ビジネス関連のWEBサイトを眺めていると「長文メールは嫌われる」とか「仕事ができない人ほどメールが長い」といった記事を見かけます。メールが長くなるのは、伝えたいことを端的にまとめるスキルがないからで、そうした人は会話をしていてもまわりくどくてイライラするなど、踏んだり蹴ったりの言われようです。そこで今回は、ソフトバンクの孫正義社長も社内メールで実践している「三行メール」の実用性をご紹介します。「どうもメールが長くなりがち」という自覚がある方は、ぜひ参考にしてください。
もともと三行メールとは、英語が苦手な日本人が英文でビジネスメールを書く場合に、相手に伝えるべきポイントを三行内に絞り込んだ簡素なメールのことだそうです。無理をして長文を書こうとしても、時間がかかるばかりか内容まで迷走してしまう。それならば、必要最低限に情報を絞り込んで、最小限の言葉で目的だけを的確に伝えようという合理性を追求したメールのカタチです。
それが今では、日本人同士のやり取りにも応用されるようになり、一部のビジネスマンの間で定着しているわけです。ただ一方で、「ビジネスマナーの面ではどうか?」と疑問視する人もいます。例えば下記の例文をご覧ください。メールの内容は『パートナー企業からのミーティング日時見直しの申し入れ』です。
件名:打ち合わせ日時変更のお願い
本文:〇月〇日10時に予定していた打ち合わせを、
〇月〇日15時に変更させていただきたいと思います。
ご検討ください。宜しくお願い致します。
この文末には発信者の氏名・会社名・住所・連絡先などの定型サインが入っています。しかしながら、ビジネスシーンで多用される「お世話になっております」といった常套句や、変更要請をするに至った理由等は一切記されていません。
さて、もし皆さんが、こうしたリスケ依頼の三行メールを受け取ったら、どんな気持ちになるでしょう?
素っ気なさを感じたり、「理由くらい説明しろよ」と腹立たしい気持ちになる方も少なからずいるはずです。ただ、よくよく考えてみれば、その理由を知ったところでどうなるわけではありませんし、先方は会ったときに事情を説明しようと考えているのかも知れません。反射的に書き始めてしまう常套句についても心からの言葉ではないことは、あなた自身が分かっているはずです。また、決定事項を一方的に通達しているわけではなく相手に検討する余地も与えています。そのように突き詰めて考えると、ビジネスマナー云々はともかくとして、「目的を伝える」というメール本来の使命は十分に果たしているようにも思います。
謝罪や経緯説明といった特殊な内容以外、大抵のことは三行あればまとめることができます。したがって、細かいことには目をつむり割り切って考えるなら、三行メールは実用性に長けたビジネス向けのメール手法と言えるでしょう。ただくれぐれも勘違いしてならないのは、三行メールは、プロジェクトをスムーズに進めてゆくための"実務者同士の共通インフラ"に過ぎないという点です。実務者間で求められるのは、型にはまったビジネスマナーよりも、スピードと正確さで、意図さえ正しく伝わるのなら箇条書きでも良いのです。しかし、若いうちから易きに流される仕事ぶりを「当たり前」と思い込むのは危険です。肝心なときに長文メールが書けなくなってしまい、後々、ビジネスマンとして大きな痛手になります。
冒頭に記した「短文メールVS長文メール」について私は、「メールを送る目的と相手との関係性によって使い分けるべき」と考えています。たとえば、著名人に取材の申し込みをする場合に、媒体名や取材希望日時など、要点だけを書き記した短文メールを送っても、よほど魅力的な条件(高額謝礼など)でない限り、まずレスポンスはありません。逆に、若干条件面が厳しくても、送ったメールから熱意や誠意のようなものが伝われば歩み寄ってくれるケースもあります。
逆に、三行メールの例にも挙げた「打ち合わせ日程の変更」という簡単な申し入れをするのに、本題に入るまでに知りたくもない"あちらの事情"が事細かに記された長文メールは、読み手をウンザリさせるだけです。つまり"何のために、誰に送るのか"を明確にして、それに応じて、伝えたいことを意図的に簡略化する力と、戦略的に拡大化する力、両方の"メール力"を培うことがデキるビジネスマンの条件です。