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Vol.9相手をイラっとさせる余計なひと言 [上司のNGワード編①]


どのような業態であっても、業務をスムーズに進めるためにはスタッフ間の良好なコミュニケーションが欠かせません。とはいえ、全員の気持ちが乱れることなく一致するケースは稀で、ほとんどの場合は、部下の方が上司との折り合いをつけて、ストレスを感じながら働いているのが現実のようです。とくに気持ちを逆なでするのが"上司の何気ないひと言"で、厄介なのは、その言葉を発した本人には全く悪気がないということです。悪気があろうがなかろうが、部下がそのとき受けた不快感を飲み込んでいれば、いずれはココロの健康が蝕まれ、関係不全に陥ることは間違いありません。
さて、皆さんはいかがでしょう? 悪気はない、けれども、不用意なひと言で部下をイラっとさせて、ストレスを蓄積させていないでしょうか? ご自分では気づく術もないと思います。そこで、累計32万部の大ベストセラー『よけいなひと言を好かれるセリフに変える・言いかえ図鑑』の著者であり、産業カウンセラーの大野萌子先生に、「言ってはいけないNGワードとその言いかえ例」を紹介していただきました。

NGワード1
若いのにしっかりしてるね

誉め言葉のつもりでも、「年齢」に関する発言はNGです。年配者がよく使う、「若いのにしっかりしてるね」という言葉も、その裏にある「若くて経験や知識も浅いはずなのに、意外としっかりしているじゃないか」といった思いが見え隠れする「エイジハラスメント」のワードです。この場合の言いかえのルールは、年齢に関する言葉を一切口にしないこと。単に、「しっかりしてるね」だけでいいのです。逆のケースも然りで、若者が高齢者に対して、「70歳を過ぎてもアロハシャツを着るなんて、カッコいいですね」と言うのも同じ理由でNGです。「アロハシャツお似合いです。カッコいいですね」と言えば、相手も「カッコいいでしょ」と素直に喜んでくれます。

「女性なのによく頑張っているね」「子どもがいるのに遅くまで仕事をしているんだね」というのもNGです。前者は「女性は体力がなくて頼りないものなのに」、後者は「子どもを持つ母親が遅くまで働いていて平気なのか」といった固定概念があるからこそ出てくるレッドカードの言葉。サッカーなら即退場です。

このように、相手の属性に対する一方的な価値観を押し付ける発言をして、言われた人が深く傷ついたり不快な思いをすれば、セクハラ、パワハラで訴えられる可能性もあるので、不用意な発言は慎むべきです。

年齢に関する発言はエイジハラスメントになる

NGワード2
要するに何が言いたいの?

仕事の相談や確認をしてきた部下の話が長くて、イライラしたことはありませんか?「今、こういうことをしていて、こんなことがあって、あんなことをして......」と経緯を一つひとつ説明されて、「要するに何が言いたいの?」と、つい、突き放した返事をしてしまった経験はないでしょうか。こうした返事の仕方は相手によっては、「仕事の相談を拒否された」「話を聞いてくれなかった」と受け取られて、ハラスメント扱いされることがあるので気をつけてください。

共有している情報が少なく、状況把握がすぐにできない場合は、「もう少し整理して分かりやすく説明して欲しい」と言うべきでしょうし、時間がない時は先に、「10分程度で説明をして欲しい」と、こちらの都合を伝えるべきです。それでも相手の話がまとまらず、言いたいことがよく分からない時は、「今の話の中で、一番言いたいことは何なの?」と、要点を聞き返すと良いでしょう。
状況把握がすぐにできない場合は、要点を聞き返す

NGワード3
それはやめたほうがいい

立場的に上の人が目下の人に言いがちなのが、「それはやめたほうがいい」と一刀両断するNGワードです。例えば、「投資を始めたい」という人に、「投資はやめたほうがいいよ。貯金が一番だよ」と言うのは単なる主観の押しつけに他なりません。しかし、「投資もいろいろあるよね。僕はリスクを考えてやっていないけれど、貯金もしながらやるなら安心かもしれないね」と言えば問題ありません。コミュニケーションの基本は、相手の思いを否定しないことが前提になるため、自分がやらない理由を伝えて、「でも、こういう方法もあるんじゃない?」と選択肢を与えることが賢い上司の在り方と言えるでしょう。決めるのは本人ですから、第三者が主観を押し付けるのは"余計なお世話"ということになります。

それでも、どうしても注意を促したいという場合は、「こういう理由があるから、私はこうした方がいいと思う」と、「これはあくまでも、自分の意見である」という前提で話をしてください。

カウンセリングをおこなう際、私は主観を押しつけるもの言いはもちろん、個人的な意見を言うこともしません。仕事を辞めたいという人にも、「辞めたいと思うほどの原因があるんですね」と受け止めます。そして、「どんな問題が解決できれば、辞めずに済むと思いますか?」と本人に問いかけます。あくまでも「主体は相手」なので、その軸がぶれないように会話をすると、相手に不快感を与えずに会話が成立します。
「主体は相手」を意識し、主観・意見を押し付けない

NGワード4
結果がすべてだからね

結果だけを評価してプロセスを評価しない人は、万事において短絡的な物の見方をしがちです。「普段はどこで何をしていようが、結果さえ出してくれれば関係ないから」という大胆な発想をする上司もいるでしょうが、同じ尺度で「結果がすべて」と言われた部下にしてみれば、「どれだけ努力したところで、結果を出さなければ評価してもらえない」とプレッシャーを感じて追い込まれ、次第にメンタルが疲弊してゆきます。「結果がすべて」は上司のNGワードの決定版とも言える禁句です。

例えば、月間の営業目標があとわずかで未達に終わった場合、「なぜ結果を出せなかったんだ!」と、目の前の数字だけを見てマイナス評価をする上司。かたや、「あとひと息で残念だったけれど、最後まで皆よく頑張ったと思う。来月こそは達成しよう!」などとプロセスをも考慮してプラス評価をする上司。この2つのタイプがいたら、部下のモチベーションを上げるのは間違いなく後者です。

部下と上手くいかない人の問題点は、多くの場合はそこにあります。良好な人間関係は、相手のいいところや頑張ったプロセスを「認める」ところから始まります。部下から慕われる上司は、必ずその好循環を作り出しているものですし、チームも好結果を出す傾向にあるようです。
相手のいいところや頑張ったプロセスを「認める」

Point産業カウンセラー・大野萌子さんからの
メッセージ

たったひと言で、元気をもらうこともあれば、反対にひどく落ち込んで、そのあと何度もそのフレーズが頭をよぎり、さらに嫌な気持ちになることがあります。
コミュニケーションは、相手のあることなので、どうしても相手のこと(言葉や態度)に目が行きがちですが、実は、そうではありません。コミュニケーションの是非は「自分の在り方」で決まります。つまり、相手の言葉や態度に期待するのではなく、常に、自分が良き振る舞いを心がける(意識する)こと。これが分かり合うための基本です。
「好意の返報性」という言葉をご存知でしょうか。好意を持って接する相手からは好意的に思われるということを示します。しかし、それを相手に求めることは難しいので、「言われて心地よい言葉」を自分から使いましょう。そうすることで、人からの反応も変わってきます。他者から丁寧に接してもらえた経験を積み重ねてゆくことによって、次第に自己肯定感が高まります。自己肯定感は生きる原動力です。もちろん仕事にも反映されます。ですから、自分のためにも自ら発する言葉に注意を向けて欲しいと思います。

取材協力:一般社団法人 日本メンタルアップ支援機構
東京都中央区銀座1-3-3 G1ビル7階
https://japan-mental-up.biz/
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■記事公開日:2021/08/26 ■記事取材日: 2021/08/19 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼イラストレーション=吉田たつちか

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