工業化社会へ邁進する時代に創業
昭和30年代に起こった高度経済成長は、重工業をはじめとする大規模施設への設備投資に支えられ今の日本の基盤をつくる源となった。さまざまな技術革新は新しい需要を次々に生み、不足した労働力は地方からの集団就職などによって補われ、若い労働力は産業を支える「金の卵」と呼ばれた。
東京タワーの建設や東海道新幹線の開通、さらには昭和の東京オリンピック開催など、国を挙げたプロジェクトが相次ぎ、日本は世界と肩を並べる「小さな大国」へと邁進する時代を迎えていた。
そんな時代を背景にマグナ通信工業株式会社は1964年、産声を上げる。以後、発電所やプラントといった大規模施設の通信システムや監視システムの設計・製造・施工 ・メンテナンスを通して、加速度的な躍進を遂げる日本の工業化社会を影ながら支え続けることとなる。
信頼され続ける仕事をする
2014年7月1日、創業50周年の節目を迎えたマグナ通信工業だが、電気通信工事の業界は数多くのライバル企業の台頭により激戦の様相を呈している。にもかかわらずマグナ通信工業が健全経営を続ける秘訣について代表取締役社長の末村秀樹氏は次のように話す。
「良い仕事することです。もちろん戦略的な要素も多分にありますが、一番大事なことは、目の前にいるお客さまに誠意と熱意を持って向き合い、信頼され続ける仕事をすることが何よりです」と。
良い仕事をし、お客さまに信頼され続ける仕事をすることは、至極もっともで当たり前のことと考えがちだが、実はこれがなかなか難しい。競争相手が多くなれば当然コストも比較の対象となる。コストが下がれば仕事の数で採算の埋め合わせが必要だ。結果、1つの仕事に100%の力を注ぐことができなくなって、やがてお客さまの信頼が揺らいでくる。この悪循環はいかなる業界でもあり得ることで、飛躍的な技術革新を遂げる電気通信工事業界では尚のことだろう。
本来の強みを認識してその強化に努める
こうした状況を回避するためにマグナ通信工業では、多角的に事業領域を広げるのではなく、自分たちの守備範囲(本来の強み)を認識してその強化に努めてきた。マグナ通信工業の歩みを振り返ると、創業者である末村満生氏をはじめとしたスタッフたちの技術的な創意工夫と努力により、火力発電所の指令電話修理工事の登録業者となったことに成長の原点がある。
創業当時のスタッフはわずか7名。この規模の企業が登録会社となったことは『火力の奇跡』と語られた。一方、「正直に仕事をすれば、必ずお客さまに受け入れられる」という姿勢を貫き、まずは目の前のお客さまのために技術力と提案力を磨き、機動力を向上させ、原子力発電が電力供給のメインストリームになった以降も篤い信頼関係で結ばれている
狭い事業領域をとことん深掘りする
「当社のソリューションをキーワード化して説明するなら『見る』と『聞く』の2本柱です」と話すのは執行役員兼営業部長の柴崎宏行氏。末村社長とともに、古くからマグナ通信工業の屋台骨を支えてきたキーパーソンでもある。
柴崎氏曰く、顧客の絞り込みのみならず、提供する技術を絞り込んで、それを徹底的に強化して、進化させるところにマグナ通信工業の強みがあるという。「つまり、広く浅くではなく、狭くてもとことん深堀りしたサービスを提供してきたところに会社としての成長があったのです」と話を続けた。
第1の柱となる『見る』領域では、発電所や空港の保安・防災、河川の氾濫などを監視する「ITV(工業用監視設備)システム」の設計・製造から設置工事、メンテナンスまでを行っている。特筆すべきは、原子力発電所の原子炉など人が入ることができない場所の監視や点検もITVならではの特殊ソリューションだ。
『見る』と『聞く』の2本柱
もう一つの第2の柱となる『聞く』分野では、発電所や製鉄所など大型プラントの各所に配置される「指令通話システム」の設計・施工だ。このシステムでは拡声放送と通話機能をジョイントさせた高品質の連絡装置で、ボタン操作1つで指令放送ができ、呼び出された相手とその場で通話が可能な設備の運転に必要不可欠なシステムだという。
また、こうした自社製品のみならず、他社が開発した監視機器の設置からメンテナンスまでを行う工事も請け負っているのがマグナ通信工業の特徴だ。これについて末村社長は次のように話す。
「当然ながら今の時代は電力業界頼りの仕事をしていては経営は成立しません。ただ、闇雲に手を広げようとも思わない。いわば広い意味での『社会インフラ』に特化して、良質な仕事を続けてきた経験と管理能力をお客さまやメーカーの方々が認めてくださっている証しだと自負しています。それは我々の大きな誇りでもあります」と自信をうかがわせた。
設計技術は机上の空論であってはならない
現在のマグナ通信工業の課題は技術の伝承である。技術を武器に事業を進める中小企業の永遠のテーマといえるだろう。この課題について柴崎氏は次のように話す。「当社の事業形態は、設計・製造の分野とフィールド(施工・工事)の分野に二極化されています。このフレームの中で、フィールドから設計へ、あるいは、設計からフィールドへと配転を行い、お客さまにとって最も使いやすいシステムはどのようなものかをすべての社員が共有できるような仕組みを設けています」。
これはマグナ通信工業のようにオーダーメイドに近い技術力が要求される企業にとっては極めて大事なことだという。現場を知らない設計者が机上の空論でモノづくりをしてみても、それを現場で据え付けようとすると不備が見つかり再設計となる。こうしたリスクを回避するためには、まず設計者が現場を知って、現場の要求(設置環境や製品重量など)に応えるモノづくりをすることが肝心なのだという。
ただし現在は、技術そのものが新旧二極化しており、新しい技術の習得よりも古い技術の伝承の方が難しいと末村社長はいう。「ごくわずかではありますが、30年前の製品メンテナンスという仕事も未だにあります。
こうした製品に若い技術者が触れる機会は皆無です。システム構造自体は複雑なものではありませんが、初見で問題点を発見できるようなものでもない。それは当社の開発製品のみならず、他社製品についても同じことが言えます。結果、マグナ通信工業のベテラン技術者にお声がかかることにもなるのです」。
技術の進化に遅れをとらぬことも大事だが、古い技術にもしっかり対応できることもマグナ通信工業の強みということができるだろう。
社会貢献を全社員の共通認識として
マグナ通信工業は、2016年度の開始にあたり「エネルギーを始めとした社会インフラの安全・安心と効率的な運用を実現し、社会の発展に貢献する」という一文を企業理念に明文化し全社員に知らしめた社会貢献という言葉は、ともすれば企業の経済活動とは対極において意味を成すものではないだろうか。
少し意地悪ではあるが、このことについて末村社長に問うと......「収益という目標と、社会貢献という目的、本来企業はその両方を持っているべきだと思います。ところが近年は、収益ばかりを追い過ぎた結果、不祥事を起こす企業があまりにも多いように思えてなりません。そのあたりのことを社会インフラをサポートという重要な事業に携わる我が身のことからもう一度見直して、改めてそのこと全社員の共通認識にしたいと考えたのです」。
社会的に見て正しいと思われることを生業としつつ、その対価としてお金を頂くことに勝る喜びはない。いわばこのメッセージは、マグナ通信工業が培ってきた「目の前のお客さまのために」という原点回帰の意志表明でもある。その背景には、今という時代が、電力の自由化や2020年に開催される東京オリンピックというビッグビジネスを勝ち得る端境期あることも影響しているだろう。むしろそうした時代だからこそ自分たちの理想を見失わず、堅実な歩みを続けることが何よりも大事。そんな思いが込められているのだ。
▲執行役員兼営業部長の柴崎宏行氏
▲代表取締役社長の末村秀樹氏
■記事公開日:2016/04/26 ■記事取材日: 2016/02/29 *記事内容は取材当日の情報です
▼編集部=構成 ▼編集部ライター・吉村高廣=文 ▼渡部恒雄=撮影 ▼写真・資料提供=マグナ通信工業株式会社