ラグビー人気に火がついた2015年のワールドカップ。大躍進した日本代表チームの
中心にいたのが五郎丸歩選手でした。彼の人気を後押ししたのがゴールキックの前に拝むように手を合わせる姿。緊張する場面で集中力を高めようとする五郎丸選手が見せたルーティンです。その一瞬が勝利を左右するかも知れないアスリートには独自のルーティンを持つ選手が大勢います。体操の内村航平選手は跳馬の前に両手を前に差し出すポーズをとります。また、現役時代の浅田真央さんは必ず左足からリンクに入っていました。
一方、ビジネスにおいて「ルーティン」という言葉は「決まった仕事を惰性でやる」と解釈され、ポジティブな意味で使われませんでした。その価値観が一変したのがAppleのCEOティム・クック氏やスターバックスのCEOハワード・シュルツ氏などが
実践している『早起きのビジネスルーティン』です。クック氏は毎朝3時45分起床、シュルツ氏は4時30分に起床して、その日一日の行動を頭の中で予行演習するそうです。両者の早起き習慣は、忙し過ぎる毎日の中で物事を冷静に考えられる時間の確保が目的で、判断ミスが許されないリーダーが生活習慣を見直すことで手に入れたルーティンと言えるでしょう。
有効なルーティンを得るためには、自分が取り組む事柄を行動科学の見地から見つめ直すことが大事だそうです。ポイントをかいつまんで説明すると、納得できるパフォーマンス(仕事)ができた時に自分はどんな事前行動をしていたかを思い返してみる。それと同時に、上手く力が発揮できなかった時の行動を比較して、そこにどんな差異があったかを明らかにする。その上で自分のパフォーマンスに良い影響を及ぼした事前行動を毎日の習慣にする。これがセルフコントロールに有効なルーティン獲得のセオリーです。
ルーティンは不変的なものではありません。事実、五郎丸選手は今、あれだけ話題になったあの儀式(ルーティン)を行っていません。当時はボールを蹴るまでに30秒以上かけていましたが今はその約半分。キャリアを積んだ彼は、短時間かつシンプルに集中力を高めてゾーンに入ることができるようになったからです。つまり、その時々における自分の実力や立場、精神状態などに合わせてベストパフォーマンスを発揮できるルーティンを実践し、そこから先は、それに固執することなくルーティンも変化させて新しいステージでの活躍に繋げてゆく。これがルーティン効果を長期的に活かしてゆく秘訣です。
ルーティンは"自己暗示"に過ぎません。「ここから始めれば必ず上手くいく」と、自分自身に行動をもって言い聞かせるのがその役割だと私は考えています。もちろんそこには裏付けや確証はありません。しかし、自己暗示の力というのは思いの他大きいことを私は体験的に知っています。そこを私なりに分析すると、ルーティンには"迷いの隙間を埋める"効果があるように思います。良い結果が出なければ迷いの隙間が生まれます。そこで何も手を施さなければその隙間は大きくなります。そんな時に成功体験に基づいたルーティンを持っていれば、その隙間を埋め、自分を信じることが出来る。これが自己暗示の力です。