新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、コールセンターの需要が拡大しています。コールセンターの仕事は「インバウンド」と「アウトバンド」の2種類に分けられます。「インバウンド」とは、問い合わせやテクニカルサポートなど、かかってきた電話に応対する受動的な業務。「アウトバウンド」は、アンケート調査や、自社商品・サービスなどを売り込むために電話をかける能動的な電話業務です。
いま需要が増えているのは後者。コロナ禍にあって対面でのセールスに乗り気でない相手に対する後方支援が目的で、ある物流企業を親会社に持つコールセンターでは、急ピッチで人材拡充を図っているそうです。ここで問題になるのがコミュニケーターの資質です。これまでセールスとは無縁だった方々に、いきなり「これを勧めてください」と言うわけにはいかない。そこで必要になるのがトークスクリプトです。
トークスクリプトとは、顧客に対してセールスをおこなう場合、どのような流れでどんな話をするかを決めておく台本のようなもので、これまでにも、テレアポ営業や新入社員のOJTなどで活用されてきました。ところが、コロナ禍の影響によりさまざまな業種で、インサイドセールスの必然性が顕在化し、見込みの顧客に対しては、電話を軸として、メール、リモートツールなどを活用しながら、できる限り非対面での営業活動が推奨されるようになりました。この部分をコールセンターに代行してもらおうという企業が増えているのです。ところが運用に苦戦している企業も少なくないようです。
キープレスでコラムを持つマーケター清野裕司氏によると、インサイドセールスのターゲットは、あくまでも"潜在的なニーズを持つ顧客"であり、彼らが欲している情報をトークスクリプトに盛り込み、必要な時に提供して検討を後押しすることがその役割なのだとか。見当違いのターゲットから、どれだけ対面でのセールス機会を獲得できても、結果的には非効率な営業活動になってしまうケースが多いそうです。
また、ネット上には『上手くいくトークスクリプトのつくり方』といった内容の記事が満載ですが、提供商品やサービスとそのターゲットが異なれば、スクリプトの内容も当然ながら異なるため、必ずしも参考になるとは限らないと指摘します。肝心なことは、まず、ターゲット企業にとっての利益を明確にして、相手が「これは聞く価値のある話だ」と思えるようなスクリプトをつくり"電話を切られない"ことが最優先なのだとか。さらには、相手企業の課題やニーズに対して、似たような事例を挙げて話ができるよう綿密なリサーチ準備も欠かせないと言います。つまり、トークスクリプトとは本来、多くの人々が使いまわしできるようなものではなく、営業マンのスタイルが反映された"固有のもの"であるべきなのです。
著名人や企業経営者のインタビューをおこなうときは、綿密な事前準備をして質問シートを作成するわけですが、必ずしも期待通りの言葉が返ってくるとは限りません。そうした場合に備えて、逆の視点からの質問項目を用意しておくことがインタビュアーとしての鉄則です。インサイドセールスのトークスクリプトも同じです。スクリプトにはない想定外の質問を投げかけられて、頭が真っ白になって、しどろもどろになってしまったらそこでアウト。あらかじめ幾つかのパターンを想定したトークスクリプトを準備しておけば、顔が見えない相手でも対話の心構えができますし、似たようなシーンに遭遇しても焦らず対応できるはず。トークスクリプトの作成は、自分の営業スタイルを確立するトレーニングにもなるはずです。
学生時代、小さな広告代理店でテレアポ営業のアルバイトをやったことがあります。仕事内容はタブロイド判の新聞に「お店の告知広告を出しませんか?」という趣旨のものです。バイト学生に営業をさせるわけですからもちろんトークスクリプトらしきものもありましたが、成績はパッとしなかったと記憶しています。あれから数十年経って、時おり、テレアポの営業電話を受けることがありますが、トークの内容が昔とほぼ変わっていないことに驚きます。相手が話し始めた第一声から、「昔オレも、そんなふうに話していたことがあったんだよ」と思ってしまいます。ただ一方で、私が欲している情報にピンポイントでリーチしたトークであったとしたら、思わず「それで?」と、受話器を握り直してしまうかも知れません。