「ネゴシエーター」という言葉を記憶されているでしょうか。エディ・マーフィー主演の映画でひところ話題になった「交渉人」のことです。
アメリカでは複雑化する犯罪に対処するため、犯人との折衝時には交渉人の存在が不可欠になっています。
その仕事は"一方的な勝利"を目指すのではなく、"WIN-WIN" の状態に持ち込み解決への道筋をつけるというもの。
相手の要望や要求を受け入れつつも、少しだけこちらが有利になる"落としどころ"を見つける、心理学に基づいた駆け引きの高等テクニックです。
似たような局面はビジネスシーンでも多々あります。アメリカのビジネススクールでは、駆け引きを有利に進める交渉術を徹底的に叩き込まれます。
そして、際どい商談でも合意に持ち込む交渉力を持つビジネスパーソンが育成されます。
そこで今回は、ビジネススクールでも必ず学ぶ基本的な交渉テクニックを2つ、イメージしやすい身近な事例を交えてご紹介したいと思います。
foot in the doorとは、「まず顧客の心の隙間に足を挟み込め」と意訳できます。最初は顧客の要望を肯定しつつも、魅力的な提案を繰り返しながら、徐々に要求値を上げてゆく"足し算"の交渉手法です。
例えば、スーツを新調するため店に行ったら、予算以上のスーツを買ってしまった。そんな経験をしたことはないでしょうか?
それはまさしく、ショップスタッフの foot in the door の手法が成功した成り行きです。今は3万円台そこそこで仕立ての良いスーツが手に入ります。もちろんあなたもそのつもりで店を訪れます。ところが、4万円台のスーツになると生地が明らかに上質だったり、色合いが微妙に今風だったり。
さらに5万円出せば体形に合ったカスタムメイドのスーツがつくれると言う。となると、当初買おうとしていた3万円台のスーツが急に色あせて思えてくる。
結果、ワンランク上のスーツを買い「まずまず納得」というところに落ち着き帰ってゆく。これが foot in the door の交渉テクニックです。
door in the face は shut the door in one's face の略で、意訳すれば「門前払いを食い止めろ」となります。断られることを前提に、まず過大な要求を示して、断られたら当初の目論みまで要求値を徐々に下げてゆく"引き算"の交渉手法です。
身近なところでは自動車販売店のセールスが好例です。仮に、車両本体価格130万円の軽自動車を購入しようとした場合、数々のディーラーオプション込みで総額が190万円ほどの見積が出てくることも珍しくありません。
もちろんこれは盛りに盛った値引き前提の数字です。というのも、軽自動車の場合は車両本体価格からの大きな値引きができません。そこで、「値引き要求は必ずある」という前提に立ったセールスマンは、予め高額なオプションを組み込んだ見積を立てます。
結果、本体価格と比較してオプション価格がやけに高いものになる。そこから、比較的値引き率の自由度が高いディーラーオプションを徐々にアンダースペックなものにしてゆき、儲けの帳尻を合わせる。これが door in the face の交渉テクニックです。
日本人は交渉が上手くないと言われます。それはつまり、人が良くてウソがつけない日本人の国民性なのだと性善説的な解釈をする人も少なくありません。 そうした一方で、大切な商談で交渉が上手くいかずに残念な思いをした人も少なくないはずです。人が良くて込み入った交渉が下手なためにビジネスが成立しない。 これでは本末転倒です。また「損して得取れ」という諺がありますが、こうしたスタンスも交渉事には相応しくありません。 大きなプラスを求めてはいけないけれど、わずかなマイナスに目をつむってもいけない。これが交渉の大前提です。このあたりのさじ加減は経験を積むことでしか養えません。 今回ご紹介した交渉テクニックを様々なシーンで応用して、皆さんも高い"交渉力"を身につけてください。
個人的には、押しが強いセールスが苦手で、その気配が感じられた途端に拒絶反応を起こしてしまいます。したがって、そうしたタイプの方は、私との交渉の土俵に上がることはありません。 一方、人としての印象は良いけれど、説明を受けている途中で質問をすると、「 ~だと思います」という曖昧な態度のセールスも信用できません。 そんな私が、つい話を聞いてしまうのが誠実な若手です。決して話しが上手いわけでもなく、突っ込み所は満載ですが、中堅やベテランの強引さとは違った一生懸命さを感じます。 結果、契約に至ったことも度々あります。交渉にはテクニックが必要です。事案が大きくなれば、その必要性は増します。ただそれとは別に、顧客は、向き合う相手の人間性や本気度のようなものも探っているのです。