将棋界最年少の19歳1カ月で三冠に輝いた藤井聡太さん。昨年おこなわれた叡王(えいおう)就位式の会見で、「5番勝負は決断よく指すことを心掛けた。その方針通りに指すことができ、良い結果につながった」と喜びの気持ちを言葉にしました。藤井さんは常々、「スリリングな展開で求められるのは決断力。全ての手を読むことはできないので、選択することも大事になる。自分を信じてやるしかない」と話しています。将棋で言う決断力は,無数にある選択肢(駒の指し手)から1つの正解を選ぶ能力のこと。頼る味方がいない1対1の勝負において、決断力は勝利を導く武器になります。藤井さんのみならず、渡辺明名人、豊島将之九段といった将棋界の若きリーダーたちは皆、優れた決断力を発揮して勝利の山を築いています。
物事の決断は、その根拠となる情報の正確さ次第で結果の良し悪しが決まります。決断を迫られるたびに新たな情報を取り込み取捨選択することが必要ですが、それがスムーズに出来るようになるには経験が必要です。もとより、自分が下した決断に自信が持てない人は、「決断の場数」が不足していることが原因であると思われます。特に仕事上の決断は周囲の関係者にも影響が及ぶため、決断慣れしていない人は思い切った決断が出来ない人が多いように思います。そうした人は、身近な出来事から経験を積み重ねていくと良いでしょう。例えば、昼のランチメニューを前にしてなかなかオーダーが決まらず、結局は「右へ倣え」で注文してしまう人は、自分の意思でオーダーを決めることなども訓練になるはずです。そういった小さな決断を数多く重ね成功体験が増えていけば、いろんな場面で決断できるようになっていくはずです。
先に紹介した「新聞記者の決断プロセス」を数年前に初めて知った時は目からウロコで、誤った情報を発信できないジャーナリズムの厳しさを垣間見た思いでした。決断するのが苦手な人は、ぜひこのプロセスに則ってスキルアップに努めていただきたいと思います。
僭越ながら私は、このプロセスに1つ縛りを設けたいと思います。それは、一連のプロセスを時間を区切っておこなうこと。つまりプロセス完了までの"締め切り"を設けることです。特に状況把握や原因究明などは、決断の土台を固めるとても重要な段取りです。ただ私の経験上、ここに時間をかけ過ぎると思考の迷路に迷い込み、いつまでも対策が練れない、決断できない、という事態に陥ってしまいます。しかし時間的な縛りがあれば、自ずと情報収集や思考スピードが速くなり、決断までの時間が短縮されます。