ビジネスマンのメンタルヘルス ビジネスマンのメンタルヘルス

ビジネスマンのメンタルヘルス

Vol.3楽し気な人が腹立たしい。それ、"自粛疲れ"です。


5月25日に緊急事態宣言が解除されて、多くの企業ではオフィスに人が戻りました。あれから約3か月。事態は好転するどころかよりいっそう悪化していて、再び緊急事態宣言が発令され、オフィス街から人が消えても何ら不思議はありません。にもかかわらず、聞こえてくるのは、相も変わらず「三密を避けて」という呑気なかけ声ばかりです。
コロナの正体は未知なものゆえ、専門家であっても意見が違って当然です。ところが、事態が緊迫してくると、人は数ある意見の中でも"最悪の事態を想定した意見"になびきやすいもの。そのスパイラルに巻き込まれると、自分の方からあえてネガティブな情報に接近してドツボにはまる恐れがあります。あらゆる情報が曖昧で、先行き見えない不透明感が蔓延する今、人々の顔には疲れの色が滲んでいます。疲れきってしまう前に何か打開策はあるのか。産業カウンセラーの大野萌子先生にアドバイスをいただきました。

自粛警察になっていませんか?

周囲や自分の行動に強い不安感を覚えたり、人に対して寛容さを失ってしまうのが「自粛疲れ」の特徴です。例えば、今はマスクをしていても対面での会話には少なからず抵抗感があるものです。ところが、気心知れた人と久しぶりに会えば、ついつい話が弾んでしまうこともあるはずです。その時は発散できて楽しい時間を過ごせても、後になって、「あの人大丈夫だよね?もし、コロナのキャリアだったら完全に濃厚接触になっちゃうけど...」と、急に不安が押し寄せてくる。

あるいは、旅行に行った知人が楽しげな様子をSNSにアップしていようものなら、「おいおい、この時期にいったいなに考えているんだよ!みんな我慢しているのに」と非常に腹立たしく思ったり。やがてそれが火種になって怒りがどんどん膨らんでゆく...。そうした気持ちを「どう収めていいか分からない」という相談者が、ここのところ非常に多くなってきています。

前回取り上げた「コロナブルー」は、負の感情の鉾先が自分に向くことで不安感や焦燥感が芽生えました。「自粛疲れ」はそれに輪をかけて、自粛要請に従えない人を見ると「許せない!」という気持ちが湧いてくる"コロナ禍"です。「自粛警察」などと呼ばれる人たちの思想の根っこも、まさにここにあります。
人に対して寛容さを失ってしまうのが「自粛疲れ」

コロナは長期戦、覚悟はありますか?

私事で恐縮ですが、しばらく前に「ウィズコロナは長引く」と覚悟して、自宅の仕事場にも背もたれが高くてヘッドレストの付いたワークチェアを購入しました。それ以後は、自宅でも快適に仕事が出来るようになりました。

さて、ここでお伝えしたいポイントは、新しい椅子を買って自宅の仕事環境を整えたことではなく、「コロナとは気長に付き合ってゆく覚悟を決めましょう」ということです。現状を鑑みると、この騒動がひと段落するのは随分先のことのように思います。それがいつかは不明ですが、少なくとも年内中に劇的な状況改善はないでしょう。であるならば、覚悟を決めて「今の環境に最大限に順応してゆこう」と考えるのが心に負担をかけず快適に過ごせる秘訣だと思います。

私は、テレビやネットのニュースを話半分で見聞きするようにしています。あまり深刻に受け止めすぎて、「今だけ我慢すれば」とか「ここさえ凌げば」と窮屈に考えて時を過ごしたとしたら、期待外れになった時の反動が大きいからです。もちろん三密も避けますし、手洗いもこまめにします。それは大前提として、今私たちが心すべきことは、今後しばらくはコロナと上手に付き合ってゆく"覚悟"に他なりません。
コロナとは気長に付き合う覚悟を

同僚に"溝"を感じ始めていませんか?

だいぶ先のことになるでしょうが、アフターコロナを考えると、人付き合いの悪化が心配です。それを示唆する次のようなケースがあります。マスクをしていても「長時間の会話は自粛してほしい」というのは会社としては然るべき要請です。この時に、その要請をしっかり守って手短に話を終わらせようとする人と、「そこまで神経質にならなくてもいいでしょ」と言って話を続ける人の2つのタイプに分かれます。そこに軋轢が生まれるケースが非常に多いのです。そして、こうした倫理観の違いで溝が深まると人間関係を再構築するのが極めて困難になります。

今は休憩室での会話すら自粛が求められる時期で、明らかにコミュニケーションの機会が減っています。
コミュニケーションが少なくなれば行き違いが多くなり、「あれ?この人ってこんな人だっけ?」と思うところが見えてきます。しかし、この段階なら溝の修復はまだ間に合います。相手の言動や行動に対して疑問を感じたら、即座に真意を確認して疑問を解決してください。それがあなたの考えとは違っていたとしても、ここでは疑問を解決することが大事です。疑問を放置していると不満が蓄積してゆき、やがて不信感に変わります。人との関わりの中では、「自分の話が正しく伝わっていない」と思ったときや「相手の言っていることが理解できない」場合は、徹底的に確認をして行き違いを正すことが大切です。互いにマスクを付けてソーシャルディスタンスを守っていれば必要以上に怖がることはありません。大事なのは溝を深めないことです。
相手に疑問を感じたら、即座に真意を確認することが大切

即レスを期待しすぎていませんか?

対人関係に溝をつくる原因はコロナ下において"会話"が減ることだけではありません。よくありがちなのがメールを送った相手からなかなか返事が来ないというケースです。こうした場合にイライラしたり腹を立てたりする人がいますが、道理からすればそれはお門違いです。なぜならメールで連絡をするのはあくまでもこちら(発信者)の都合です。あちら(受信者)にはあちらの都合があって、まだメールを読めていない、あるいは返信メールを書く余裕がないのかも知れません。
返信がないことで不安に駆られたり、困ることがあるのなら直接電話をして口頭で確認すべきです。これが常識的なビジネスセオリーですが、最近の若い方は、その電話がどうも苦手のようです。この件の詳細についてはまた別の機会に譲るとしますが、勝手にメールを送っておきながら、相手の事情も知らずに「あの人はいい加減な人だ」と決めつけてしまうのは本末転倒と言えるでしょう。

ここまでメールの受信者をフォローしておきながら手の平を返すわけではありませんが、即レスできない状況であっても、たったひと言「メール拝受しました。取り急ぎご報告まで。」と、とりあえずのカタチでも知らせておく配慮があれば、発信者も不安に思うことはありません。
基本的に、文字でのやり取りにはリスクがあります。文字で行違ったものを、文字で補おうと思うと泥沼になって余計ややこしい状況を招くことになりかねません。したがって、直接会うことが難しい相手と込み入った対話が必要な場合は、電話やZoomなどで直接的なやり取りをすることが望ましいでしょう。文字と言葉では、伝わり方の温度がまるで違います。
込み入った対話が必要な場合は直接的なやり取りで

気持ちをリセットできていますか?

ウィズコロナで、心に波風を立てず穏やかに生き抜くポイントは、「切り替えができる自分になる」ことです。人の記憶は簡単になくなるものではないので、嫌なことがあればそれを引きずることもあります。ただ、ネガティブなことを考えない時間があれば、しかも、そんな時間がこまめにあれば、精神的な負荷はかなり軽減されます。
一般化して説明しますと、楽器や語学、読書といった正統路線の趣味はもちろん、楽しみにしているテレビドラマやYouTubeを観たり、温泉の素を入れた入浴などでも結構です。どんなに小さなことでもいいので自分が夢中になれたり、心が開放されるものに接すると、気持ちが"強制リセット"されるのです。

本来ならば、レストランに食事に行くことなどが強制リセットには最適です。環境を変えることが一番の気分転換になるからです。例えば、クレーマーが来て怒り心頭と言う時に「別の部屋を用意しました」と言って部屋を移動するだけで怒りのトーンが変わります。環境の変化は気持ちに大きく影響します。なので、本当に煮詰まった人には部屋の模様替えをアドバイスすることもあります。そこまで大袈裟でなくとも観葉植物を置いたりして、物理的に自分の居場所の環境を変えるのは気持ちを変化させるには有効です。
いずれにしても、今は環境面で変化を求めるのはなかなか大変な状況にあるため、家にいる時間(自粛時間)が長くなればなるほど、あれこれ工夫を凝らして強制的にリセットする時間をつくることが大事です。
工夫して強制的にリセットする時間をつくる

Point産業カウンセラー・大野萌子さんからの
メッセージ

趣味といっても何をしていいか分からないし、楽しみにしているテレビドラマがあるわけでもない。ましては家に帰ってまでパソコンの画面に釘付けになりたくない。そんな「自粛疲れ」の方の心を整える手段としてお勧めしたいのが料理です。料理は五感(触覚、視覚、聴覚、嗅覚、味覚)を総動員する非常にクリエイティブな作業。あれこれ思案しつつも無心になれます。まずは、何を食べようかと考えることから始まり、食材を揃えて、調理をし、食べるというプロセスが心の定常化にとても効果的なため、自粛疲れで心の均衡が保てなくなくなっている方には、強制リセットの1アイテムとしてとても有効です。「料理なんてしたことない」という方でも、お手軽サイトなどを参考にしてぜひチャレンジしてみてください。

取材協力:一般社団法人 日本メンタルアップ支援機構
東京都中央区銀座1-3-3 G1ビル7階
https://japan-mental-up.biz/
大野萌子先生の新著のご案内
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産業カウンセラーとして2万人以上にコミュニケーションの指導をされてきた大野萌子先生の新著が発売されました。「よけいなひと言」と「好かれるひと言」を15シーン・141例を挙げて紹介。人間関係がスムーズになる「言葉のかけ方」を著者ならでは視点で解説した一冊です。

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■記事公開日:2020/08/26 ■記事取材日: 2020/08/05 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼イラストレーション=吉田たつちか

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