プレゼンテーションの名手といえば、まず思い浮かぶのがAppleの創業者、故・スティーブ・ジョブズ氏。2007年のiPhone発表時のプレゼンはもはや伝説になっています。グローバル展開する企業では、新製品や新サービスのお披露目にあたって、この時のプレゼンをお手本にするCEOが少なくありません。
しかし、ジョブズのような"劇場型プレゼンテーション"は、あまりにもパッショナブルで、私たちが日頃行う営業プレゼンには参考になりません。そこで、ビジネスパーソンにぜひともお手本にしていただきたいのが、池上彰さんの"語りの技術"です。
今回は私の主観と解釈で、その代表例を2つご紹介します。
Ex.1「さあ...」という話のつなぎ方
池上さんはよく、本題に入る直前に「さあ」という言葉をはさみ、話の流れを一段ギアアップします。例えば「近ごろは水道の水が格段に美味しくなった。さあ、そこで飲料メーカーも考えたわけです」といった感じです。これを日頃の営業プレゼンに応用するなら「イニシャルコストは他社と変わりません。さあ、肝心なのはここです。ランニングコストに注目してください...」という使い方ができます。どちらの例文も「さあ」を抜いても意味は通じますが、差別化のポイントを切り出す場合は、直前に「さあ」と言って一呼吸おき、相手に話を聞く心構えを促しておいてから、一気に本題を畳みかけてゆく話法です。
Ex.2「...ですよね」という話の締め方
これぞ"池上話法の真骨頂"と言えるのが、話の最後に「ね」をつけた締めくくり方です。比較するものがあって、一方をやんわりと勧めたい場合などはこれが大変有効です。例えば「Aはお値段が張りますが作りはしっかりしています。逆に、Bはお安めですがやはり作りはそれなりです。さあ、いかがでしょう。長く使うことを考えれば、やはりAになりますよね」といった感じです。相手の思いが揺らいでいる時は強気に押さず、「あなたの気持ちは分かっていますよ」と寄り添う態度を示せば、押しつけにならず、安心感と説得力が生まれます。それを池上さんは、最後に「ね」をつけて締めくくる話法で実現しています。
池上彰さんの語り口に"やさしさ"を感じる方は少なくないと思います。実はここが池上さんの語りの上手さです。実際の池上さんは「歯に衣着せぬ」という言葉がピッタリくるほど、厳しいところを鋭く突っ込むジャーナリストです。それでいて嫌味が感じられず、万人に受け入れられるキャラクターを保っているのは卓越した話術を持っているからに他なりません。つまり、やわらかな言葉遣いで"やさしさ"を醸し出し、視点の鋭さをカモフラージュしていると考えられます。同様に、目論見があってプレゼンをするのでも、印象の良し悪しで説得力が変わります。こうした部分は池上さんの語りが大いに参考になります。
プレゼンテーションは論理的に行うことが大事だと言われます。それに異論はありませんが、倫理的であることを勘違いして、話を手短に済ませようとする方が少なくありません。結果、各論だけの羅列になって、どこが大事なポイントなのかが全くわからない話になってしまう。これではせっかくのプレゼン機会が台無しです。プレゼンに大事なのはストーリーです。そのストーリーを上手に展開するために必要なのが"語りの技術"です。今回は池上さんの語り口の特長から、多くの場面で応用できる2つの例を"話法"としてご紹介しました。この2つを使いこなせるようになれば、プレゼンに説得力が生まれるはずです。