今年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)決勝直前、ロッカールームで円陣を組んだ侍ジャパンの中心で、大谷翔平選手はチームメイトにこう檄を飛ばしました。......「(相手は)野球をやっていれば誰でも聞いたことがある選手たちです。でも、憧れていては超えられません。僕らはトップになるためにここに来たので、今日だけは彼らへの憧れを捨てて勝つことだけを考えていきましょう!」。結果は皆さんもご存知の通り、日本がアメリカを破り世界一の座を掴み取りました。ただ個人的にはその栄冠より、先の大谷選手の言葉が強く印象に残りました。
大谷選手のマインドの土台にあるのは、母校、花巻東高校野球部の佐々木洋監督の「先入観は可能を不可能にする」という言葉だそうです。相手の実力は認めつつも、最初から「勝てっこない」とか「出来るはずがない」などと自分で限界を設けず、臆することなくチャレンジすることが大事。その結果がWBC優勝であり、「絶対に不可能」と言われていた"二刀流"でのメジャーリーグ大活躍に繋がっているのです。
経験は人を成長させます。その一方で経験があるが故に固定観念が邪魔して、行動や判断を遅くすることもあります。昨今のビジネスは目標を達成するために行動力やスピード感が欠かせません。その足を引っ張るのが固定観念のもととなる先入観です。とくにベテラン社員はこれまでたくさんの経験をしているため、新しいことに挑戦しようというときに慎重になり過ぎてスタートが出遅れがちです。
また、別の人から仕事を引き継いだ時に、前任者のやり方をずっと続けている人がいます。最初のうちはやり方を踏襲する必要があるでしょうが、慣れてきたら「このままでいいのかな?」と自己ツッコミを入れて自分なりのやり方を考えるべきです。ところが先入観にとらわれていると、改善すべき点があっても見逃して効率的の悪いやり方を続けることになり兼ねません。先入観はビジネスにおいて確実に障害となります。
仕事柄私は著名人の取材をすることがありますが、メディア等での発言を見聞きしていて「ブスっとしていて、この人やりにくそうだな」と憂鬱になることがあります。ところが実際に向き合ってみるとそんなことはない。むしろ想像していた以上に丁寧だったり論理的に話しをされる方だったり。そんな時は、いかに先入観がアテにならないかを実感します(中には先入観通りの方もいます)。
ただ1つだけ、先入観を持ったからこそのメリットもあります。どれだけ相手が口下手で態度が悪かろうが、話しが聞けなくては仕事になりません。そこで、悪い印象を持つ相手には、より深く相手のことを調べ、いろんな角度から質問が出来るよう準備をします。結果、その場が盛り上がり記事の内容も深いものになることもある。対人関係でネガティブな先入観を持った相手に対しては、より慎重に接するよう心がけています。