時代に左右されない仕組みづくり、人づくり
ここ近年の飲食業界は『大競争時代』と言われている。それは不景気ばかりが理由ではなく、震災以降の消費者心理も大きく影響している。そんな厳しいビジネス環境にあって「何も変わらない。いつの時代も同じです」と話すのが、株式会社ねぎしフードサービス社長・根岸榮治氏だ。
事業というのはいつの時代も、企業としての独自性と新しい顧客の創造が問われる。それは10年前も今も、何一つ変わることはない。どの時代もその時なりの価値観の中で壁があり、堅牢な仕組みと人財をもってそれを乗り越えてきた。「そんな仕組みづくり、人づくりに取り組むことが、革新するということなのです」と根岸氏は言う。
また同社は、クオリティ、サービス、クレンリネス(店舗の清潔さ)、ホスピタリティ(親切)、アトモスフィア(店舗の雰囲気づくり)を顧客への『5大価値提供』として掲げ、2011年度日本経営品質賞『中小規模部門』を受賞。その後もさらなる革新への取り組みを続け、着実に業績を伸ばしている。
経営理念が共有できればビジネスは加速する
「ねぎし」は、約1000人の従業員構成の中で110名前後が正社員で、その他900名近くはアルバイトで構成される。さらにその中で200名ほどが中国人である。それらの人たちを1つにまとめ上げているものが、ねぎしの経営理念だ。
「全社一丸となる、ということは経営理念を一つにするということです」と話す根岸社長。経営理念をしっかり共有できれば、従業員は自由闊達に働くようになり、さらには自ら判断して実行していくことで経営はスピードアップするのだと言う。
スポーツに例えるなら、野球とサッカーの違いということになる。野球は個人のスキルを重視しながらも、実際のゲームは監督の采配による場合が多い。一方サッカーは、ゲーム中いちいち監督の指示を仰いでいたらすぐに点を入れられてしまう。ピッチ内では各自が判断して動かなくては試合に勝つことはできない。
ビジネスも同じだ。人から指示されるまでもなく、一人ひとりが当事者意識を持って動かなければ攻めの経営は行えない。そのためには、誰もが腹落ちする経営理念の共有が何より大事。「ねぎし」の強みはここにある。
「恥ずかしい」と「羨ましい」が人を育てる
「ねぎし」には人を育てる多くの仕組みがある。たとえば、全店舗で店舗の清潔さを競う『クレンリネスコンテスト』。面白いことに、上位常連店は店長がいなくても上位に入る。その一方、下位の店では常に店長が一人で大変な思いをしているのだと言う。つまり店長以外は「他人ごと」になっているのだ。
ところが下位店のスタッフにチームワークが育まれると、それまで順位など気にしていなかった人も恥ずかしくなり、「自分たちもやらなきゃ!」という気持ちに変わってくる。「そこに小さな成長があるのです」と根岸社長は言う。また、全テーブルに置かれたアンケートハガキは毎月1100通ほど回収され、スタッフ個人の名前を挙げて感謝の言葉が綴られていると『親切賞』が授与される。1度もらえば2度、3度と欲しくなり、それを見ている隣のスタッフも、「私もありがとうと言われたい!」と思うようになる。
こうした善のスパイラルが生まれてくると、スタッフたちは自然とお客さまを見て仕事をするようになると言う。つまり、上からの命令ではなく、自らが「やろう!」という気持ちになるよう仕向けていく。それが「ねぎし」の人を育てる仕組みだ。
出店計画は東京限定。その真相は...
現在「ねぎし」は32店舗、しかも東京だけの展開である。実際には、九州、広島、大阪、京都、神戸、名古屋、札幌、海外では北京とシンガポールから出店要請がきているが、「そのつもりはありません」と根岸社長は言う。これは「顔の見える経営」を旨とするする根岸社長のポリシーによるものだ。
「ねぎし」では毎月1度全社員が一同に会し、『改革改善全体会議』が行われる。これは店ごとにテーマを決めて、半年間の改善活動成果をケーススタディーとして報告発表するというもの。発表される課題解決事例は、その場で他の店舗に共有されることとなる。この他サポートオフィスや店舗では幾多の自主ミーティングや店舗の垣根を越えたエリアミーティングなどが日々行われている。
つまり、東京以外に店を置けば、こうした集まりを持つことが難しくなる。社員同士が顔や名前を知れる範囲で仕事をしていないと絆を保つことは難しい。したがって、ビジネスの土俵は東京以外に移さない。皆が顔をあわせて、切磋琢磨し合いながら育ち、よりきめ細やかなサービスを提供する。これもまた、「ねぎし」流の経営である。
社会貢献は人間成長の場でもある
社会貢献にも積極的な取り組みを行っている。従業員は田植えにも行くし、稲刈りにも行く。多古町で行われる山芋の収穫祭にも毎年参加して生産者とのコミュニケーションを図っている。さらには、被災地に炊き出しに出向いたり、街の清掃活動も月1回定期的に行っている。ひとことで言ってしまえば「社会貢献」ということになるのだが、実はこうしたことに参加することが従業員の成長にもつながるのだと言う。社内で教育するよりもこうした経験をする方が得るものが大きいのだと。
「社会にお役立ちしているという思いが、自分のプライドや誇りといったアイデンティティみたいなものを変えていくのです。社会に対して自分はどう役立っているかを知ることは、人間としての成長を大きく促していくものであると思います」と話す根岸社長。もちろんこうした活動には社員だけでなく、アルバイトや外国人スタッフも積極的に参加している。「全社一丸となる」という経営理念は、こうしたところにも現れているのである。
100年企業を目指す足がかり『日本経営品質賞』
「ねぎし」の経営目的である『100年企業』を目指すためには、日本経営品質賞が提唱している4つの基本理念である顧客本位、独自能力、従業員重視、社会との調和、この普遍的な価値こそが最高のフレームワークであったと根岸社長は振り返る。
とはいえ、「じゃあ、やろう!」とトップが掛け声をかけただけで、すぐ皆がついてくるわけではない。それでなくても従業員は皆日々忙しく働いているのだ。しかしながら、こうしたフレームワークを導入することの意義は、一人ひとりが「工夫してなんとかしよう」という考え方に変わっていく過程にあったのだとも。
つまり日本経営品質賞への取り組みと受賞は、1度結果を出したらそこでおしまいというのではなく、改善に向けた取り組みは止めてはいけない。試行錯誤は常に継続させながら、さらに良い仕組みへと発展させていくものであり、従業員一人ひとりがそれを血肉として今より大きく成長していくことが何より大事。その先にこそ、ねぎしフードサービスの目指す、「100年企業」の姿がある。
日本経営品質賞とは
日本経営品質賞は、日本企業が国際的に競争力のある経営構造へ質的転換をはかるため、顧客の視点から経営を見直し、自己革新を通じて顧客の求める価値を創造し続ける組織の表彰を目的として、(財)日本生産性本部が1995年12月に創設した表彰制度です。(日本経営品質賞HP
http://www.jqaward.org/)
■記事公開日:2013/09/26
▼編集部=構成 ▼編集部ライター・吉村高廣=文 ▼写真・資料提供=株式会社ねぎしフードサービス