オフィスのペーパーレス化に取り組む会社が増えています。しかしながら、「なかなか進まない」「上手くいかない」というのが実態のようで、デスクには紙文書(資料)が無分別に積まれていたり、キャビネットの中は必要か否かが分からない書類で溢れている......そんなオフィスが少なくありません。
殆どの紙文書はプロジェクトが終われば役目を終えて不要になります。にも拘わらず廃棄されずに保管されているのは、「いずれまた必要になるかも知れない」といった思いが頭の片隅にあるから。でも実際には、大半の紙文書はビジネスシーンで再度日の目を浴びることはありません。むしろ、不要な紙文書が廃棄されずに無防備な状態でストックされているのは、あらゆる意味でリスキーな状態と言って良いでしょう。
オフィスのペーパーレス化が言われ始めたのは、2022年1月に電子帳簿保存法の改正により、DX(Digital Transformation)が普及し始め、業務効率を上げて生産性を高める手段と認識されたことが大きな理由です。"紙"で扱っていた情報をデジタルデータとして運用できるようになれば、蓄積されたデータを基に迅速な経営判断や営業方針の意思決定をおこなう『データドリブン経営』にも効果的です。
また、稟議書などの書類が紙の場合、回覧するのに手間がかかり、決裁者が不在の場合は承認を得るまで無駄に時間をかけることにもなります。それがネットワークを介して文書を回付出来るようになれば、どこにいても閲覧出来たり、承認することが可能となり確実にビジネスは加速します。
このように良いこと尽くめのペーパーレス化がなぜ定着しないのか。総務省の調べによると、「情報漏えいの不安」、「利用者のリテラシー不足」、「利用者のデジタルに対する抵抗感」などが上位の理由に挙げられていますが、実は「紙文書のリバウンドが一番の理由」といった声も現場からは聞こえてきます。
あらゆる業務手続きを電子化するワークフローシステムを導入して、オフィスから"紙"を減らして仕事の効率化を図るためにペーパーレス化に取り組んできたものの、「いつの間にか紙文書がリバウンドしていた......」。キープレス『オフィス探訪』で取材してきた企業さまからはこうした話を非常に多くお聞きします。
いかに紙文書をデジタルデータに置き換えられても、紙文書が一切なくなるわけではありません。ルールを守って運用し、定期的にクリーニングをおこなわないと、リバウンドしてデスクやキャビネットに紙文書が溢れ返ります。
そしてさらに厄介なことは、紙文書を置き換えたデジタルデータが氾濫してデータの分類に乱れが生じて来ます。つまり、紙文書もデジタルデータも最初に決めたファイリングルール(文書管理規定)を順守して収めなければ良い状態を維持することは不可能です。
ペーパーレス化のスタート直後は社員の意識も高く良い状態が保たれますが、時間の経過とともにルーズになって半年も経てばデスク周りには紙文書が積み上げられ、同時にデジタルデータが氾濫し始める。そして気づくとキャビネットの中も以前と変わらぬ状態に......。「万能」と考えられているワークフローシステムの導入だけではオフィスのペーパーレス化は実現出来ません。結局のところ問われるのは、システムを使う人の意識です。
■記事公開日:2023/12/25
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=Adobe Stock