皆さんは"タイムマネジメント"という言葉をご存知でしょうか?「要するに、スケジュール管理と同じことでしょ」と考える方も多いと思いますが、タイムマネジメントは、それぞれの仕事の目標(仕上がり時間やクオリティなど)を立て、それを達成するため時間を最大限に有効活用し、仕事の生産性を高めるビジネススキルです。仕事内容によって仕上がり時間に多少バラつきがあっても、1日を通して考えれば結果的には効率が良く、何より「クオリティの高い仕事になっている」ところが、単純に仕事数で時間を割り出すスケジュール管理との大きな違いといえるでしょう。
近年は、デジタル化によりルーティンワークが減っています。そうした一方で、複雑化した間接業務が増え、「なかなか本業に注力できない」という声をよく聞きます。加えて、残業時間が減っていることから、1つ1つの業務を柔軟にコントロールしながら、質の高い仕事ができるスキルが求められているのです。
タイムマネジメントを実践する上でポイントとされるのは、"1時間を1つの単位"として考え、その中で自分の能力を最大限に発揮できるよう意識することです。実はこれに近い取り組みを、すでに皆さんも体験しているはずです。例えば、週末のナイターのチケットが手に入ったとしたら、その日までに仕事を積み残さないよう調整するでしょうし、当日も常に時間を意識して仕事をするはずです。タイムマネジメントは、まさにこうした感覚で日々の仕事に取り組むことと一緒です。
また、1日に取り組むべき仕事の優先順位を決めて、プライオリティの高い案件から順に多くの時間を割くことも大事なポイントです。同時に、それをどのレベルで、何時までに仕上げるのかを決めることも忘れてはなりません。もちろんプライオリティの低い仕事についてもおざなりには出来ないため、"まとめて手がける仕事"として別枠でタイムキープしておくと、一日の仕事量がコントロールしやすくなります。
さらに、管理職が部下の仕事をタイムマネジメントする場合には、部下が掲げた目標の進捗状況を把握することはもとより、どんな悩みを抱えているかをも詳しく知る必要があります。特別に悩みはなく順調に進んでいる場合は、より高い目標を目指せるようなアドバイスをすると良いでしょう。進捗が芳しくない場合は、その原因を部下と一緒になって突き止め、悩みのタネを取り除くフォローも大事です。
また、タイムマネジメントの導入によって、組織全体の業務効率の均一化を図ろうと思うなら、個々の主体性に任せているだけではだめです。まずは管理職自らがタイムマネジメントを実践して「仕事に追われている」という感覚を軽減させ、精神的な余裕を持って組織全体にそれを浸透させる働きかけが必要です。
2020年は『タイムマネジメント元年』と言うことができるでしょう。それ以前も、"働き方改革"の中で「残業を減らす1つの手段」として度々名前が挙がっていたタイムマネジメントですが、コロナ禍でテレワークの普及により一気に認知度が上がり、導入にあたっての研修会やマネジメントの手法を解説した書籍などが目につくようになりました。その結果、自律的な若手社員がキャリアアップし、ニューノーマルな働き方へ踏み出すことができた会社も少なくありません。そして、導入に成功している会社のほとんどは、先にも記した通り、会社ぐるみでタイムマネジメントに取り組み、管理職クラスが先頭に立って旗振りをしている会社ばかりです。こうした会社は、近い将来テレワークが解けて、全社員がオフィスに戻ってきたときにこそ、あらゆる面で強みを発揮し、力強い成長を見せることは間違いないでしょう。
わたくし事で恐縮ですが、この10月で会社から独立して25年目を迎えます。つまり私は、タイムマネジメントの"超ベテラン"ということになります。独立して仕事をするということは、他人から管理されることもなく、自由に仕事ができるということです。「気分が乗らないな」と思えば、仕事の手を止めて映画を観に行ってもいいし、昼間からビールを飲んでうたた寝していても注意されることはありません。なにしろ自由なのです。しかし、そんな自由を享受し過ぎて"退場"を余儀なくされた同業者を数多く知っています。この原稿を手がけながら、改めて25年を振り返ってみたところ、これまで仕事人としての私を支えていたのは、「曲がりなりにもタイムマネジメントができていたから」と、思い至った次第です。