オフィスを新設したり移転する場合は、新しい空間づくりに胸が弾むものです。しかしながら、従業員の声にも耳を傾けながら意向に沿ったオフィス家具を揃えようとすると、あれよあれよと言う間に予算をオーバーしてしまいます。だからといって、安価にオフィス家具を揃えればいいわけではない。なぜなら、オフィス家具の良し悪しは、従業員の健康や仕事に向かう意欲に大きく影響するからです。
限られた予算の中で従業員たちの要望にも応えつつ、生産性の向上につながるようなオフィス環境を整えるためには、まずどこに投資すべきなのか? それはオフィスチェアに他なりません。
1日のうちで「どのくらい職場の椅子に座って過ごしているのか」を普段から意識している人は少ないと思いますが、改めて考えてみると、就寝時のベッドと同じくらい(或いはそれ以上)の時間を過ごしている人も少なくないと思います。ちなみに私の場合、在宅勤務の時は1日の大半をオフィスチェアに座って過ごし(多い時は1日16時間以上)、腰痛やひどい肩こりに苛まれていました。
シドニー大学の調査結果によれば、世界の中でも日本人は椅子に座っている時間が最も長い(1日平均7時間)そうです。さらに、座り過ぎや座る姿勢が、肥満や糖尿病、高血圧などの病気を誘発して死亡リスクを40%も高める(WHO)といった研究報告もあり、長時間椅子に座って過ごす日本のオフィスワーカーに警鐘を鳴らしています。
ならば当然、機能性が優れたオフィスチェアを使ったほうがいい。そうした思いに駆られて私は、躊躇しながらも高額な高機能チェアを購入。人間工学に基づいて設計されたオフィスチェアということもあり、お尻が痛くなったり、足を組んだり、頻繁に体勢を変えることをしなくなり、腰痛や肩こりが劇的に緩和されました。
これまで『オフィス探訪』で紹介してきたほとんどの企業が"オフィスチェアのグレードアップ"を移転時のこだわりポイントとして挙げており、フリーアドレスを採用している企業であってもハイスペックな椅子を導入されていました。その理由を明確に話してくださったのは、株式会社タイミーのご担当者。「その日の気分で自由にデスクを変えられても、椅子の座り心地が悪ければモチベーションは上がりません。ですので、フリーアドレスを採用する際、椅子のクオリティを見直しました」とおっしゃっていました。
では、どれほどの人が椅子の良し悪しで生産性の違いを感じているのか?これについては、ビジネス誌のアンケートで約60%のビジネスマンが「椅子の座り心地が仕事に対するモチベーションを左右する」と答えています。
よく、長時間のデスクワークによって疲労感が蓄積されると、仕事の効率が悪くなったりミスが増えたりするため「小まめに休憩を取ることが大切」と言われますが、仕事の手を止められないほど忙しい時もあるのが現実。多少コストが嵩んでも、疲れにくく快適なオフィスチェアを従業員に提供することは有意義な投資だと思います。
■記事公開日:2023/03/09
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=Adobe Stock