創造力を磨いて自分の市場価値を高める
ニーズの多様化が言われ変化が著しい現在のビジネス環境において、企業がサバイバルするうえで「創造力」は不可欠な要素です。創造力とは、従来の考え方やアプローチにとらわれずに新しいものを作り出すスキルのこと。ゼロから新しいものを作るだけではなく、既存の概念に工夫を施したり、新しいアイデアを組み合わせたりしながら形を変えて、さらに高い成果を生みだすことも創造力の1つです。ここで大事なポイントは「新しいだけではビジネスシーンでは認められない」という点です。新しさに加えて、その時代の潮流や企業風土に相応しい価値を持っていることが創造力の必須条件です。
例えば、これから日本企業の多くでは少子高齢化に伴う人手不足が深刻な問題になります(すでにその予兆は顕在化しています)。それを解決するには「今までよりも少ない人数で生産性が上がる仕組み」を構築しなくてはなりません。そのためには、DXの推進や外国人の雇用など革新的なアイデアをベースとして自社のプロセスを見直す必要があります。これを実現するためには、非常に高い創造力が求められます。
アメリカを代表するソフトウェアメーカー・アドビシステムズが、G5(先進5か国/アメリカ・イギリス・ドイツ・フランス・日本)のビジネスパーソンを対象におこなった調査で、非常に興味深い結果が出ました。「あなたの個性を表す言葉は?」という質問に対して「Creative」にチェックした人の数は日本が最下位でした。ところが、「最もCreativeだと思う国は?」という問いに対しては、日本が断トツの1位という結果でした。つまり、日本は海外から「創造的な国」と思われているにもかかわらず、日本人は「自分たちの創造力に自信が持てない」ことがこの調査で浮き彫りになったのです。
創造力を発揮して仕事が出来るのは、「センスや才能といった先天的な資質を持ち合わせているから」と考える日本人は少なくありません。心理学ではこれを「創造性神話」と呼びます。そして「神話」を信じている人の多くは、その先入観から創造力を発揮することを諦めていたり、相手に創造力を求めなくなったりします。しかし創造力は、先天的な才能ではなく、努力や行動によって後天的に身に付けられるものです。
創造力を鍛えるポイントは、第1に「仕事人間からの脱却」です。仕事への熱心な取り組みは特定分野の専門性を高めたり、高い評価を受けやすい一方、「付き合いが悪い」「その分野の知識しかない」というマイナス要素も含んでおり、「知のバランス感覚」が保たれません。「ワークライフバランス」という言葉がある通り、「ワーク知」と「ライフ知」の好循環はプライベートの充実のみならず仕事にも相乗効果をもたらします。つまり、仕事以外の「未知なる知」との出会いが創造力を高める手がかりになります。
第2には「外の世界に触れること」です。同じ世界に閉じこもっていては「未知なる知」と出会うことが出来ません。いつも断っていた飲み会に参加してみる、英会話教室に通ってみる、週末に有給休暇を加えて小旅行に出てみるなど、積極的に外の世界に踏み出すことが創造力を養うことになるのです。
第3のポイントは「他者との協働」です。ビジネスにおいて「自分一人で答えを出すこと」はとても大事なスキルですが、固定概念にとらわれたままでいるとフレッシュな発想は生まれにくくなります。多様な意見に触れて、さまざまな可能性を考え、自分の思考を柔軟にしておくと発想の幅が広がります。協働する中でこれまでとは違う思考方法や新たな発見や気づきが得られ、創造力に磨きをかけることができます。
とかく日本人は「創造力」という言葉に対して高尚なイメージを持ちがちです。しかし創造力は特殊な才能を持つ人だけのものではなく、日常生活や仕事の中で誰でも培うことが出来るスキルです。そのためには、新しいことに興味を持って積極的に学ぶ姿勢が大事。能動的に人と関わり、異なる分野の知識を取り入れることで創造力の土台は築かれます。また、異なる分野の人や知識、技術を組み合わせることでイノベーションが生まれることも少なくありません。その最たる例がスマートフォンです。スティーブ・ジョブズは、携帯電話とパソコンという関連性の薄い分野を組み合わせたことで多機能なデバイスを誕生させました。創造力を発揮するためには「こうあるべき」といった固定概念を捨て、既存の枠にとらわれずに柔軟な思考を持つことが肝心。創造力を磨くことは自らの市場価値を高める上でも大きな意味を持ちます。
ビジネスライター 吉村高廣の視点
皆さんは「仕事がはかどる」のはどんな時でしょう?私は、出張時の新幹線で仕事(原稿作成)をしていると効率良く作業が進みます。これは恐らく、環境が整っているオフィスでじっくり腰を据えて仕事をするのとは違い、制約(時間や場所)があり、普段とは異なる刺激があることで創造力が高まっているからだと思います。制約があると、限られた条件の中でより早く最適解(原稿の落としどころ)を見つける必要性が生じます。その結果、集中して深く考えることができ、1つの思考に執着せず異なる視点やアプローチを次々と試すことが出来ます。つまり、普段から意図的に制約を設けて仕事をする(仕事のみならず、「X」旧Twitterの280文字制限の中で端的なポストを考える)ことは創造力を鍛える訓練になります。
■記事公開日:2024/09/24
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=Adobe Stock