シリーズ清野裕司の談話室Vol.2 シリーズ清野裕司の談話室Vol.2

シリーズ清野裕司の談話室Vol.2

"知識"は未来を創らない。躍動する"意識"が未来を拓く

理屈だけでは解決できないことが多く登場しているのが、ここ10年ほどのビジネスの現場です。このような施策を展開すれば、顧客は間違いなく動いてくれるはずだと思うのだが、その通りの結果が生まれてこない。予期せぬことばかりで、益々不安になります。
そのような時は、これまで蓄えてきた知識が、何とも頼りないことかを思い知らされるわけで、表層的に「知っている事実」よりも、心底思い込んだ「まだ見ぬ未来」を実現させようという深層的な意識の方が、どれほど人の心を動かす力になるかを思い知らされる時でもあります。
それこそ渋沢栄一の時代から、「ビジネスには創造的な行動が必要」と言われてきました。変化に適応するためには、変化自体に敏感でなくてはならない。ぼんやりと流れ去る時の中に身を置いていたのでは、単に車窓から眺める景色の移り変わりを見ているようなものに過ぎないのだと。そこで今回は、ビジネスの未来を拓く"躍動する意識"にフォーカスしてみたいと思います。

普遍的なビジネススキル「現場力」

ビジネスにおいて言い伝えられてきた言葉の1つに「現場百回」があります。何事も、現場で起きている事をつぶさに見ることによって、改めて新しい発想や方法が生まれてくることを言います。目まぐるしく状況が変わる現場には、机上の取りまとめには止まらないプラスαの何かがある。事実、日本のビジネスモデルの多くは、この「現場力」を背景にして成り立ってきました。そしてそれは、デジタル化が進む今も"不変的なビジネススキル"と言うことができます。

少し横道に逸れますが、先の衆院選では、インターネットによる選挙運動の効率化を主張してきた初代デジタル相が、選挙戦の風向きが悪いと見るや地元を練り歩き、「どぶ板」選挙を展開。ネット社会とは縁遠い高齢の有権者を前に、「皆さん、助けてください!」と叫んでいました。結果的には比例で復活したものの、小選挙区では「あなたは現場(選挙区)のことを分かっていない」と、有権者から「NO」を突き付けられた次第です。選挙とビジネスではスキームが異なりますが、"表層的な知識ばかりで躍動感に欠ける人の脆弱さ"といった点においては、極めて象徴的な出来事だったように思います。

トヨタに学ぶまだ見ぬ未来の拓き方

現場力を武器にした躍動感あふれる企業と言えば、まず思い浮かぶのがトヨタです。トヨタの経営はまさしく世界基準。経営やマーケティングを学んだ方には"耳タコ"でしょうが、「なぜトヨタは強い企業なのか」を簡単に説明したいと思います。

第一の着目点は、「改善意識」です。皆さんはこれまで、何か新しいことを始めようとした時、リスクを先に考えて、なかなか一歩が踏み出せないという経験はないでしょうか。それは、最初から大きな枠組みで動こうとしていることが原因です。最初は小さな枠組みで取り組めば、変化も小さく、仮に失敗しても小さな痛手で済みます。トヨタの仕事の流儀はまさにこの方式で、まずは身近な「作業」「設備」「工程」から改善をおこない、徐々にその範囲を広げ、最終的には組織全体の改善に繋げてゆくというものです。
第二の着目点は「行動意識」です。トヨタの経営姿勢は「改善は巧遅より拙速を尊ぶ」というもの。作業も決断も早いほどメリットが多く、スピード感のある仕事をするためには、常日頃から自分の仕事について熟慮しながら行動すべしとしています。つまり、日々の仕事の中で拙速と改善を繰り返してゆくことで、個々の現場力が鍛えられ、「水素エンジン」のようなリアルな未来を語ることができるようになるのです。

躍動的な今日の連続で良き未来を築く

ただし、未来については予測することしかできません。やがて起きるであろうことを想定して、目指すべき姿と現在の姿の間にあるギャップを埋めるための方策を練り、ゴールまで順を追って小刻みに実行の手筈を整えてゆく長期戦でもあります。

では、「長期」とは、どれほど先のことを言うのか。かつては10年計画などの言葉も聞かれましたが、最近はそこまで先のことを語る場面に遭遇することがなくなりました。私の感覚では、せいぜい3年をもって「長期」というケースが多いように思えますし、イトーヨーカドーグループの前CEO鈴木敏文氏によれば、「明日」という日に向けて打つ手を考えることが「長期である」といった指摘もあるほどです。

いずれにしても、明日のことは誰も知る由がありません。だからといって、その時に起きた現象に対応するだけでは新しい世界は広がってゆきません。「今日よりもっと良く」という意識を持ち続けていれば、違った自分を発見できるかも知れない。良き未来を創造するのは、躍動的な今日の連続に他なりません。

清野裕司のmarketing eye

"拙速と改善の繰り返しで現場力が鍛えられると、
リアルな未来を語ることができます。"

Yuji Seino
清野裕司


1947年生まれ。1970年慶應義塾大学商学部卒業マーケティングを専攻 。商社、メーカーにてマーケティングを担当し、1981年(株)マップスを創設。現在、同社の代表取締役。マーケティング戦略の立案、商品・店舗の開発支援、営業体制の整備、ブランド開発、スタッフ養成の研修まで、業種業界を超えたマーケティング・プランナーとして、2500種類のプロジェクト実績。

株式会社マップス ホームページ:http://www.mapscom.co.jp

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■記事公開日:2021/11/11
▼構成=編集部 ▼文=清野裕司 ▼画像素材=PIXTA

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