企業見聞 企業見聞

企業見聞


株式会社リゲッタ
大阪府大阪市生野区巽西1丁目9−24

https://www.regeta.co.jp/

モノづくりの町生野区から世界へ

 この10年間で、日本の製造業は極めて厳しい状況に追い込まれている。日本より低コストでモノづくりができる新興国が台頭し、加えて、デジタル技術の進化などによって国際競争力が著しく低下。海外メーカーの製品を、日本企業が組み立てだけ請け負うという逆転現象すら起こりつつある。中でも秀でているのが中国だ。中国は、安価な労働力と為替管理で達成した輸出主導の『世界の下請け工場』という立場から脱却して、内需拡大による経済成長を実現させている。
 製造業にとっても、日本経済にとっても逆風の渦中にあって、飛躍的な成長を続けているのが、大阪市生野区を生産拠点とするシューズ・サンダルメーカーの株式会社リゲッタだ。
 その販路は国内のみならず、中国、香港、台湾、マレーシア、タイランド、シンガポール、ドバイなど(海外約30拠点)、東南アジアを中心に加速度的に拡大。アルバイトやパートを含む従業員が100名ほどのモノづくり企業としては、とてつもない大躍進と言えるだろう。『モノづくりの町生野区から世界へ、ローカルブランドからグローバルブランドへ』の足掛かりを着実に築いているリゲッタ。その歩みと強みを、代表の高本泰朗さんに伺った。

腕は確か、味のある仕事もする。けれど...

 生野区は、大阪市内でモノづくり企業が一番多い街と言われている。江戸時代から農家の副業としてモノづくりが盛んにおこなわれていた土地柄で、今でも2000社以上が事業を営んでいる。ただしそれらの多くは、いわゆる"とうちゃんかあちゃん経営"の小規模事業者で、「腕は確か、味のある仕事もする。けれども、仕事が広がりにくく、事業承継がされにくいのが実態」だと高本さんは言う。
 こうした現状を少しでも打開すべく、生野区では『モノづくりセッション』という集まりを定期的に設けて町工場をサポートしている。正確に言うなら"サポート"ではなく、各々が主体的に自社の事業概要や技術力をアピールして、新しい出会い(ビジネスマッチング)に繋げようという機会の場だ。
 「4時間くらいのセッションですが、毎回30人から40人もの参加があって皆さん前向きです。自分たちが持っている技術のPRだけでなく、自分たちに欠けている技術を求める場でもあり、ビジネスマッチングがおこなわれるケースは少なくありません。事実、ウチの会社でも靴の中敷きをつくるときにここで知り合った職人さんとタッグを組んで製品化に結び付けた実績があります。ですから、モノづくりセッションに参加される方々には悲壮感は感じられません」。
 社会的な風潮からすれば、モノづくり企業の現状は厳しい。しかしながら生野区に限って言うならば、行政も足並みを揃えて「町工場を稼がせよう」という兆しがある。ただ、「このままでは本質的な解決にはならないだろう」と高本さんは言う。「昔のような大量生産が望めない今は、下請けから脱却する努力が不可欠です。もちろんご飯が食べられることは大前提として、少量生産でもいいので、自分たちが納得できる独自性の高い仕事をするべきではないかと思います。生野区の町工場にはその実力があるのですから」。

下請け仕事で食いつないでいても先がない

 今でこそ、グローバルな視野を持ってビジネスを展開する経営者となった高本さんだが、学生時代は将来に対する目的意識を持てずに不安を感じていたと言う。
 「高校3年生になると、それまで遊んでいた仲間達が、急に、オレは建築家になりたいとか、税理士を目指したいなどと夢を語り始めて焦りました。みんな将来のことを真剣に考えているのに、自分には何も目的がない。そんな時父が、良かったらお父さんと一緒に仕事をしないか?と声をかけてくれたんです」。
 当時、お父様の高本成雄さんが経営していたのはサンダル製造を主軸とした履物製造所(タカモトゴム工業所)。労働力は、父親と母親、いとこの兄姉の4名という、生野区では典型的な家族経営の工場だ。もとよりモノづくりが好きだった高本さんは"渡りに船"とばかりに二つ返事で父親の誘いを受け、専門学校で靴づくりの基礎を学び、3年間の修業を経て、1998年にタカモトゴム工業所に入社する。
 とはいえ、当時のタカモトゴム工業所はゆとりがあったわけでは決してない。入社後間もなくして、高本さんは経営状況を把握するために帳簿を見て衝撃を受ける。毎日のように慌ただしく働いていた父母だが、実のところ工場には借金もあり、一家の暮らしも、銀行からの借り入れを切り崩しながら生計を立てている状況だった。また、ちょうどその頃、親元メーカーが下請けの発注先を鞍替えして、突如"契約打ち切り"を言い渡され、タカモトゴム工業所は絶体絶命のピンチを迎える。
 「この時ですね、下請け仕事で食いつないでいても"先がない"と強く思ったのは。活路を見出すためには、オリジナリティがある靴づくりが出来るメーカーに自分たちがならないと。これが私の原点です」。

売れ筋はコピーされる靴業界の悪しき慣習

 そこから、試行錯誤とトライ&エラーの繰り返し、死に物狂いの5年間を経て、2005年に完全オリジナルのコンフォートシューズRe:getA(リゲッタ)を発表。リゲッタは、展示会で大きな存在感を示し、大手量販店から7000足もの一括発注を獲得した。
 「当時のコンセプトは圧倒的な機能性です。歩きやすくて体のバランスを保ちやすく、つまずきを防止してくれる日本の伝統的な下駄の機能を取り入れつつ、今の時代にマッチするよう再設計したのがリゲッタです。そうした靴を作ろうと思った理由の1つは、他社からコピーされるのを防ぐためです」。靴業界というのは、売れ筋商品のコピーが当たり前のように出回る業界なのだと高本さんは言う。例えば、展示会で3,980円でお披露目した新製品が人気を博したとなると、翌年の靴店には、違うメーカーが作った類似品が2,980円で並んでいる。
 「こうした悪しき慣習が是正されず有耶無耶になっていて、打つ手は自己防衛しかない。だからこそ、木のブロックを買ってきて、ノミで削って靴底のサンプルを作り、それを靴底屋さんにお願いして型を作るなど、細部までとことんオリジナルにこだわって、他社では絶対に真似ができないよう機能性の追求をしたんです」。
 大手量販店に納品した7000足のリゲッタは、わずか2週間で完売。バイヤーも大絶賛で、「来年はもっと発注するので体制を整えておいてください」と言われていた。ところが翌年、待てど暮らせど連絡がない。バイヤーにも連絡がつかない。「これは」と、悪い予感を胸に売り場に行ったら、案の定、ディスカウントされたコピー商品がズラリ...「完全に心が折れました」。

運命を変えた通販バイヤーとの出会い

 疑心暗鬼、人間不信、自信の喪失、完全にやる気をなくしていた高本さんを救ったのは、同年(2006年)に参加した展示会で出会った社長のこのひと言だった。「こんなにいい靴を作っているのに、高本くんは出る展示会を間違えていないか?」
 「それまでは視野が狭かったんですね。見回してみれば日本中にいろんなジャンルの商談の場(展示会)があるのに、裏切り続けられてきた靴業界の展示会にずっとしがみついていた。今思うと滑稽ですね。そこで翌年(2007年)、東京ビッグサイトでおこなわれる日本最大の見本市「ギフト・ショー」にリゲッタを引っ提げて乗り込んだんです。そこからですね。会社の状況も、私の人生も劇的に変わっていったのは」。
 好機をもたらしたのは、通信販売のバイヤーとの出会いだ。まずはカタログ通販でリゲッタのファンを獲得した。さらに、テレビ通販でリゲッタが紹介されるようになった頃には会社はパンク寸前。作っても間に合わないほど売れに売れた。
 その後も順調に売り上げを伸ばし、2009年にはRegettaCanoe(リゲッタカヌー)、ポルマーマという新しいブランドを立ち上げる。どちらもアパレルを中心に好評を博しセレクトショップから大量の注文が舞い込むことになる。会社としては大いに喜ぶべきことなのたが、これが新たな危機を招くことになる。
 「いわゆる資金ショートです。入金サイクルに資金繰りが追いつかず、会社が黒字倒産の危機に陥ったわけです。材料の仕入れや職人さんへの支払いがまずあるわけですが、売り上げを回収できるのは2か月、3か月先。商品は大いに売れているのに金策に奔走する月末が3年ほど続いたでしょうか。昔は、売り上げ、売り上げと言っていたのに、売り上げっていうのは無計画に上げ過ぎたらあかんのや、ビジネスって難しいものなんやと、初めて実感しましたね。この経験から学んだのは、目標売り上げを掲げるのならばファイナンスをしっかりせえよ、ということです。とくに、成長スピードの早い企業は、くれぐれも資金ショートを招かぬよう財務状況を横目で見ながら事業を進めていくことが大事だと思います」。

リーダーは完全無欠である必要はない

 その後、高本さんは2011年にお父様より事業を引き継ぎ、2019年には社名を株式会社リゲッタに変更し、経営者としての手腕を振るっているわけだが、履きやすくて、歩くことが楽しくなるような、機能性を追求した靴づくりのマインドは今も変わることがない。若い社員から「ピンヒールを作りたい」という声が挙がったこともあったが、答えはNOだ。リゲッタブランドは、"足にやさしい、人にやさしい"をコンセプトに靴づくりしているので役割が違う。その信念は曲げずにいたいのだと。とはいえ、そういった内発的な思いを持った人材には大いに期待していると言う。
 「世の中にはいろんなリーダー論がありますし、ウチの会社でもここ数年、チームビルディングやリーダーの在り方のようなものをずっと考えてきました。その上で、個人的な見解を平たく言うと、その時々のポイントで"かっこいい人"がリーダーになればいいと思っているんです。かっこいい人というのは、やりたいことがある人のことです。靴づくりのみならず何事においても"自分はこれをやりたい!"という強い思いを持っている人の周りには、自ずと人が集まってくるものです。
 極論すれば、今の会社の面々も、私の"こんなことをしたい!"という思いに賛同して集まってくれたメンバーだと思っています。そんな中で、彼ら、彼女らが、私の足りないところを補ってくれる。ですから、リーダーは完全無欠である必要もなければ、自分が引っ張って結果を出さなきゃ!などと過度な責任感を持たなくてもいいんです。その方が周りも安心できるし、健全な人間関係が築けると思います」。

コロナ禍の"えげつない赤字"を乗り越えて

 高本さんが2011年に代表になって以降、資金繰りに悩まされた時期があったものの、途切れることなく製品は売れ続け、会社はずっと黒字経営を続けてきた。ところが、コロナ禍の2年間は"えげつない赤字"を出したと言う。
 「赤字って、こんな額になるんや。と愕然としました。幸いにして自己資金を貯めていたので助かりましたが、つくづく油断は禁物だと思い知った2年間でした。今年(2022年)の10月の決算でようやく黒字に戻せましたが、従業員には満足のいく賞与を出せていないこともあり、自分の中では見せかけの黒字だと思っています。それでも救われたのは、殆どのスタッフが「それは社長の責任じゃない」と言ってくれたことです。ただ、それに甘えてはダメです。時期を見て必ずけじめを付けて、埋め合わせをすると約束しました」。
 2020年以降の日本は、得体の知れない新型感染症の大流行で、多くの中小企業が深刻な打撃を受けた。「賞与がカットされた」とか「目減りした」などという声はそこかしこから聞こえて来たし、業績不振で月々の給与が支払えない会社すらあった。にも関わらず、なぜ高本さんは"満足のいく賞与を出せていない"ということに強くこだわり、従業員に対して筋を通そうとするのか。
 「入社して10年過ぎるスタッフも増えてきて、ライフスタイルが変わってきているんです。独身で入ってきた人が結婚したり、夫婦2人だった家庭に子どもが生まれたり。つまり、スタッフの後ろにいる家族の人生もリゲッタが担っているんです。そうした暮らしの中には、綺麗ごとでは解決できないお金の問題も出てくるはず。無い袖は振れませんが、後付けであっても、賞与の全額支給を約束するのは当然のことではないでしょうか」。
 高本さんはリゲッタを100億円企業に成長させたいという大きなビジョンを持っている。そのためには新卒採用にも着手して、若い力や新たな発想が必要だと言う。この社長なら、必ず実現させるに違いない。
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■記事公開日:2022/12/22 ■記事取材日: 2022/11/29 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=編集部ライター・吉村高廣 ▼撮影=田尻光久

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