シリーズ清野裕司の談話室Vol.2 シリーズ清野裕司の談話室Vol.2

シリーズ清野裕司の談話室Vol.2

マーケティングは『縁の連鎖』の創造活動

ほぼ半世紀強前に大学で『マーケティング』という言葉に出会いました。それは、1つの正解を導く学問ではなく、多様な解を考え出すアプローチであることを知り、「ならば、さまざまなビジネスフィールドで多様な解を探してみよう」と、長きにわたってマーケティング・スタッフワークを続けてきました。

「70歳を過ぎても好きな仕事を続けている清野さんは幸せものだ」という声を耳にすることがあります。しかし、ビジネスのフィールドは好きなことばかりがあるわけではありません。時には嫌なことも意に沿わないこともあります。ただ、嫌だと思ったことも"次なる自分を生み出す機会"と心得た時に嫌なことではなくなるもの。つまり、自分の心と会話したかどうかが問われるのです。「心こそ、心惑わす心なれ。心に心、心許すな」という沢庵禅師の言葉があります。困難に遭っても志(こころざし)を持った自分と向き合えれば歩み続けて行こうと思えるもの。今回は、私の心にある『マーケティング道』をお伝えします。

縁を思い起こしながら『知層』を発掘する

志を持って自分で考えたことは、メディアや書物などで解説される知識を越えて自分の解釈が加わった知見になります。更に経験が加わると知恵となって重なり合っていきます。さながら幾層にも積み重ねられた地(知)層のようなものです。それらは時おり再発掘して状態を検証してみると良いでしょう。地(知)層に厚みが増して盤石な知恵になっている場合もありますし、クラックが入り脆弱(時代遅れ)な知恵になっている場合もあります。

マーケティングを手段としてのみで捉えてしまうと、新しい地層は早々重なるものではありません。それよりも、自らの人生の「縁」を思い起こしながら『知層』を再発掘すると、なんらかの新しい発見が必ずあるものです。現在のビジネスは過去に蓄積されたモデルを使い回せる環境にはありません。自分の頭で創造(想像)することが求められ、今まで以上に新しい知恵の連繫が求められます。時代に相応しいエキスパートな人材ネットワークも必要です。マーケティングは『縁の連鎖』の創造活動だと私は捉えています。

デスクで数字を見ているよりも街へ出よう

人の目は、前(未来)を見るように形成されていますが、時にもう1つの目(心眼)を開いて、これまでと現在を見直してみることが、明日への道を切り拓いて行くためには必要です。過去の事実を細やかに読み解いても決して未来図は描けません。それは重々承知の上、過去を振り返り、その事実を否定せず、今目の前で繰り広げられている"不思議なこと"に思いを寄せ"差異"を考えることが大事です。

混雑した通勤電車の中でスマホを器用に操りながらゲームに熱中するビジネスパーソンが幼く見えるのはなぜなのか。同じく、揺れる通勤電車の中で細やかに化粧をすることは、もはや女性にとって"恥ずかしいこと"ではないのか。ポケモンキャラクターを捕まえようと多くの大人たちが躍起になっているのはどうしてなのか......、
さまざまな"不思議現象"が世の中には溢れています。次代を見るためにはデスクに座ってただ数字を眺めているよりも、人々が行き交う街角の息吹に触れて、その行動を見ていた方がこれから起きそうな変化に気づくのではないだろうか。寺山修司風に言えば「数字を捨てよ、町へ出よう」、これが私の信条です。

求められているのはスキルでなくセンス

マーケティングは未来に向けた仮説を考え出すことがその役割です。過去を解析するスキルを高めることも大切ですが、それ以上に「今起きていることがこれからの潮流になるか否か」といった捉え方をすることが大事。それは個々が持つ『感度・感覚』でありマーケティング・センスと言うことが出来るでしょう。

これからのビジネスに問われるのは「スキル」ではなく「センス」です。スキルを高めるためにはさまざまな方法がありますが、センスは人から習って高まるものではありません。主体的に多くの人やモノに触れて、その中から何かを学び取り、その人なりの感受性を高めることがセンスを磨く唯一の方法です。

人生には過去を消す消しゴムは与えられていません。先を描くペンだけが与えられています。行く先にどのような景色が見えるのか。それは歩み行くことでしか答えは見えません。今の時代に活躍する世代の邪魔をすることなく、描くは『未来』、守るは『夢』、動くは『今』を心しながら歩み行く道。それが私の『マーケティング道』です。これからも、共に歩み行く同好の士との出会いの縁があることを願っています。

清野裕司のmarketing eye

描くは『未来』、守るは『夢』、動くは『今』

2013年3月のキープレス初配信当初からアドバイザーとしてご尽力いただいた清野裕司さんが、11月15日に急逝されました。今回のコラムは病床からお送りいただいたもの。最終話となります。長年のご愛読、ありがとうございました。

Yuji Seino
清野裕司


1947年生まれ。1970年慶應義塾大学商学部卒業マーケティングを専攻 。商社、メーカーにてマーケティングを担当し、1981年(株)マップスを創設。現在、同社の代表取締役。マーケティング戦略の立案、商品・店舗の開発支援、営業体制の整備、ブランド開発、スタッフ養成の研修まで、業種業界を超えたマーケティング・プランナーとして、2500種類のプロジェクト実績。

株式会社マップス ホームページ:http://www.mapscom.co.jp

オフィスを借りたい・移転したい インターネットで簡単検索 www.miki-shoji.co.jp
■記事公開日:2023/11/29
▼構成=編集部 ▼文=清野裕司 ▼画像素材=Adobe Stock

過去の記事

ワークスタイル・ラボ
〈18〉
余裕がなければ成長できない!『組織スラック』な働き方 東日本大震災以降、BCP強化の対策として... 2024.10.29更新
オフィス探訪
〈22〉
壁が動く マインドが動く 未来が動く 小松ウオール工業株式会社のライブオフィス 小松ウオール工業株式会社は、石川県... 2024.10.29更新
駅チカビル
〈16〉
大規模再開発により 駅を起点に街全体がバージョンアップ 川崎市の顔は「ビジネスエリアとして完成された... 2024.10.29更新
ビジネスマンのメンタルヘルス
〈25〉
人間関係が仕事のパフォーマンスを左右する 厚生労働省がおこなった調査によれば... 2024.10.29更新
リアル・ビジネス
英会話〈31〉
〈31〉
It's a beautiful day. スモールトーク アメリカのビジネスシーンでは... 2024.09.25更新
エリア特集
〈38〉
100年に1度の渋谷駅周辺再開発プロジェクトがいよいよ最終段階へ! 前回渋谷を取り上げたのは2018年11月... 2024.09.24更新
若手のための
“自己キャリア”〈23〉
〈23〉
創造力 ニーズの多様化が言われ変化が著しい... 2024.09.24更新
ワークスタイル・ラボ
〈17〉
人材難の時代でも生産性を高める施策を!ワークスタイル変革 2016年に厚生労働省は『働き方の未来2035』という... 2024.08.30更新
ビジネスマンのメンタルヘルス
〈24〉
ハラスメントになりやすいNGワード 2020年6月、「パワハラ防止法」が施行され.. 2024.08.27更新
オフィス探訪
〈21〉
ブランドイメージを高めるCAMPARI JAPAN株式会社のオフィス 世界190超の国々で酒類ビジネスを展開する... 2024.08.27更新
エリア特集
〈37〉
高機能オフィスビルへの建て替えを促して「選ばれる街」に 東北の経済を牽引する100万人都市仙台市では... 2024.07.30更新
時事考論
〈5〉
どうして日本は遅れているのか 先ごろ世界経済フォーラムが発表した... 2024.07.30更新
文字サイズ