プロジェクトで仕事をしていて仕掛案件が佳境に入ると、ちょっとした確認をしたり、スタッフ間で共有したい事柄が頻出します。そうした類の打ち合わせは15分もあれば事足りるものがほとんどで、わざわざ会議室を確保しておこなうようなものではありません。
そもそも、会議室で腰を落ち着けてしまうと参加者の気が緩んで無駄話が多くなり、無駄に時間が長引く傾向にあります。また、会議室での打ち合わせは形式的になりがちなため、もしそこに現場を知らない役職者が顔を出そうものなら、世間話や、的外れな分析、思いつきの意見などを長々と"拝聴"することになり、た
だでさえ時間が惜しい追い込み時期に、さらに厄介な状況を招くことにもなり兼ねません。
打ち合わせや会議に時間を割かれて生産性が上がらない。これは、職場における"働き方改革"が言われ始めて以来、企業が改善すべき重要課題の1つに挙がってきました。特に、残業時間の上限が規制されてからは、効率的に会議をおこなって、極力、オフィスワークに影響を与えないようにすることをほとんどの企業が"努力目標"に掲げてきたはずです。
こうした"努力目標"をいち早く"実施計画"に変えたのが、2020年2月にキープレスの『オフィス探訪』でも紹介した東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社の本店オフィスです。こちらの会社では機密情報の取り扱いが多い金融系企業では珍しく、オフィス内外問わず目的に応じて好きなところで働けるABWの導入や、デスクや椅子を固定しないフリーアドレスをいち早く採用して、仕事の効率化とBCP対策に取り組んでいました。そうした中、時短会議の実施についても前向きで、日常業務に関係した打ち合わせは会議室を使用せず、リフレッシュエリアに設けたハイテーブルでおこなうスタンディング会議に変えたことで、若手も意見を言える環境が生まれ、コンパクトな会議の実現と時短化が実現できたということでした。
新型コロナウイルスの感染者が世界中で確認され始めたのは、この記事を公開した直後のことです。それまでは"他人事"だったテレワークがより身近なものにな
ったり、通勤電車やオフィスでソーシャルディスタンスを守るために時差通勤が導入されたり、この1年で私たちの働き方は大きく変わりました。
そうした渦中にあって大阪府堺市はコロナ対策の一環として、オフィスの換気やマスクの着用は当然のこととして、「庁舎内でのミーティングは原則として"スタンディング会議"を推奨する」と発表しました。これは、密になりがちな環境(会議室)の回避と、時短化の実現を視野に入れた取り組みで、導入前に実際の会議で検証したところ、「座ってやれば1時間かかるものが、立ち会議は足が疲れるため半分の時間で終わった」、「参加者同士の接触時間を減らすことができた」、「突然の打ち合わせにも対応できた」といった好意的な意見が多く、採用が決まったそうです。
皮肉なことですが、コロナによって"働き方改革"が加速したことは間違いないでしょう。『三密を避ける』を合言葉に着々と改善されてきた、通勤形態、オフィス形態、勤務形態、そして会議の形態。これらは皆、長らく国や自治体が"改善努力"の呼びかけをおこないつつも、なかなか実施されなかったものです。それが先の見えないコロナ禍にあって、規模の大小を問わず、多くの企業が働き方を見直す取り組みを始めたのです。良くも悪くも、2020年は『働き方改革元年』とも言えるエポックイヤーになったと思います。
そして間もなく、一都三県でも2度目の緊急事態宣言が解除される見込みです。「外出自粛のリバウンドで街に人が溢れるのではないか」と懸念されていますが、同様に、「やっぱり会議はゆっくりやりたいものだよね」などと会議室で時間つぶしをすることのないよう心したいものです。
■記事公開日:2021/03/09
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=PIXTA