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Vol.19お手並み拝見 女性の昇進

9月13日に発足した第2次岸田再改造内閣は、「女性活躍は最重要課題」と強調して過去最多に並ぶ5人の女性閣僚を揃え"女性の積極登用"をアピールしました。ところがその2日後、副大臣(26人)及び政務官(28人)の全てを男性で固める人事を発表。各方面から「言ってることと、やってることが違うじゃないか」と批判の声が挙がりました。
政治の世界はこうした現状である一方、ビジネス社会では違った意味で女性の活躍が阻まれています。それは、ポストを奪われた男性たちの「お手並み拝見」といった妬み半分の視線です。広くダイバーシティが言われ、仕事ぶりが評価された者が出世するのが当然なビジネス社会にあって、昇進を躊躇する女性が多いという日本の実情。この憂うべき問題に、公認心理師の大野萌子先生に切り込んでいただきました。

ビジネス社会に男女格差はまだあると思いますか?

歴然として男女格差はあります。最近は会社のイメージアップのために女性活躍推進を推奨する企業が増えましたが、多くは昔と変わっていないように思います。企業でメンタルケアのカウンセリングをしていますと、「この歳になって女性上司の下で働くことになるとは思わなかった」などと、あからさまに不満を口する男性に遭遇します。
カウンセリングのような閉鎖的な場面では本音が出ます。そこでこうした言葉が出てくるのは、女性を軽視しているからに他なりません。数十年前、私が新卒で就職した会社の男性上司から、「何年くらいで辞めるの?」と本気で聞かれたことがありました。まだ女性は仕事の戦力外で、寿退社が"幸せな会社の辞め方"という考え方が強かった時代のことですが、そうした女性軽視は今も根強く残っていると思います。


※厚生労働省が2021年におこなった『雇用均等基本調査』によれば、課長職以上の管理職に占める女性の割合は12.3%で、部長職になるとわずか7.8%と1割にも届きません。そのため管理職になると人間関係においても男性中心の社会に入っていかなければならず、孤立感を感じるケースが少なくありません。
女性軽視は今も根強く残っている

女性が昇進を躊躇する理由は何でしょう?

女性自身も昇進に不安を感じている
出産や育児といったライフイベントを念頭に置くと、女性は管理職の責任を引き受けることに対して男性よりも戸惑いを感じやすく慎重になります。「負担が大き過ぎる」という思いが先に立ち、昇進の打診を断るケースも少なくありません。私がお付き合いしてる企業さまでも、女性の活躍を推奨しながらもこの壁を乗り越えられず、暗中模索されているのが実情です。育児や親の介護など、さまざまな事情を抱えながら仕事をしている女性がいるわけですが、昇進することで会社に拘束される時間が長くなり「ワークライフバランスが保てなくなるのでは」という不安を感じています。
さらに言うなら、昇進すれば出張や転勤の問題と向き合わなくてはなりません。管理職になってから毎週東京から青森に出張している女性を知っていますが、こうした働き方はよほどのバイタリティがないと務まりませんし、小さなお子さんがいる家庭では"母親の単身赴任"などは現実問題として不可能です。
とはいえ、リクルートなども視野に入れた会社のイメージアップのためには、女性が活躍している姿をカタチとして示さなくてはならない。そこで、"本命"に打診して辞退されても、二番手、三番手の方にそのポジションを割り当ててカタチだけは整えている。これが日本の職場における女性活躍推進の現状です。

女性管理職には"向き不向き"がありますか?

仕事が出来る人は責任感が強く、仕事もプライベートも中途半端になることを嫌います。全てを完璧にこなすことは無理なのに「どちらも疎かにしたくない!」という気持ちが勝り頑張ってしまう。そんな人だからこそ会社は"昇進の切符"を渡そうと考えるわけです。しかし、そこには「お手並み拝見」的な関わり方をする"意地悪な男性社員"もいて、完璧を求めようとすると自分の負担ばかりが大きくなって潰れてしまいます。
前例踏襲のような組織の中でポストを年功序列で与えられてきた男性にとって、自分たちと同じステージに自力でのし上がり越えて行った女性は脅威であり、目障りな存在でもあるのです。そういった点を考えると、責任感の強い完璧主義者よりも、いい意味でアバウトな性格の女性の方が管理職には向いている(環境に馴染みやすい)ように思います。
アバウトな性格の人は大きな視点で物ごとを捉える傾向があるため、細かいことにこだわらず仕事を進めます。未知の世界にも物怖じせず飛び込んで、その環境に素早く適応することも得意です。また、気持ちの切り替えが早く人間関係をこじらせてトラブルに発展するようなこともない。ただ、全体最適で仕事を進めるため"小さなミスを起こしやすい"といった短所もあるので、そこは注意が必要です。
細かいことにこだわらず仕事をすすめる

会社はどんな準備をすれば良いでしょう?

会社の風土と制度を刷新しなければならない
管理職としての適性(向き不向き)をジャッジする以前に、まず会社の風土と制度を今の時代に合ったものに刷新するべきではないでしょうか
例えば、女性に家事や育児の負担が偏っている現状を考えれば、育児休業制度や育休明けの復職制度などは真っ先に見直すべきです。雇用保険の育休手当とは別に、独自に休業中の手当を設けている会社もありますが(これ自体はもちろん素晴らしい取り組みです)、お金よりも、それぞれの家庭の事情に合わせて育休期間を延長出来たり、復職後のキャリア維持と働き方をサポートする制度設計が必要ではないでしょうか。おそらく当事者の女性たちもそれを望んでいると思います。
加えて、女性に昇進をためらわせているのが人間関係です。嫉妬や妬みなどによる人間関係の悪化は状況が見えにくいため制度化して抑止することは困難です。しかしそれが昇進に踏み切れない"足枷"になっている以上、解決に向けた対策を講じなければなりません。
女性が昇進することを快く思わない人がいる会社は、人事評価制度に問題がある(評価の基準が不透明)からだと思います。その人の実績や会社への貢献度などをきちんと理解していれば、「この歳になって女性上司の下で働くことになるとは思わなかった」などといった言葉は口に出来なくなるはずです。

Point公認心理師・大野萌子さんからの
メッセージ

女性リーダーが少ない、或いは存在しない会社は、多角的な視点を持ちにくいため時代の変化に対応出来ず、成長に陰りが見えて来ると思います。逆に、女性が溌剌としている会社には有能な人材が集まり成長が加速します。少し大袈裟な言い方をすれば、会社の明暗を分ける鍵を握っているのは"女性が活躍出来る企業風土の有無"ということが出来るでしょう。
学生の頃から上昇志向が強く「バリバリ仕事をやっていきたい!」と考えていた女性もいるでしょうし、社会に出てから専門性を身に付けて「自信を持った」という方も少なくないと思います。いずれにしても昨今は、結婚願望が希薄になっていることから、仕事を生きる土台として自分なりの人生を歩んで行きたいと考えている女性がたくさんいらっしゃいます。
多様な生き方が認められる時代ですし、昇進してそれ相応のサラリーを得ればそれを自分が選択出来る時代でもあります。にも関わらず、制度が未整備であるが故に仕事に忙殺されている女性管理職があまりにも多い。そうした方は上手に手を抜くことを覚えて、自分が決めた及第点や合格ラインを下げて欲しいと思います。大事なことは、自分で自分を苦しめないようにすることです。人生が豊かにならなければ昇進した意味がありません。
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■記事公開日:2023/10/25 ■記事取材日: 2023/09/23 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼イラストレーション=吉田たつちか

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