事務所近くのコーヒーショップで、資料を広げて本格的な仕事モードの方々を度々見かけます。「よくこんなところで集中して仕事ができるな?」と、常々不思議に思っていたのですが、脳科学者によると、個人差はあるものの、人間は、無音状態よりも50デシベルくらいの雑音があった方が集中して物事に取り組めるそうです。
ちなみに50デシベルというと、エアコンの室外機や木々のざわめきといった音、さらにはカエルの鳴き声などが匹敵するそうです。つまり、厳密に50デシベルではなくとも、コーヒーショップのように若干の雑音環境での仕事は"理に適っていて、作業効率もいい"ということになるそうです。
こうしたことから、コーヒーショップの店内環境音や、川のせせらぎや虫の鳴き声といった自然環境音を編集した"作業用BGM"を流しながら仕事をする会社が増えているのだそうです。これはYouTubeなどでも無料配信されているほか、現在は、音楽制作会社からさまざまなジャンルの"作業用BGM"がCD としても発売されています。
つまり、「静まり返ったオフィスにはなんとなく違和感がある」という人が、オフィス内にわざわざ"雑音"を流して環境を変え、仕事に向かう集中力を高めようという試みです。
実は"作業用BGM"は、20年以上前にもブームがありました。よく売れていたのが、ただひたすらに波の音が聴こえてくる『Wave ~ 波のたわむれ ~』というCDで、私が勤務していた会社でも流していました。つまり、意図的に"雑音環境"をつくり出し、集中力を高める試みは四半世紀も前から行われていたのです。
ただ、効果はありませんでした。理由は明らかです。徹夜続きで殺伐とした当時の職場には、綺麗な波の音はあまりにも不似合いだったからです。それと比べて、徹夜もなく静か過ぎる今のオフィスなら、コーヒーカップの触れ合う音がわずかに聞こえるBGMは、案外効果が期待できるかも知れません。
ある出版社が今年の東大合格者におこなったアンケートでは、自分の部屋があるのに8割以上がリビングで受験勉強をしていたといいます。彼らによると、静かな個室では"自分だけ"と向き合うこととなり、途中、孤独感にさいなまれたり、不安や雑念が沸き起こって勉強に集中できなくなる。一方リビングは、自分以外の家族の営みの場であるため、それらが発する生活音を遮断して勉強に臨むべく、いやがおうにも"集中モード"に入るそうです。"作業用BGM "の効果も同じ原理です。「静かなオフィスなのに、なぜか生産性が上がらない」とお悩みなら、一時的に"作業用BGM "を採用しても良いかもしれません。
個人的には"作業用BGM"の導入に可能性を感じます。普段、私のオフィスは完全な"無音"です。音楽もラジオも流さずとても静かです。しかし、東大生が指摘した通り、静か過ぎると自分との向き合い方がシビアになって、不安が芽生え、なかなか仕事が進まないことがあります。一方、仕事が立て込み、やむに已まれず通勤電車でパソコンを開くと、不思議と仕事が捗る場合があります。こうした体験から、気分次第でオフィスを"無音環境"と"雑音環境"で上手く使い分けることができれば、集中力を途切らせることなく、今後更なるキャリアアップを目指せるのではないかと。皆さんの職場はいかがでしょう?