移動体通信業界の最前線にメスを入れる
次々と新しい機能が搭載され、進化を続ける携帯電話やスマートフォン。
最も熾烈な顧客獲得競争を繰り広げているITマーケットといっても過言ではない。その最前線に立ち、エンドユーザーと直接やり取りするのが販売員たちだ。製品が売れるか売れないか。それは製品の魅力もさることながら販売員の力量が大きく影響する。そこにいち早く気づき、移動体通信業界に特化した販売員育成を行っているのが株式会社ピアズである。
同社は、本社を置く東海地方を中心に、現場(売り場と人)に山積する課題解決に取り組み、その独自のメソッドと更なる自己改革のアクションが評価され、2012年度の日本経営品質賞「経営革新奨励賞」を受賞した。
将来のビジョンが持ちにくい販売員の実態
移動体通信業界は極めて離職率の高い業界だという。その理由は、新しい機種が出るたびに先進的な知識の更新が求められる上に、契約などに関する知識習得も欠かせない。にも関わらず、現場で働く人たちは販売員から先のビジョンが持ちにくいという現実がある。
「製品に愛着を持って、貪欲に周辺知識を吸収してお客さまと向き合おうとする人にしてみれば、その努力が報われないことほど辛いことはありません」と桑野隆司社長は話す。
裏を返せば、ケータイショップや家電量販店で販売員の接客スキルに差があるのもこうしたことが一つの原因で、それはクライアント企業にとって大きな損失になると桑野社長は指摘する。
現場を改善するには、現場を知らなくてはならない
現場で働く販売員の意識改善を行うためには、現場のことを知らなくてはならない。これがピアズの掲げる人材育成メソッドの根底を成す考え方だ。
「販売員と私どもの社員は気持ちが深くシンクロしています。販売員の悩みは自分たちの悩みであり、現場の課題は私たちピアズの課題だという意識が全ての社員に根付いています」と話す桑野社長。だからこそ、販売員から絶大な信頼を置かれ、クライアント企業も納得できる改善策の提案ができるのだという。人の意識を変えるのは一筋縄ではいかない。深いところで相手を知り、信頼と尊敬を互いに持ち合わせてこそ上手くいく。移動体通信業界の販売員育成という困難な領域で、群を抜いて成長するピアズの秘密はここにある。
成長意欲と利他の心が人と会社を伸ばしていく
クライアント企業の人材育成もさることながら、自社社員の育成も企業として大きなテーマである。その核を成すものは、成長意欲と利他主義の2つである。特に後者について桑野社長は強い思いを持っている。
「お客さまから、ありがとうと言われて心から嬉しいと思えるのは人間の尊厳のようなものです。ありがとうに込められた思いは『あなたがいてくれて良かった』ということ。そうしたことに共感できる人なら多少未熟な点があっても必ず成長していきます」と。
移動体通信業界は、ある時「ポン!」と現れて急成長してしまった業界だけに、多くの問題を孕んでいる。それはピアズ自体も同じことで、ビジネスモデルや人材の完成はまだまだ遠い。ただ、欲得抜きに利他の心を持ち、真摯に相手と向き合えば会社も人も必ず成長できる。これが社長の哲学だ。
経営品質賞「経営革新奨励賞」受賞の社内効果
経営品質賞を目指すことは、会社経営陣の目標だった。それが2012年に「経営革新奨励賞」を受賞したことで本当の意味で会社の目標になった。「自分たちの会社は、人から評価されるような会社ではないと社員たちは思っていたはずです。私自身まだまだだろうと思っていました」。
そんなピアズに飛び込んで来た奨励賞受賞の知らせ。「第三者の方々から評価されたことで、皆のモチベーションがぐっと上がりました」。
東京で行われた授賞式で壇上に上がった桑野社長の姿を見て「興奮した!」という社員がいた。今度は本賞を取って皆であそこに上がりたいという声もあった。「経営品質賞に取り組むことで業績が劇的に上がったということではなく『自分たちは第三者から認められたんだ』という事実が、私をはじめ社員の心に新しい火を点したという感じです。こうした体験こそが人を伸ばすきっかけであり、現場で働く販売員にも必要なことなんです」。
日本経営品質賞とは
日本経営品質賞は、日本企業が国際的に競争力のある経営構造へ質的転換をはかるため、顧客の視点から経営を見直し、自己革新を通じて顧客の求める価値を創造し続ける組織の表彰を目的として、(財)日本生産性本部が1995年12月に創設した表彰制度です。(日本経営品質賞HP
http://www.jqaward.org/)
■記事公開日:2013/06/25
▼編集部=構成 ▼編集部ライター・吉村高廣=文 ▼渡部恒雄=撮影 ▼写真・資料提供=株式会社ピアズ