ビジネスマンのメンタルヘルス ビジネスマンのメンタルヘルス

ビジネスマンのメンタルヘルス

Vol.8コロナ禍で増えているビジネスマンの過緊張


養命酒製造株式会社が2018年に20代・30代のビジネスマンを対象におこなった『東京で働くビジネスパーソンの疲れの実態に関する調査』によると、職場で仕事に向かうときのみならず、家に帰っても仕事のことがあれこれ気になってリラックスできないという人が20.7%、ややその傾向にある人が38.2%、つまり、6割近くもの人が過緊張状態で過ごしていることが分かったそうです。
こうしたバックグラウンドに加えて、昨年来のコロナ禍で、本来は安息の場である自宅に仕事を持ち込むテレワークによって、心の均衡が保てずメンタル不調に陥ってしまう人が少なくないそうです。今後コロナ禍が長引けば、こうした人がますます増えて、より一層のケアが求められるようになることは間違いありません。そこで今回は、過緊張の原因と解消方法について、産業カウンセラーの大野萌子先生にアドバイスをいただきました。

程良い緊張感がないと力は発揮できない

大切なプレゼンテーションが緊張してボロボロの内容だった。誰にでも経験があることだと思います。中には「準備さえしていれば大丈夫」という人もいますが、むしろ、しっかり準備してきたからこそ「隙のないプレゼンをしなければ」と考えて、却って緊張してしまう人の方が多いように思います。

カウンセリングをしていると、プレゼンテーションどころか、「朝礼のひと言スピーチが苦痛」という人が結構いて、自分の順番が近づいてくると緊張して1週間前から眠れなくなるという相談を受けることもあります。これなどはもう、準備をしているか否かではなく、「他人の目が気になる」という、その人の"性格"に係わる問題で、その根底には、「人前でミスをしたくない」とか「恥をかきたくない」或いは「他人の評価が気になる」といった自意識の揺らぎがあるようです。
そうした一方、ある程度の緊張感がなければ良いパフォーマンスは発揮できないという考え方もあります。緊張状態にある人は、血圧や心拍数が上がり交感神経が優位に傾いた状態にあり、脳もカラダもアクティブになっています。つまり、緊張感を生む何らかの要素(他人の目や時間制限、自己達成感)などを意識するからこそ、仕事をしていても迅速な判断ができるし、テキパキ動くこともできる。逆に、休日出勤をして、誰もいないオフィスで、客先からの電話もないし締め切りもないという気分的に弛緩した状況下では、「思いのほか仕事が捗らなかった」ということもあるはずです。つまり緊張は「諸刃の剣」なのです。

緊張感があったほうが、パフォーマンスが発揮できる

コロナ禍で働き過ぎの人が増えた結果...

仕事をする場合はある程度の緊張感は必要ですが、ずっと緊張状態が続けばメンタルにかかる負荷はキャパシティを越えて、心身にさまざまな不具合が現れます。その状態が「過緊張」です。過緊張の人は、ONとOFFの切り替えが上手くできずに、四六時中仕事のことが頭から離れません。結果、時間を気にせずいつまでもパソコンの前に座って仕事をしています。東京都産業労働局の「多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)」によると、在宅テレワーク経験者が感じているデメリットは、「社内コミュニケーションに支障がある」と「長時間労働になりやすい」が上位に並びます。
過緊張はコロナ以前から問題視されていたことで、仕事が忙しくて負荷が多い、責任が重い、或いは、締め切りがあるなど、常に仕事に追われている人の中には、「土日は休みだけれど仕事のことが気になって気が休まらない」、「休み方が分からない」という人が少なくありませんでした。それがコロナ禍の環境変化が追い風となり、過緊張になる人が急増しています。

カウンセリングの際に、こうした人に対してまずアドバイスしているのは、「就寝前や休日はメールチェックを絶対しない」という"仕事の自主規制"です。
人間は「体内時計」が乱れなく時を刻むことで、昼夜の体内環境を変動させる「生体リズム」が生み出されます。本来的に人間の脳とカラダは、夜になれば副交感神経優位に傾き、体温や血圧、脈拍などが低くなってリラックスモードに入り、睡眠へと向かいます。この、睡眠までの助走期間で仕事を再開してしまえば、せっかくリラックスしていた脳やカラダが、不自然なカタチで交感神経優位に引き戻され、体内時計が狂います。これを防いで生体リズムを正しく維持させるためには、一日に成すべき仕事の計画を立てて仕事時間を管理することと、「あと、もう少しだけ」をやめて仕事を強制終了することの2つが大事です。
就寝前や休日はメールチェックを絶対しない

心当たりは?過緊張のチェックポイント

日常生活の中で「あれ、鍵締めたっけ?」といった些細な不安や、今まで気にならなかったことでイライラすることが増え始めた人は"過緊張予備軍"と言えます。また、「今日の仕事は終了!」と、一旦はパソコンから離れたのに、なんとなくメールが気になって寝る間際にパソコンを立ち上げてしまう。これを頻繁にするようになった人は、既に過緊張の領域に入っていると考えていいでしょう。何より分かりやすい判断基準が睡眠についてです。過緊張の人のほとんどは、寝つきが悪い、眠りが浅い、何度も目が覚めるといったことを訴えます。眠りが浅いがゆえに"ストーリー性のある夢を見る"という人もいます。

また、部下を客観的にチェックするポイントとしては、任せた仕事が動いていない、単純なミスを多発するようになった、頻繁に遅刻するようになったなどが挙げられます。
自分がその当事者である、または、部下がそのような状態にある場合は、医師に相談する(或いは勧める)ことも一理ですが、個人的な見解としては、病院に行くのは、日常生活が送れないほど支障がある場合として、まずは、今の日常生活にフォーカスしてみると過緊張の原因と解決の糸口が見えてくると思います。私の印象では、明日に回せる仕事に夜遅くまで向き合っていることが、過緊張のトリガーになっているように思います。
日常生活にフォーカスすると
過緊張の原因と解決の糸口が見えてくる

寝汗をかいて目覚めると脳は緊張する

よく言われる過緊張の予防策に、「3つのR(Relaxation、Rest、Recreation)」があります。早い話、「心身ともに休む時間が大事ですよ」ということです。ただ「休む」と言っても、ゴロゴロしているのではなくポジティブな「rest」です。今の時期なら一人でできることに限られますが、楽器の練習に打ち込んだり、最近流行りのシェア畑で汗を流したりするのもいいでしょう。つまり、仕事から完全に離れる時間を確保すること、強制的にでもONとOFFを切り替えて、生活に緩急をつけることが大事です。
また、脳の休息も必要です。そのためには上質な睡眠が欠かせません。とはいえ今年の夏は、例年以上に猛暑日が多いと予想されており、その分だけ寝苦しい熱帯夜を覚悟しなくてはなりません。そこで考慮したいのがエアコンの使い方です。熱帯夜は、どのタイミングでエアコンを切るかで睡眠の質が変わります。

奈良女子大で生活環境科学を研究する久保博子教授によると、3時間設定でタイマーを切ると入眠直後の深い睡眠(ノンレム睡眠)が2周期確保できるので良いそうです。ただし熱帯夜は、1時間もしないうちに室内温度が上がり、寝汗をかいて目覚めてしまいます。実はこの発汗が交感神経を優位に傾け、脳を緊張させる原因になります。熱帯夜でも朝まで快適睡眠を保ちたい場合は、26℃~28℃・湿度50~60%の「除湿運転」にして、厚手のタオルケットをかけて寝ると良いそうです。部屋の広さやエアコンの位置によってもその効果は違うでしょうが、寝苦しい夜に"快適睡眠を得るための工夫"は、過緊張の有効な予防策とも言えます。
寝苦しい夜は、快適睡眠を得るための工夫を

Point産業カウンセラー・大野萌子さんからの
メッセージ

昨年来のコロナ禍で、私自身も些か過緊張気味でした。コロナ以前は、午前中と午後に講義やセミナーが重なっていても、合間の時間で、静かなレストランに入って美味しいランチを食べたり、お茶を飲んでひと息ついだり、異なる空間に身を置くことで、リフレッシュ&リセットすることができていました。ところが今は、講義やセミナーもリモートでおこなうようになっているため、移動がないぶん、ついつい密に仕事を入れてしまいます。その結果、1つの仕事が終わってから次の仕事までのインターバルが短くなって、食事も慌ただしく済ませがち。テンションが高いまま1日が過ぎてゆきます。

夜は夜で、「あの仕事、どうなっていたっけ?」と不意に思い出して、ちょっと確認するだけのつもりでパソコンに向かい、気づけば深夜1時、2時などということが度々ありました。さすがに「これはまずい!」と思って生活リズムを見直し、今ようやく回復傾向にあります。したがって、今回の「過緊張」は他人事ではなく、これまでアドバイスしてきたことを自分自身で体験し、確信が持てたテーマでもありました。

取材協力:一般社団法人 日本メンタルアップ支援機構
東京都中央区銀座1-3-3 G1ビル7階
https://japan-mental-up.biz/
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■記事公開日:2021/06/29 ■記事取材日: 2021/06/14 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼イラストレーション=吉田たつちか

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