シリーズ清野裕司の談話室Vol.2 シリーズ清野裕司の談話室Vol.2

シリーズ清野裕司の談話室Vol.2

コロナを生き抜く⑤ コロナ禍で"考動力"を鍛える

日本マーケティング協会の定義によると、「マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である」とされています。随分と難解でリアリティのない定義を掲げていますが、この定義に理解を示し、「よし、わが社も経営ボトムにマーケティングを導入しよう」と考える企業はおそらく1社もないでしょう。
私なりにマーケティングの定義を言葉にするなら、「多様化するニーズの中で、顧客に商品やサービスを選んでもらうまでの全過程の活動」といったものになります。デジタル化の波はもとより、昨年来からのコロナ禍にあって、市場は刻々と変化しています。そうした今の時代の動きをマーケティング的視点で捉え、戦略的に考えることが、変化への適応力を高めることに繋がる。これが私の持論です。今回は、現在の私が考える"マーケティング論"をお伝えしたいと思います。

マーケティングをベースにした経営の実践

グローバル経済が進行する21世紀のビジネス環境。ここ近年は新たなビジネスモデルが模索されています。大企業モデルからの転換が言われ、AIやSNSを活用した独創的な発想で新規分野に挑戦するスタートアップ企業の躍進や、キープレス「企業見聞#24」で紹介されていた株式会社SEE THE SUNのようなコーポレート・ベンチャー(企業内起業による新たなビジネス領域創出)への注目度も増しています。

そこで論ずるべきことは、「企業=事業」は誰のために存在しているのかということです。言うまでもなくそれは、「自分たちの顧客のため」であり、さらには、「顧客の顧客」にまで目をやって、喜びを提供するためにあります。しかしながら現在は、自分が考える"良いもの"を供給し続けたからといって、企業の存続や成長は約束されません。個々の要望に適応したモノ(或いはサービス)の提供こそが、社会的に存在を許される条件なのです。そしてその傾向は、昨年来のコロナ禍でより一層浮き彫りになりました。

現在の社会環境は、予約の取れない三ツ星フレンチレストランが経営危機にあえぐような状況です。客離れの理由は拍子抜けするほど単純で、「ワインが飲めないから」だそうです。そうした一方で、若者のクルマ離れで長らく低迷を続けてきた都内の自動車教習所では、数か月先まで予約が埋まるという現象が起きています。さぞかしクルマ業界は潤ったものと思いきや、レンタカー事業者が「通勤プラン」を打ち出したりサブスクの台頭で、自動車メーカーの売上は軒並み右肩下がりが続いています。このように複雑化した状況下においてこそ、マーケティングをベースにした経営の実践が勝利を収める鍵になります。

環境変化への適応力の有無が成長のカギ

マーケティングの基本哲学は、環境の変化に創造的に適応しながら、経営のモデル自体を「顧客主導(基点)」に組み立てることにあります。しかも昨今はあらゆる面で多様化が進み、1つの手法をベンチマークすれば解が得られる時代ではありません。ところがビジネスの現場からは、「事業の在り方を再検証するなどというのは余裕がある会社がやること。余計なことを考えているヒマがあったら1本でも多くアポイントをとって利益を出してゆくことが先決」といった声が至るところから聞こえてきます。

しかしながら多様化の時代は、環境変化への適応力なくして企業は存続も成長も成し得ません。そしてそれは、コロナ禍であろうがなかろうが変わりないのが実情なのです。したがって、ビジネスを実践している一人ひとりが「自分自身で変化に気づき、磨き、成長する」こと。そして、個人的な経験を拠り所にするのではなく、幅広い視野で「考える力」を高めて変化に適応してゆくことが必要です。マーケティングはそのための絶好の学習ツールにもなり得るのです。
決められたレールの上で、「身体に汗をかく」ことを教え込まれたビジネスマンは、新時代の仕事の仕方を模索して「頭に汗をかく」よう指示されても、何をすればよいか迷ってしまいます。これは、企業の人材面から見ればなんとも勿体ないことです。人は本来、「考え」「生み出し」「作り上げる」能力を持っています。にもかかわらず、ただひたすらに「行動」する力ばかりを求めれば、「考動」する術を持たない人材が育つのは当たり前のことです。これからの企業は、「頭に汗をかける」人材を育ててゆかなくてはなりません。

コロナ禍を逆手に取って強みに変える

とことん考え抜いたことを、ビジネスの現場で実践してきた先人たちの声には「なるほど」とうならせる説得力があります。それは、自らの「夢」を実現しようとする強い想いが感じ取れるからだと思います。松下幸之助や本田宗一郎の発した言葉は、普遍的な意味を持って現代(コロナ禍の今)に投げかけられています。それらは"耳に残る"のではなく"心に響く"言葉が多く、研究者が一般化して発する"記号としての言葉"にはない、深さと強さを感じます。時には、こうした言葉に触れてみることも有意義な気づきを得る"学び"になると思います。

私自身、マーケティングの概念に出会って50年以上の時が流れました。その中で、いつも心してきたことは、たえざる「学びの志」を持ち続けることに他なりません。繰り返し先人たちの言葉に触れ、進むべき道を確認したり、「自分の強みとはいったい何か」を自問自答することもありました。人の目は前(未来)を見るように形成されていますが、時にはもう1つの目(心眼)を開いて、それまでと現在を見直し、軌道修正することも必要なのです。

さて、皆さんは自分(自社)の「強み」を自覚しているでしょうか? また、その理由をきちんと分析できているでしょうか? 会社の規模も実力もさほど変わらないライバルが、コロナ禍にあっても売上を伸ばしているのは何故でしょう? いろんな「何故」の解を求め、頭に汗をかいてください。普段より少しだけ時間のある今は、学び、考える習慣づくりの良い機会です。コロナ禍を皆さんの強みに変えてください。

清野裕司のmarketing eye

"これからの企業は、「頭に汗をかける」人材が必要です。"

Yuji Seino
清野裕司


1947年生まれ。1970年慶應義塾大学商学部卒業マーケティングを専攻 。商社、メーカーにてマーケティングを担当し、1981年(株)マップスを創設。現在、同社の代表取締役。マーケティング戦略の立案、商品・店舗の開発支援、営業体制の整備、ブランド開発、スタッフ養成の研修まで、業種業界を超えたマーケティング・プランナーとして、2500種類のプロジェクト実績。

株式会社マップス ホームページ:http://www.mapscom.co.jp

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■記事公開日:2021/09/28
▼構成=編集部 ▼文=清野裕司 ▼画像素材=PIXTA

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