケティングを取り入れてください。ウィズコロナという極めて特殊な環境に適応して、強く、賢く進化しゆくためにはマーケティングが必要です。
"マーケティングは、コロナ禍を生き抜く指針にもなります。"
Yuji Seino
清野裕司
1947年生まれ。1970年慶應義塾大学商学部卒業マーケティングを専攻 。商社、メーカーにてマーケティングを担当し、1981年(株)マップスを創設。現在、同社の代表取締役。マーケティング戦略の立案、商品・店舗の開発支援、営業体制の整備、ブランド開発、スタッフ養成の研修まで、業種業界を超えたマーケティング・プランナーとして、2500種類のプロジェクト実績。
株式会社マップス ホームページ:http://www.mapscom.co.jp
■記事公開日:2021/04/15
▼構成=編集部 ▼文=清野裕司 ▼画像素材=PIXTA