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ビジネスマンのメンタルヘルス

Vol.24ハラスメントになりやすいNGワード

2020年6月、「パワハラ防止法」が施行されました。「ハラスメント」とひと口に言っても、その内容はさまざまで、現在は「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「個の侵害」の6つの種類に分けられています。またそれらに加えて、部下から上司に対する「モラハラ」が増えているのがビジネスの現場の実情です。
ハラスメントの行為者(加害者)になりやすい人の特徴は、「物事を勝ち負けで判断する」「〇〇すべき論を強く持っている」などが挙げられます。こうした人は自分を客観視できないため無意識のうちに行為者になっていることがあります。では、どんな言葉遣いをすると相手にストレスを与えてハラスメントになってしまうのか。累計60万部を超えるベストセラー『言いかえ図鑑』シリーズの著者であり、公認心理師・産業カウンセラーの大野萌子先生に、「使われがちなNGワードと注意点」を解説していただきました。

上司から部下へのNGワード1 とりあえず見てればいいから やりながら覚えて

部下に対して、「自分で考えて仕事に取り組んで欲しい」と思う上司は多いはずです。しかし、「あれこれ口で説明するよりも、仕事は、見て・真似て・手や口を動かしながら身につけていくもの」といった信条を持っている人は、部下とのすれ違いを生みやすい傾向にあります。事実、「とりあえず今は見ていればいいから」と、あえて部下に指示を出さずにいた上司が、新入社員から「何も教えてもらえず、やることも、精神的な居場所もなくとても苦痛だった」と指導怠慢で訴えられたケースがあります。「言わなくても、そのうち出来るようになるだろう」という考え方はトラブルのもとになります。新人指導をおこなうような場合は、スモールステップで少しずつ業務のノウハウを教えていくことが大事です。
仕事は見て盗むもの?

上司から部下へのNGワード2 なんでも相談して 今は忙しいから後にして

上司とのコミュニケーションの取り方について悩みを抱える若手が増えています。その原因の一つが「ダブルバインド(二重拘束)」です。ダブルバインドとは、2つの矛盾したメッセージを同時に受けることで、心理的なストレスを感じたり、混乱したりすることを指します。例えば部下に、「なんでも相談してくれよ」と言っておきながら、実際に相談されると「今は忙しいから後にしてよ」といなしたり、「それくらいのことは自分で考えればわかるだろ」と突き放したり。これらは、相手を振り回すことでマインドコントロールをおこなう「モラハラ」に抵触する行為にもなり得ます。指導的立場にある方々は、自分がダブルバインドで部下と関わっていないかを意識してください。
いつでも相談してって言わなかった?

上司から部下へのNGワード3 なぜ、やらなかったんだ? なぜ、こうなったんだ?

使うタイミングによって「なぜ?」は、「デンジャラス・クエスチョン」と言われる"相手を追い詰める言葉"になります。例えば、不測の事態が起こったときの「なぜ?」がそうです。計画通りにいかないトラブル、それが"不測の事態"です。したがって、「なぜ?」と問われても即座に答えようがありません。にもかかわらず、つい口をついて出てしまう"上司のなぜ"。これは部下を不快な思いにさせるばかりでなく、「理由が分かっていれば、とっくにやってるわ!」と反発心を刺激します。「なぜ?」の多い上司は「問題解決思考」のタイプと言えますが、「追求」「脅迫」「叱責」と解釈される危険性もあります。もちろん原因究明が必要なこともありますが、そこで部下を追い詰めてはいけません。
「なぜ?」で相手を追い詰めてはいけない

部下から上司へのNGワード1 私じゃないとダメですか?

最近使う人が増えてきたのがこの断り文句です。「同じ給料なら少しでもラクをしたい」と思う人も少なくないでしょうし、「たいした仕事じゃないからやりたくない」「苦手なことはやりたくない」という別の理由で「なんで私なんですか?」「私じゃなくてもできる仕事ですよね?」と言い返す人もいます。理由は何であれ、こうした発言はビジネスの場では相応しくない「単なるわがまま」に他なりません。モラルを逸脱した「取扱注意」の危険人物に認定されないためにも、このような言葉を口にするのは禁物です。
仕事でわがままは許されない

部下から上司へのNGワード2 イヤです やりたくありません

上司から頼み事をされたときに「イヤです」「やりたくありません」と即答する。これほど倫理観に欠けた"物言い"はありません。そもそも仕事は「好き・嫌い」で選べるものではありません。最近はIT技術に疎い上司に対して、知識や経験が豊富な部下が、こうした返答をして嫌がらせをする「モラハラ」の例も多数報告されています。ビジネスの現場に「私情」を持ち込むのはルール違反です。本当に出来ないことを請け負う必要はありませんが、「面倒だから」といって感情のままに対応するのはいただけません。
「やりたくありません」は典型的な逆モラハラ

Point公認心理師・大野萌子さんからの
メッセージ

私たちは日本語を自由に操れると思いがちですが、実はそうではなく、決まりきったいくつかのフレーズを繰り返し使っています。意外と少ないボキャブラリーで事足り、同じ言葉を常に発しているのです。ですから、習慣になっている口癖はいつも不意に口からこぼれます。それが相手を追い詰め、自分に返ってくる言葉だったらどうでしょう。しかも何気なく使っていたとしたら...。
「好意の返報性」という言葉をご存じでしょうか?好意をもって接する相手からは、好意的に思われるということを示しています。しかし、相手にそれを求めるのは難しいので、言われて心地よい言葉を自分から使うよう心がけましょう。そうすることによって人間関係は変わります。
他者から丁寧に接してもらえた経験を積み重ねると、自ずと自分を認められるようになり、自己肯定感も高まります。自己肯定感は幸せに生きる原動力です。だからこそハラスメントが言われる昨今は、上司と部下の関係においても、発する言葉に注意を向けていただきたいと思います。「情けは人の為ならず」です。
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■記事公開日:2024/08/27 ■記事取材日: 2024/08/16 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼イラストレーション=吉田たつちか

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