「プレゼンを終えて契約をせまると、日本のビジネスマンは勿体つけてmaybeと答えた。日本語でこれはNo同然の意味なんだ」と。ゲイツはそれを"愉快なエピソード"として笑い話にしています。
しかしこれは、あまりにも的を得た皮肉です。maybeは「たぶん」や「おそらく」と訳されます。曖昧な表現が多い日本人にはとても使い勝手の良いフレーズですが、状況によってはネイティブには不愉快に思える"要注意"の表現なのです。
Maybe it will rain tomorrow. (たぶん明日は雨だね)
天候のように、自分の意思では決められない不確かな事柄を表現する場合はmaybeが妥当です。その一方、自分の意思で決められることを問われたときに、安易にmaybeを使うと相手をイライラさせたり失望させることにもなりかねません。たとえば客先から「明日見積もりを貰える?」と問われて、こんなふうに答えてしまったらアウトです。
Maybe all right. (たぶん大丈夫です)
これを聞いた客先は「この人本当にやる気があるの?」と思うはずです。理由は"信頼度"の低さです。ネイティブは、maybeの「たぶん」を3割程度の信頼度で解釈します。つまりこの表現は"期待せずに待っててください"と言われているようなもの。ゲイツが日本企業の交渉力を皮肉ったのはまさにここです。信頼度の高い返事をしたい場合は、probablyをお勧めします。
Probably all right. (おそらく大丈夫です)
Probably I can submit it tomorrow. (おそらく明日には提出できます)
maybeの信頼度が3割程度であるのに比べて、probablyには8割くらいの信頼度があり、より大きな安心感を与えます。ただmaybe同様、「probably=おそらく」という副詞を入れてしまうと、どうしても曖昧な印象を与えてしまうため、ビジネス上の会話で相手の要求に対する切り返しには控えた方が無難です。Probably I can submit it tomorrow. (おそらく明日には提出できます)
当たり障りのないビジネスライクな表現はこれです。
I think I can submit it tomorrow. (明日には提出できると思います)
確約できない懸念要素がある場合は「I think〜」と表現するのが、より丁寧で前向きな印象を与えます。私たちがよく使う「たぶん」は、日本語特有の表現です。ネイティブに対して頻繁に使っていると「なんで自分のことなのに分からないの?」と訝しがられてしまいます。ビル・ゲイツの愉快なエピソードではありませんが「おかしな英語を使う日本人がいてさ」などと陰口をたたかれぬよう言葉選びは慎重に。