サポーターは『実感製品』であるという課題
日本シグマックスでは『身体活動支援業』という考え方のもと、医療、スポーツ、ヘルスケアといった3つの事業別に、身体の各所に装着するサポーターを中心とした製品の開発・販売を行っている。高齢化がいわれる日本においては、今後セルフメディケーションに力を入れて自律的な健康管理を行うことが喫緊の課題となっており、日本シグマックスはまさしくその中心領域に身を置いている。しかしながら「サポーター」の認知度や製品価値は一般的にはまだまだ浸透しておらず、コンシューマーに対して正しく情報を提供することの必要性を営業部マネジャーの大島氏は強調する。
この背景には、一般の方々がサポーターの効果を知らぬが故に必要性を感じていない、あるいは、必要ではあるのだが何を選んで良いかが分からないという原則的な課題がある。腰を痛めて整形外科のお世話になった経験がある方なら実感されるであろうが、サポーターを装着しているのといないのとでは日常生活に歴然とした差を感じることができる。ただ多くの場合はその実感がないために我慢してしまうケースが少なくない。そこに対してどうアプローチできるかがこれからの課題なのだと言う。
医療現場と深く連携しながら医師のニーズに応える
ヘルスケアの業界は今後一大産業を形成するだろう。ただ、顧客獲得に向けた競争がより一層激化していくことも間違いない。したがってこの業界で生き残り、継続的な成長を続けるためには、企業の独自性、いわゆる差別化できる製品やサービスの提供が必要となる。これについて大島氏は...。
「これまで当社の中心的な顧客は整形外科であり、医療現場と深く連携しながら医師のニーズや患者さまの声をウォッチして製品の開発と提供を行ってきたという実績があります。したがって、一般市場における認知度は高くありませんが、整形外科の医師の間では当社の名前や製品を知らない方はまずいないと言っても過言ではありません。この強みを上手く情報にブレイクダウンすることができれば明らかな差別化につながるでしょうし、ヘルスケア事業でも当社の製品を選んでいただけるのではないかと考えています」。
解剖学に基づいたショップマイスター制度
その一環として行っているのがスポーツ店などの販売員への教育「ショップマイスター制度」の実施だ。解剖学に基づいて正しいサポーターの装着の仕方を学んでもらい、彼らを介してコンシューマーに直接的なセールスを行ってもらうおうというものである。
「この制度をスタートさせて20年くらいになります。正確に言えば単なるサポーターの売り方の伝授ではなく、来店されるお客さまの悩みに対して、販売員が的確なアドバイスができるスキルアップの教育と言った方がいいでしょう。先ほども申し上げた通り、当社はこれまでメディカルに主軸を置いた事業展開をしてきたため「医療情報が豊富」という他社より秀でた強みがあります。草の根的な活動ではありますが、こうした活動が極めて大事ではないかと考えています」。※ドラッグストア向けには、ショップマイスター制度の代わりに、サポーターの選び方などを学べる「eラーニング」を提供するなどしています。
イメージだけのPRではなく品質の伝播が肝心
人の身体をサポートするヘルスケア製品の場合、品質にこだわった製品づくりを行うことが最優先だ。事実、量販店のバイヤー相手の商談などでもこれまで医療やスポーツの現場で培ってきたバックボーンを伝え、実際に製品を試してもらえれば極めて高い確率で商談は成功するのだと言う。ただ問題はドラッグストアなどに置かれた後コンシューマーが任意に手に取ってくれるか否かとなるとまた話は違ってくる。マスを相手にした量販店販売でモノを言うのは何と言ってもブランド力だ。
また今後は異業種からのライバル参入も考えられる。事実、すでに有名スポーツメーカー2社がヘルスケア・サポーターの市場に参入している。だからこそ、もう自分たちの強みである医療領域で培ったノウハウを改めて見つめ直して、それをコンシューマーにブレイクダウンする仕組みづくりが大事なのだとマーケティング部の小林氏は言う。
「いまヘルスケアの市場を見ると、確かに有名製薬会社のサポーターが多く販売されています。それらの品質が悪いというのではありませんが、私たちの製品は医師やアスリートなどのシビアな評価に晒され認められてきたという確固たる実績があります。また、当社の名前や製品名を医師やアスリートは知っていても多くのコンシューマーはご存じないというのは解決すべき課題ではありますが、社名やブランド名を知ってもらうだけのイメージ先行型のPRだけでは信頼されるブランドになるのは難しいと考えています。やはり品質を通じて知っていただく必要があります」。
営業は医師と対等な立場で話ができるプロフェッショナル
あらゆる業界で人手不足が言われる中、優秀な人材の採用もさることながら、いまいる人材の育成が求められるのはどの業界でも同じことだろう。とくにこれから大きな成長が期待できるヘルスケアの領域においては尚のことで、製品の質、サービスの質を常に向上させ、加速させていく力が求められることは言うまでもない。この点についてマーケティング部マネジャーの足立氏は次のように話す。
「やはり当社が長年培ってきた医師からの信頼をより一層強固なものにしていくことが第一かと思います。当社にとって医療現場から得る情報は大きな財産です。ただし医師と会えるチャンスは診療が終わった後。しかも製薬会社の営業が何人も待ち構えているという状況の中から我々を選んでもらって話をするわけですので、より役立つ情報と効果的な製品を携えて医師に貢献できることが条件となります。したがって営業も、対等な立場で話ができる専門知識を持ったプロフェッショナルでなくてはなりません」。
医師からの信頼と連携強化が新しい市場を拓く
医療とヘルスケアは密接に関係した隣接領域であり、医師との連携強化が必要なのだ。当然ながら「ドクターのお墨付き」があれば、それを1つの起点としてヘルスケア事業の拡大も期待できる。
たとえば、超音波の画像診断エコーを整形外科で普及させる取り組みがある。整形外科はレントゲン診断が一般的だが子どもの骨折はレントゲンには映らない場合がある。したがって、捻挫だと思っていたものが実は骨折をしているというケースもあり得るのだと言う。この取り組みによって日本シグマックスでは、サポーター以外にも整形外科に対する画像診断エコーの販売シェアを伸ばしている。
いわば、モノを提供するだけではなく、医師からの信頼に基づいた「医療的な裏付けを持った情報」という付加価値をつけてコンシューマーに提供できることが日本シグマックスの最大の強みであり、そこにとことんこだわるところにヘルスケア事業再構築のヒントがある。
健康をビジネスにする。その心構えとビジョン
病院だけに頼らずに、健康を自分で管理する時代の到来はもうすぐそこまで来ている。日本シグマックスはこうした時代の一翼を担っていくことは間違いないだろう。マスに対する品質訴求という課題は残るものの、医療、スポーツのプロフェッショナルからその品質が認められ、右肩上がりの成長を続けているのは大きなアドバンテージだ。今回の取材にご協力いただいたお三方に今後の抱負を聞いた。
『病気にならずに健康を維持できる暮らし方のご提案をしていきたいと思います。その一助となるのがサポーターであり、また違った製品であり、当社の経営理念である『元気の創造』をより多くの方々が具現化できるようなお手伝いをしていきたいと思っています。(足立氏)』
『健康寿命の延伸に貢献することです。サポーターは痛みや保護に対して優秀な製品ですが、サポーターのみでできることには限界があると思います。特に運動参加の支援が一つのポイントかなと思っていて、新しい製品やサービスの提供も含め、当社らしいやり方でそこにリーチしていけたらと考えています。(小林氏)』
『B to BでもB to Cでも、健康という1つのキーワードを据えて、何かあればシグマックスに相談すれば解決してくれる、そんな会社になれることが第一です。もう1つはせっかくZAMSTという確立したブランドがあるので、もっとグローバルな展開を行えればと思います。またそれができる自信もあります。そのためにも、マスに対するアプローチの課題を一刻も早く解決しなければなりません。(大島氏)』
■記事公開日:2014/12/26
▼編集部=構成 ▼編集部ライター・吉村高廣=文 ▼吉村高廣=撮影 ▼写真・資料提供=日本シグマックス株式会社