2022年に総務省がおこなった「通信利用動向調査」で、日本国内でおよそ3分の1の世帯がすでに固定電話を所有していないことが分かりました。理由は、会話だけではなくメールやSNSなど便利なサービスを利用できるスマートフォンの進化と普及です。
さらに昨今は「オフィスにあって当たり前」とされてきたビジネスフォンにも「不要論」が言われつつあります。この背景には、2024年1月から電話回線をアナログ回線からIP網(インターネットプロトコル)へ段階的に切り替えたNTTの施策があります。これにより、固定電話の一部サービス(短縮ダイヤル、キャッチホンディスプレイ、ナンバーアナウンス、ビル電話)が終了し、IP電話やクラウド電話といった新しい通信手段が普及し始めました。
IP電話やクラウド電話は従来のビジネスフォンに比べ通話料金が安くコストの削減が期待できます。またスマホ同様、場所を問わず利用できるためテレワークとの相性が良く、働き方に柔軟性を持たせることができるため、固定電話からの乗り換えを検討する企業が増えているのです。
IP電話やクラウド電話は「番号ポータビリティ制度」を利用すれば、市外局番が変わらない限り従来の電話番号をそのまま利用することができます。これにより、オフィスの移転時なども顧客や取引先に新しい番号を通知する手間も省け、業務を滞りなく継続することができる利点があります。ただこの場合、デバイスを取り扱うプロバイダーが「番号ポータビリティ制度に対応しているか」を確認しておくことが必要です。中には制度に対応していないプロバイダーもあって、デバイスを購入(或いはリース)してしまってからトラブルになるケースも少なくありません。
さらに留意したいのが、新しく電話番号を取得するケースです。この場合、IP電話は050番、クラウド電話は0800番が割り当てられるケースが一般的です。どちらも新しい番号体系で従来の市外局番や090、080とは異なるため、見慣れない番号として警戒されがちです。
事実、050番号は比較的簡単に取得できるため、詐欺や迷惑電話の発信元として使われることがあります。0800番号も同様に詐欺や迷惑電話に悪用されるケースがあるほか、緊急通報(110や119など)への発信ができないため「信頼性に疑問あり」といったネガティブな指摘も少なくありません。
総じて言えば、現在はアナログ回線からIP網への切り替え過渡期にあるといえますが、固定電話にも優れた点があります。固定電話はインターネット接続や電波状況の影響を受けにくいため通話が安定しています。「音声品質が良く、会話も途切れにくい」、これらはビジネスに安心感を与える大きな要素です。また、災害時でも強固な通信インフラを有する固定電話は、緊急の連絡手段として欠かすことはできません。今後も、特定の状況では固定電話が重要な役割を果たしていくことは間違いないでしょう。
むしろ、仮に固定電話が完全廃止になれば、一部の業態は大きな打撃を受けることになります。例えば、ISDN関連のサービスが使えなくなるため、小売業や飲食業で使用されているPOSシステムやEDI方式の発注・請求システムなどが無効化され、販売管理や在庫管理、取引業務の効率が著しく低下することが考えられます。さらに、IP電話やクラウド電話はインターネットを経由するため通信システムのセキュリティ強化と定期的な点検が必要になります。
一般論では、IP網を介した通信手段はコストの削減や効率化に寄与すると言われますが、移行するにあたっては課題やデメリットも存在するため、これらの影響を理解して適切な選択をすることが肝心です。

■記事公開日:2025/03/25
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=AdobeStock