『テレワーク定着へ テコ入れ。実施率伸び悩み 冬のスムーズビズ開始』これは、12月1日の朝日新聞地域面を飾った大見出しです。内容を要約すると、新型コロナウイルス対策の1つとして都が呼びかけてきたテレワークは、夏以降の実施率が停滞。そこで、感染拡大が懸念される冬場、12月1日からの3か月間を「冬のスムーズビズ実施期間」と位置づけ、自社でテレワークルールを定めて"実践宣言"をおこなった企業を特設ホームページで紹介。そのほか、都の融資制度で利率を優遇したり、信用保証料を補助しようといった趣旨でした。タイミングの適否は別として、これまで「軽いだけで中身なし」などと揶揄されることもあった都知事の"キャッチフレーズ作戦"も、今回ばかりは本気度が違うようです。
テレワークは、働き方改革の一環としてコロナ以前から国が推奨してきたワークスタイルの1つです。ところが、会社のパソコンを持ち出せない、機密情報をオフィス外で管理できない、業務の進捗管理がおこなえない、そもそも自宅に仕事ができる机がないなど、各方面から"できない理由"が噴出して、なかなか定着しないのが実情でした。
それがコロナ禍をきっかけに、多くの企業がなかば強引にでもテレワークを導入せざるを得ない状況に追い込まれたわけです。その結果、急遽、自宅リビングのレイアウトを変えて片隅をパーテーションで仕切ったり、オンライン会議に備えて部屋の模様替えをおこなうなどしたことで、「不便はあっても、やってみれば出来ないことはない」という実感を持った方も少なくないはずです。
コロナはいつ終息するのか。その見極めは困難です。それと同時に、いま盛んに言われる「ニューノーマルな働き方」が、今後どこまで定着してゆくかを見定めることもまた難しい問題です。ただ1つはっきりしていることは、コロナ以前と同じような働き方に戻ることはないということ。テレワークは働き方の新常態として定着するでしょうし、その受け皿として、これまでとは異なるスタイルのオフィス(集約的されていた機能を分化して、それぞれに特化した目的のための拠点)が増えてゆくことが考えられます。
例えば、これまで本社機能を司っていたセンターオフィスからは営業機能をなくし、会社を裏支えするバックオフィス(法務・人事・総務・広報など)をここに集約。かたや、都心部(利便性の高い交通結節点)には営業部隊を集結させたタッチダウン型のオフィスを設け、さらに、営業支援や準備作業を担う従業員は自宅でテレワークをおこなう。このように、業務による目的対応型のオフィスや働き方が常態化してゆくことも想定できます。また、限られた業務での棲み分けのみならず、午前中はオフィスで働き午後は自宅でテレワーク、あるいはその逆、という「ハイブリッド勤務」の導入なども考えられます。
いずれにしても、このたび都がスタートさせた「冬のスムーズビズ実施期間」は、赤信号が点った東京の医療と経済を両立させる苦肉の策とも言えるでしょう。さらに大きな視点で考えるならば、「コロナ」という人間にはコントロール不能な事象に対して、「密をつくらない」という人間がコントロールできる取り組みについて、私たちは本気で考え始めるべき時期にさしかかっているように思います。そのための一つの手段として、テレワークの導入を含め「オフィスの在り方」を再考することが求められているのではないでしょうか。
■記事公開日:2020/12/08
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=PIXTA