「東京の朝を、変えるぜよ。」これは"満員電車ゼロ"を目論んで、東京都が2017年からスタートした『時差Bizキャンペーン』のキャッチコピーです。ところが、キャンペーン広告が展開されるやいなや、「東京のことなのにどうして土佐弁なの?」と都民から非難が集中。時差通勤のメリットよりも、広告ばかりが悪目立ちして普及は進みませんでした。
行政の呼びかけでは説得力に欠けた時差通勤でしたが、今年、新型コロナウイルスの感染症拡大により満員電車の危険性が問題視され、出社が不可欠なオフィスワーカーのために"密を防ぐ"施策として、時差通勤を採用する企業が増えました。現在は、在宅勤務をしていた人がオフィスに戻りつつある中で、時差通勤は定着の兆しを見せ、アフターコロナを視野に入れた"新しい働き方"のボトムになりつつあります。
職場に在宅勤務組が戻ってくれば、今度は"感染リスクの低いオフィスづくり"が不可欠となります。事実、昨今は「夜の繁華街から職場や家庭へ」がコロナの新たな合言葉になっていて、人が集まる場所ならどこででも"対策を怠れば"クラスターは起こり得ることが共通の認識になっています。
肩が触れ合う満員電車ほどではないにしろ、近距離で会話をするオフィスは、飛沫感染が起きる条件を満たした空間といえるでしょう。WHOによれば、「わずか5分間の会話でも1回の咳と同じくらいの飛沫が飛散する」と報告しており、テレビでもお馴染みの専門家会議でも、オフィスの飛沫感染を防ぐ対策として"パーテーションの設置"を強く推奨しています。こうした中、「お金をかけずに3つの密を減らそう」と、独自の感染対策に取り組んだ自治体があります。それが鳥取県の『鳥取型オフィスシステム』です。
鳥取型オフィスシステムは、執務スペースに余裕がある部署は、職員のデスクに距離を設けたり、教室形式の配置に変更して執務をおこない、一定の距離が保てない狭い部署では、段ボールや食品用ラップなどを使った自作のパーテーションで飛沫感染を防止しようというもの。コストをかけずにできるコロナ対策として、県の『新型コロナウイルス感染症特設サイト』でも「参考にしてください」と呼びかけています。
間仕切りの実際例を挙げると、財務課などでは予算の査定をおこなう場合は、顔を突き合わせて1時間以上喧々諤々が続くことがあるそうです。そうした駆け引きは、相手の表情の変化を察知することも重要なポイントになります。そこで、対面のデスク間に立てる段ボール製のパーテーションの中央に小窓を設け、そこに食品用ラップを貼って窓代わりとし、相手の飛沫をシャットアウトしながら過不足なく仕事ができるように工夫しているそうです。
一方で、こうした取り組みに対して首をひねる識者もいます。「コロナウイルスは感染寿命が長く、放置されていた段ボールに付着したウイルスも感染源になり得る。物理的バリア(パーテーションの設置)に意識が高まるのは良いことだが過信するのは危険である」と。至極最もの指摘ですが、リスクのディテールを突いて危険視するより、"自分たちにできるところから、迅速かつ低コストで"といったスタンスで、コロナに臨んだ鳥取型オフィスシステムは大いに評価されるべきです。また何より、対策に潤沢な予算を割けない零細・中小企業にとってはリアリティのある取り組みではないでしょうか。
鳥取県:新型コロナウイルス感染症特設サイト
https://www.pref.tottori.lg.jp/item/1208843.htm
■記事公開日:2020/11/06
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=PIXTA・iStock