「健康経営オフィス」という言葉がにわかに注目されつつあります。従業員の健康(維持と増進)がゆくゆくは企業価値の向上につながるという考えを元に、それを戦略的に具現化する企業が増えているのです。
こうした背景には、少子高齢化による働き手の減少があります。労働力の中心となる15歳から64歳までの生産者年齢人口は、1990年代前半から減少する一方です。そうした中、従業員一人ひとりが健康で十分に力を発揮できるよう職場環境を整えることは、生産性を上げ企業が存続してゆく上で不可欠な取り組みになります。
そこで今回は、健康経営オフィスとは何か、健康経営オフィスがもたらす好循環、そして、オフィス環境を整える7つの行動について、経済産業省が発表した『健康経営オフィスレポート』に則りながら紹介します。
健康経営オフィスとは何か
そもそも「健康経営」とは、従業員の健康を経営的な視点(中長期的な視野で考える経営戦略)で考えて、実践することを指しています。つまり、「従業員への健康投資」をおこなうことで、仕事に向かうモチベーションや生産性の向上など企業活動の活性化をもたらし、結果、業績や株価の向上を期待するという極めてヒューマン・ライクな取り組みです。
これらに加え、働きやすいオフィス環境の実現で従業員の定着率向上を狙います。労働人口が減っている現在、定着率を上げることは重要な課題です。新規採用はもとより、中途採用を試みても応募者が少なく、採用コストが嵩むばかりの現在は、「離職者が出れば新たな人材を採用すればいい」という安易な考えでは到底生き残れない時代となりつつあります。ただ健康維持に努めるのではなく、心身ともに健やかに働くことができ、さらには、そうした従業員が増えることでオフィスや職場全体が活気に満ちた仕事空間になることを目指す。それが「健康経営オフィス」の概念です。
健康経営オフィスがもたらす好循環
経済産業省が200社以上の企業に属する2万人以上のビジネスマンに対して、働き方と健康問題に関する意識調査をおこなったところ、オフィス環境を整備して従業員の健康につながる取り組みをおこなうことで、「頭痛、腰痛、肩こり、眼精疲労の予防と改善」「メンタルストレス、うつ病の予防と改善」「心身症(ストレス性内科疾患)の予防と改善」「生活習慣病の予防と改善」「感染症・アレルギーの予防と改善」につながったことが分かりました。
加えて、プレゼンティーズム(出勤していても心身の健康問題によりパフォーマンスが低下している状態)や、アブセンティーズム(健康問題による欠勤や休職によって業務が行えない状態)の解消に結び付くことも分かりました。 プレゼンティーズムやアブセンティーズムが解消されるということは、すなわち、健康保険組合の保険料率の引き下げや労災補償費用の軽減、従業員のQuality of Life(生活の質)の向上、さらには高い生産力を生み出し、収益の拡大が期待できるということ。こうしたオフィス環境は、従業員の定着率にも大きく貢献し、「持続的な発展」という好循環を促します。
オフィス環境を整える7つの行動
『健康経営オフィスレポート』では、従業員の健康につながる具体的な行動を、大括りに7分類しています。心身のバランスを保ち、仕事に向かうモチベーションの向上を図るためには、これらの行動を「オフィス内で日常的に誘発させること」が重要としています。その具体的な方法を紹介します。
1.快適性を感じる
姿勢を正す椅子の採用や、音・光・香り・触感・空気など、従業員がそこにいて自然と快適と感じる空間づくり
2.コミュニケーションする
オフィス内で気軽な会話が発生し、笑顔で共同作業がおこなえるソファ席を設けるなど風通しの良い空間づくり
3.休憩・気分転換する
仮眠をとる、新聞を読む、音楽を聴く、整理整頓をするなど、仕事の合間の休憩や気分転換ができる空間づくり
4.体を動かす
歩行機会を増やし、階段利用を推奨したり、ストレッチ器具を設置するなど、座位行動を減らす職場レイアウト
5.適切な食行動をとる
昼食や間食など、バランスのとれた食事生活の推奨。健康メニューを提供する利用しやすい社員食堂などの設置
6.清潔にする
仕事中の手洗い、うがい、オフィス清掃、分煙など、清潔な空間を維持するための行動がとりやすい設備の充実
7.健康意識を高める
従業員の健康意識を高めるために健康診断を定期に実施。手洗いの推奨や、マスク・体温計・血圧計などの常備
『健康経営オフィスレポート』には、「健康を保持・増進する7つの行動」のチェックシートがあります。これを使って御社のオフィスがどのくらい健康的なオフィスなのかをセルフチェックしてみてください。
健康経営オフィスレポート
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkokeieioffice_report.pdf
■記事公開日:2022/01/11
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=AdobeStock