緊急事態宣言が解除されて約5か月、自宅待機や在宅勤務を課していた企業も社員をオフィスに戻しつつあります。このことで企業は、オフィス内でのクラスターを防ぎ、従業員の安全を担保しながら生産性を確保しなければならないという二律背反した課題を背負うことになったわけです。
職場での感染防止対策の取り組みが、ひいては、社会全体の感染拡大防止に繋がると考えられる今、ウィズコロナのオフィスワークで重要なのは"三密を避ける"ことに他なりません。同時に、オフィスの在り様も見直しが求められ、ネット上には感染症対策と経済活動を両立させるためのアイディアが散見できます。しかし多くの場合それらは、小規模オフィスで働く私にとってはまさしくオブジェクションで「異論あり」です。
たとえば、デスクを中央に寄せ集めた"島型レイアウト"では、ソーシャルな対人距離を保つことが困難です。そのため、対角や横並びの座席配置に変更したり、オフィスの固定席数を減らして会議室を執務室として転用したり、空間の四隅を生かしたデスク配置や、対面しない卍状のデスク配置など、さまざまなレイアウトが紹介されています。しかしながら、どのアイディアを採用するにしても、オフィスにそれなりの広さが必要で、リアリティが感じられません。
アメリカで事業用不動産を手がけるCushman & Wakefield社(C&W)は、『6 Feet Office(シックス・フィート・オフィス)』という、クラスター対策を重視したオフィスデザインを発表しました。特長は、自分のテリトリーとしてデスク周りに6フィート(約180センチ)の円を描き、他の社員がそれ以上近付かないよう可視化している点で、さらに、オフィスの床には一方通行の矢印マークを設け、常に時計回りの移動を促し、不用意な接触を防ぎ、安全な距離を保てるようにしています。その上でC&W社は、「在宅勤務からオフィスへの復帰は緩やかに、ただし漸進的に進めるべきだ」と主張しています。
非接触型オフィスの実現のポイントはまさしくここです。『新しい生活様式』の中にも、働き方の新しいスタイルの実践例として、テレワークやローテーション勤務の導入があります。脱・島型レイアウトもC&W社のシックス・フィート・オフィスも、実現させるためにはテレワークやローテーション勤務とセットで考え、オフィスへの復帰は"緩やか、かつ、漸進的"に進めるべきです。ところが現状を見ると、緊急事態宣言が解除されると「待ってました!」とばかりにオフィスに人が舞い戻りました。そうした一方で、中小・零細企業が実践しているコロナ対策といえば、除菌スプレーの設置や換気、せいぜいデスクの間仕切りやアクリルパーテーションの設置といったところが現状です。
デスクの配置をどうするか、そのためにどんな仕組みを導入するかも大事ですが、"広さの制約"がある中で、ポストコロナ時代のオフィスを計画する場合は、ローテーション勤務の継続が条件になると思います。
■記事公開日:2020/10/21
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=PIXTA