バブル景気の華やぎがまだかろうじて残っていた1990年代前半。衣・食・住・遊にわたって旺盛な"所有意識"を発揮してきた日本に、「人間工学に基づいた高機能ワークチェア」という触れ込みで"アーロンチェア"が上陸しました。それはまさしく『ビジネス成功者の象徴』というキャッチフレーズに違わぬ価格と座り心地で、一脚なんと20万円。いかにバブル期とはいえ、多くのビジネスマンにとっては高嶺の花でした。あれから20余年、座り心地に優れた高機能ワークチェアが続々と登場して、6、7万円ほどの価格でアーロンチェアと比較しても遜色のない椅子が手に入れられるようになっています。
デザイン事務所を経営する友人は、「ウチみたいな零細が、7万円もする椅子を買い揃えるなんてムリ」と言います。しかし、移転したばかりの新オフィスには、まさしくその価格帯の高機能ワークチェアがズラリ。「ウチみたいな零細が...なんて言いながら、相当儲けているな」と、疑いの目を向けると、「サブスクだよ」と面倒そうに話してくれました。
きっかけは引っ越しをする時のオフィス家具の処分だったそうです。捨てるにも費用や手間がかかるし、今どきリクライニング機能がないワークチェアなんて売れるわけがないしと、いろいろあって「所有するリスク」を痛感。そこで近ごろよく聞く「オフィス家具のサブスプリクション」を利用したそうです。
雑誌や映画、装飾品や自動車など、あらゆる分野で利用されているサブスクリプションサービス(サブスク)ですが、実は最近、オフィス家具の分野にもサブスクサービスの提供企業が進出し始め、利用する企業も増えているそうです。オフィス家具をサブスクで利用するメリットは次のようなものが挙げられます。
・初期費用を抑えて高級家具を利用できる
・一定条件を満たせば交換や解約も可能
・定額制のため月経費に変動がない
・契約期間満了後には使用商品の購入も可能
・社員満足の向上や働き方改革に活用できる
中でも最大のメリットは"初期費用を抑えて高級家具を利用できる"という点でしょう。仮にいま、アーロンチェアを正規販売店で購入すると21~23万円ほど。それを5脚購入すれば100万円を軽く超える高額な買い物になります。一方、サブスクを利用すれば一か月あたり7,500円*でリースが可能。つまり、37,500円で5人のスタッフ全員がアーロンチェアの快適さを享受できるわけです。
身の丈で所有するモノを選ぶのではなく、所有せずとも利用したいモノを選べる消費行動の推奨、もっと平易に言うなら、「経済力が乏しくても高嶺の花を利用できる」ことがサブスク最大の魅力と言えるでしょう。ただそこには、「いずれは俺もこの椅子に!」と憧れた『ビジネス成功者の象徴』といったプライズ感はありません。今後ますます拡大するだろう『オフィス家具のサブスク』市場、貴方は興味ありますか?
*オフィス家具のサブスクリプション型サービス会社:アーロンチェア取扱価格の一例
■記事公開日:2020/07/02
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=PIXTA