成長が止まらないペット産業
多くの産業が成熟期を迎え成長率が頭打ちとなる中、犬や猫を主としたペット関連産業の躍進が止まらない。その市場規模は、1兆4,000億円とも1兆5,000億円ともいわれており、今後まだまだ伸びる余地(ビジネスチャンス)があるとみられている。統計上の数字だけを見れば、犬や猫の飼育頭数は、横ばいからやや減少傾向にあるのだが、家族形態の変化や、ペットの家族化、長寿命化といったことを背景に、一頭あたりにかける消費額は年々増加傾向にある。
そのような成長市場において"インスパイア"と"イノベーション"を合言葉に、フード、グッズ、教育、イベントなど、オリジナリティあふれる商品供給とサービスを展開し、この市場における"フロントランナー"を目指しているのが、エコートレーディング株式会社だ。その代表取締役社長であり、企画マーケティングの戦略参謀でもある豊田実氏に話を聞いた。
番犬から、大切な家族の一員に
「とかくネガティブなものとして捉えられがちな、高齢化や少子化、そしてシングル化などの現象は、私どものビジネスにとってはむしろ追い風となります。なぜなら、いまのペットは、増えゆく高齢者やシングル世帯にとって、心を通わせることのできるかけがえのない対象になっているからです」と、豊田氏はいきなり事業の核心に触れた。
「私たちが子どものころは、犬は犬小屋で寝起きする"番犬"であり、人間の残り物を食べるのが普通でした。また医療の水準も低く、総じてペットは短命でした。ところがいまの日本は違います。犬や猫は擬人化され、完全に"家族の一員"になっています。かつて犬小屋が住まいであった犬たちは、人間と同じ一つ屋根の下で暮らし、リビングを闊歩し、ベッドを共にするようにすらなっている。もはや"ペット"と呼ぶこと自体に、ためらいや抵抗を感じるような時代でもあるのです」。
つまり、社会的に憂慮される問題の中で、家族の一員となった犬や猫の存在が著しくクローズアップされてきており、そんな彼らと、より良く共生できるよう、フードやグッズなど、多岐にわたってサポートするペット産業は、飼い主とペットの絆をより強固なものにする"コミュニケーション創生ビジネス"になりつつあると豊田氏はいう。
日本は世界一の"ペット大好き国"
現在、日本のペットの飼育率は、全世帯のわずか2割に満たない。いうなれば、ペット関連市場は、たった2割の世帯が動かしている大規模市場ということになる。豊田氏は、ここに大きな可能性を感じている。豊田氏の分析はこうだ。おそらく、残り8割の世帯のうち、その半分の4割くらいは、あまり動物が得意でない世帯。そのほかの4割は、住環境や家族の合意、あるいは、しつけの問題など、何らかの理由でペットを飼うことにためらいがあるのだろうと。
「でもやっぱり、ペットはかわいいと思っているんです。その証拠に、世界的にみても日本ほどペット関連のテレビ番組が多い国はありません。また、少し話題になれば犬でも猫でも写真集やカレンダーが飛ぶように売れます。日本は決してペット先進国ではありませんが"ペット大好き国"といえるでしょう。そうした観点からみると、潜在需要は希望的観測も加味すれば現在の3倍はあると私は睨んでいます」。
いまの3倍といえば4兆円超。これは通販業界を凌ぐ超巨大マーケットである。もちろんそれは豊田氏自身がおっしゃる通り"希望的観測"を含んだ数字だが、どこにそれだけのポテンシャルがあるのか?この疑問について豊田氏はこう話す。「人間と同じように、ペットも歳をとるのです」。
ペットの高齢化が巨大市場を支える
「現状、ペットの飼育頭数は若干減少傾向にあるのは事実です。しかし潜在需要がきわめて高い日本においては、人とペットが共生できる社会の仕組みが構築されれば、飼育率は自ずと向上していくでしょうし、事実いまは、そうした傾向になりつつあります。むしろ私が注目しているのはペットの老後の在り方について。いわゆる、人とペットの共生を長い目で見たときの"ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)"です」。
ペットの老後の在り方。犬や猫と共に暮らす世帯にとって、この言葉は大いに心揺さぶるものがある。健康で、可能な限り長生きして欲しいと願うのは"家族"として当然のことだろう。そして、こうした願いをカタチにした商品は、すでに多彩なものがあるという。
「たとえば犬の場合、犬種や年齢に合わせた食事はもちろん、自分で摂取できなくなった場合の介護食や、美容維持のサプリメント。さらには、運動不足を目的とした犬専用のルームランナーまで、ひと昔前は考えられなかった商品が、当たり前のように売れています。なぜペットにそこまでするの?と考える方もいるでしょう。しかし人間の加齢に置き換えて考えてみてください。どれも当たり前の商品です。毛艶が悪くなればサプリを飲みます。腰痛に悩む老犬は針だって打ちます。寒くなればダウンジャケットを着るし靴も履きます。人間にとって当たり前のことなら、大切な家族であるペットにとっても当たり前のことではないでしょうか。しかも人間の商品と比較すればその数ははるかに少ないのです」。
日本一のバリューチェーン・イノベーターに
エコートレーディング株式会社は、1971年の創業以来、ペット関連商品を専門に取り扱う総合商社というポジションを保ってきた。つまり、その時々のペットに対する意識傾向をいち早くキャッチアップして、日本各地、あるいは世界各国のメーカーから、より良いペット関連商品(売れる商品)を仕入れて供給して、そこでムーブメントを起こすことが第一義であったわけだ。
ところがここ15年ほどは、多くの同系企業が業界参入を果たしており、市場内競争は熾烈になっている。ただモノを仕入れて販売するだけでは、とうてい勝ち目はない。そこでエコートレーディングでは、大胆かつ強気な企業ドメインの刷新を標榜している。
「私どもの新機軸としては、これからは自社で企画したものを、外部の協力会社とタッグを組んで製造してオリジナル商品を市場展開させていこうと考えています。もちろんそれは、ペットの高齢化対策商品も含む、衣食住すべての商品においてです。そのためには、エコートレーディングの企業資産を改めて見直して、これまで機能していなかった部分のテコ入れをする必要性があります。
そうした延長線上で私どものポジションを、総合商社という立場から、業界資産の拡大も視野に入れたバリューチェーン・イノベーター(総合企画会社)の立場へと、会社の体質を変えていこうと考えているのです。しかもそれは10年20年先を見据えた長期ビジョンではありません。2020年までには、ペット関連商品で日本一のバリューチェーン・イノベーターを目指します」。
現場主義がイノベーションを起こす
ビジョンを掲げるのはトップの役割である。それを実行するのは社員の努めにほかならない。ここで肝心なのは、トップと社員が同じ方向を向いていることと、トップの期待に社員が応える力を備えていることだ。"日本一のバリューチェーン・イノベーターを目指す"という豊田氏の思いに、エコートレーディングの社員たちは応える力をどこまで備えているのか。そこを最後に伺うと「なるほど!」と、思わず膝を打つ答えが返ってきた。
「力があるかないかではなく、私の信念をお話しします。私は、その人が持っているボキャブラリー以上に、その人の発想は広がらないと思っています。つまり、ビジネスには語彙の幅が必要なのです。それを獲得するためには、本を読めばいい、人とたくさん話せばいい。しかしそれに偏り過ぎると単なる物知り博士で終わります。肝心なのは、そこで獲得した知識を知恵に昇華させることです。
そのためには何が必要か。それは、本で知った場所、人から聞いた場所に実際に足を運び、自分の目で確かめることです。たとえば、銀座に『ギンザシックス』ができた。ならばさっそく行って確かめてこようじゃないか。つまり"現場主義"が私の信念です。情報化社会のいまは、より多くの情報を仕入れることが大事です。そのためにはネットはたいへん便利です。しかし、見たこともない架空の情報を詰め込んで頭でっかちになってはいけません。現場に行って自分の目で確かめることで、伝える言葉に力強さとリアリティが生まれるのです。こうしたことに社員が気づき、根付いていけばイノベーションは必ず起こる。またそれは、終わることのない営みなのです」。
■記事公開日:2017/07/26 ■記事取材日: 2017/06/28 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=編集部ライター・吉村高廣 ▼撮影=只野ヒロキ